第23話 マーガレットとパトラ
マーガレットは、エアークラフトにマティーレを乗せて、
「マティーレ、耳長種族は魔物の赤い石に興味があるようだけど、理由について推測できる?」
「万能回復薬を、製造する為と思います。」
「万能回復薬を製造する為?」
「もしかしたら、魔物の食い散らかした魔獣や動物の死骸から、病気の気が出たのかも?」
「病気の気とは?」
「人も家畜も病気になり、死んでしまいます。去年私の両親は、その病気で死んでしまいました。
本当は五本分との引き換えは百二十個必要でしたが、村にある百三個の赤い魔石で五本の万能回復薬と交換していただいたのです。
それでも全員には少な目でしたので、四倍に薄めて二十人の病人に飲ませたが、五人の重い病気の人は死んでしまいました。お願いできるなら、耳長種族をも助けてほしいです。」
「魔物の赤い石だと、どの位の人を助けられる。」
「人間の国一つ全員と聞きました。」
「五千万人!」
「去年、耳長種族は猫亜人の集落全部をまわり、赤い石を買い集めていました。今年はもう集めきれないでしょう。」
「魔獣や動物の死骸を、焼き払えなかったの?」
「魔獣や動物の死骸に近づけません。十メートル手前で倒れ、五メートルで死にます。腐肉が骨になるまで病気は続きます。」
「耳長種族は、ここに移住してくださらないかしら?」
「ここはいい所です。マーガレット達は他の人間達と違いいい人です。それを理解してもらえれば、今なら可能かもしれません。」
「今なら?」
「耳長種族は畜産で生活しています。既に人が病気なら、家畜は死んでしまっていると思います。生きていても、牧草には毒が付いていると思います。」
「では会見は、最上階の展望室で行いましょう。」
「草原を見せつけるのですね。」
「マティーレ。展望室に貴方と閣下は、同席してもらいます。準備していてください。」
マーガレットは高機動トラックに乗り換えて、艦の前でマティーレを降ろすと、最上階の展望室へ鹿島とマティーレと自分を含めて、窓を背に席を用意するよう、八人分の席とテーブルを頼んだ。
そして、彼等の好みの飲み物、甘い食べ物を八人分用意するようにも頼んだ。
マーガレットは鹿島に無線で、
「閣下、長身の色白美貌な耳長種族女性等五人が、会見に現れました。魔物の赤い石を持ち、艦のVIP展望室にお越しください。」
と言って、鹿島は美人好きとの噂があるので、マーガレットは長身の色白美貌を強調した。
マーガレットは慎重な性格とは裏腹に、高機動トラクックを高速回転させて、耳長種族等を迎えに向かった。
マーガレットは耳長種族に自分達の力を見せ付けて、圧倒させる作戦で会見する事とした。
そして、提督代理の宛に出来ないであろう外交交渉をも、ある程度は知る機会ではとも思えたが、輸送作戦中の彼の交渉対応に失望感だけが思い出された。
パトラは、先程の人間の女が、凄い速度の荷車だけで動く魔法の乗り物で迎えに来たのには驚愕した。
こんな魔法など聞いたことも、ましてや目の前にある荷車だけで動く乗り物魔法力さえも信じられなかった。
パトラは、魔法力の強そうなマーガレットとの交渉は、魔物の魔石と我が身との引き換えに応じてくれるのだろうかとの不安があったが、自分の持っている人をたぶらかす能力を発揮できれば、絶対に可能だとの決意をしていた。
パトラは、マーガレットが高機動トラクックを耳長種族五人の前に着けると怖気づいてしまったが、勇気を出して乗り込んだ。
魔法の乗り物は風を切り、暴走しながら白い建物に着いた。
パトラは白い建物を見上げて、大きい!高い!窓は透明のガラスで、どの国の王宮より三倍も四倍あると思えた。
マーガレットは、耳長種族を艦の中央入り口、十メートル手前で五人を降ろすと、艦の大きさを見せるようにしながら、エレベーターでの案内中、間も無く魔物の石が届くことを知らせた。
五人の耳長種族は、王宮と思える建物に案内されて進んで行くと、質素であるが強烈な光魔法の照らされた、明るい清潔な廊下を通り、何も無い壁の前で立ち止まった。
五人はドアなどないと思った壁が、ゆっくりと独りで開き、椅子もテーブルもない小さな部屋に入ったら、五人が入り終わるとドアはまた壁になった。
窓のない小さな部屋も強い光魔法で昼間のようである。
部屋は動いているような感じもするが、囚われの身になったのではとパトラは不安になった。
マーガレットはエレベーターを降り、耳長種族五人を最上階のVIP展望室に案内した。
正面三方は壁などなくて、全て透明のガラスで遠くまで見渡せる部屋である。
耳長種族五人を招待する最上階のVIP展望室席は、既にマティーレにより出来ており、五人分の席の中央に、リーダーと思しき長身の色白美貌な、耳長種族女性パトラを案内した。
展望室に案内されたパトラ達五人は椅子に腰掛ける出なく、正面三方は壁などなくて、全て透明のガラスで、遠くまで見渡せる部屋に案内された事で、茫然とした顔で外と見合しているのは、まるで高い山の上からの絶景であるからだろう。
耳長種族男性四人は、マーガレットの席背後ろに回り、外の草原をパンパと呼び、草原地帯の水平線までの広さに驚かされた様で、感激の声を出した。
耳長種族にとって闇の樹海の周りは、豊かな土壌で牧草の質も良いパンパであり、あこがれの土地であった。
五人はマティーレに席につくよう声掛けされたが、壮大な眺めに圧倒されて、誰も席に座ることができない様子である。
遠くに大河が見え、耳長種族憧れのパンパが地平線まで伸びて、目の前から草原が広がっている。
四人の男たちは遠くの大河沿いに白い壁を見つけ多様で、マーガレットの背中側の窓ぎわでの小声は、闇の樹海から大河に沿って白い紐の様なものが気になったのか、石の壁のようだと囁き合っているのだが、マーガレットには聞き取れなかった。
五人が草原に圧倒されている中に、鹿島は手に四十センチ位の卵型魔物の赤い石を持って、展望室へ無表情で現れた。
五人は憧れの壮大なパンパに見入っていたが、人間歳二十~一、二の青年が入ってきたのに気づいたようで、五人は暫く鹿島の手にある赤い石に注目するように見入っていた。
五人は赤い石の大きさに驚いたようであるが、慌てて窓際にいた四人は用意された席の前に並んだ。
マーガレットは、鹿島を色白美貌なパトラの前席へ案内した。
そして鹿島は、魔石を自分のテーブルの前に置くと、パトラと向かい合わせる様に此れ見よがしの様に置いた。
耳長種族は、これが魔物の赤い石だと直感した。
五人はこれ一個で、全耳長種族や人間の国一つ分の住民全員に万能薬を配ることが、出来そうであると計算しだしていた。
マティーレが水差しに、オレンジジュースとぶどうジュースと麦茶を三個用意して、氷の入ったガラスのコップを皆のテーブルに並べて行き、一人一人注文を聞いて、皆にどのジュースか麦茶かの希望を聞いてきたので、パトラは麦茶を注文した。
マーガレットと鹿島や自分のコップには、黙って三種類の飲み物を、別々に並べていくのは、安全であるとの無言の表明であろう。
マティーレは気の利く賢い娘である。
パトラは、猫娘マティーレをただの下働きと思っていたら、責任者の一人である女性マーガレットと親しげに話しており、いろんな相談もされているのには理解出来ないでいた。
それに猫娘マティーレは魔物の赤い石を持ってきた男に麦茶を注いだら、男にもお礼を言われている。
猫娘にお礼を言う、その若い少年顔の男が指導者だと言うのには、パトラは更に驚かされた。
人間種族は亜人に対しては傲慢で、見下すうえに殺してしまうのが普通であり、ましてや指導者たるものが猫亜人の娘に対して、お礼の頭を下げるのは異常である。
この異国の魔法使いたちは、個人の尊厳をもって猫亜人達に接しているようであると、パトラは理解するしかなかった。
五人に出されたお菓子には、蜜の香りとほのかな甘さがあり、妖精ハチドリの巣から取れた蜜を使用したと教えられた。
妖精ハチドリの巣は、老樹木以外どこにもないはずであるが、どんな魔法で妖精ハチドリを呼び、ここ砦の中に百個以上あるのかがパトラには不思議であった。
マーガレットはマティーレを傍に呼び、同席するよう要請して、自分等二人の紹介を頼んだ。
「ここの指導者で、ガイア様に愛された人で、証拠はご覧のように妖精が避けずに寄って休憩している。シン.カジマ提督です。」
と、マティーレは言い出して、マーガレットの手を握り、
「私の上司で、優しい交渉担当者のマーガレット.パラベシーノ総司令官殿です。
私は、総司令官殿の秘書でマティーレと言います。」
長身の色白美貌な耳長種族女性の名は、パトラと言い、一族長の娘で病気の父に代わり、すべての決定権がある旨を伝えた。
周りの四人は彼女の従兄弟と紹介された。
パトラは三人を見回すと、若い少年顔の男をたぶらかす事は出来そうだが、マティーレとマーガレットの眼光を見て、たぶらかす自信は薄れてきていた。
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