第30話解決編・其の2

「いえ、みなさん。補欠さんはつづりを間違えたんではありません。この『dining message』というつづりには深い意味があるんです」


 かい子の推理に驚き役が色めき立つ。


「どういうことだ」

「そのつづりにどんな意味が」

「あいつはその間際に何を伝えようとしたんだ」

「早く教えてくれ、ガイドさん」


「いいですか、この部屋は十六角館を建てたと言う優しいおじさんが年に二回やってきて過ごすための部屋。ここには朝食用、昼食用、夕食用の祭壇が設置されています。床に残った血痕からすると、補欠さんは犯人にけがを負わされた後その祭壇を順番に這いずり回って最後にベッドに横たわったと推理できます」


「なんでわざわざそんなことを」

「ガイドさん、あいつのその行動にはなにか意味があるのか」

「いまにも死ぬ寸前だと言うのにそんな面倒なことをしたんだ。きっと意味がある」

「それはいったいなんなんだ」


 周りの言葉を聞きながら、かい子は得意げに説明を続ける。


「いいですか、ここで重要なのは『dining message』と英語で書かれていることです。と言うことは、補欠さんはこう言いたかったんです。『I ate breakfast. I ate lunch. I ate dinner.』と。『わたしは朝食を食べた。わたしは昼食を食べた。わたしは夕食を食べた』と『eat』の過去形である『ate』を用いて」


「それにどんな意味が」

「早く続きを聞かせてくれ」

「あいつのダイイングメッセージの意味を教えてくれ」

「ガイドさん、もったいぶらずに」


「そして、優しいおじさんがこの十六角館の戻ってくること日がハロウィンの十月三十一日ととクリスマスの十二月二十五日であることが重要になります。いいですか、十月三十一日と十二月二十五日を英語で表記するとこうなります。October 31とDecember 25。これはこのように略されます」


 OCT 31 DEC 25


 かい子は『October 31とDecember 25』と言った後、補欠のまだ乾いていない血液で床にそう書いた。補欠よ、お前は死んだあとでもこうしてかい子の推理の披露に役立っているぞ。チームのための下働きなんておためごかしを言っていたお前にぴったりの役割じゃないか。


「いいですか、みなさん。ここで重要なのは、『OCT』と言うのはオクタ、『DEC』と言うのはデカに由来し、オクタは8、デカは10を意味する接頭語だと言うことです。


「そういえば、タコは8本足だからオクトパスだと聞いたことがある」

「それならなんでオクトーバーが8月じゃなくて10月なんだ」

「ディセンバーだって12月じゃなくて10月じゃないとおかしいんじゃあないのか」

「それもそうだな」


 不思議がる連中にかい子が解説する。


「それは、もともと3月のマーチが年の始まりだったんです。3月は春で季節の始まりと言うことで。しかし、ジャニュアリーが始まりをつかさどる神ヤヌスに由来すると言うことで 、ジャニュアリーが1月になったんですね」


「なるほど」

「しかしそれとダイイングメッセージに何の関係が」

「早く教えてくれよ、ガイドさん」

「犯人は本当に先生なのか」


「ですから『OCT 31』は 8が3個に余りが一つ、つまり8×3+1となります。つまり、『OCT 31』は8進数で31、つまり10進数で8×3+1=25と言うことなんですね。これは『DEC 25』と一致します」


「すげえ!」

「そういえば、島に来た時二人の女の子が手を時計回りに斜め45度ずつ8方向に回していたな」

「それに注目したら『OCT 31』は『DEC 25』と同じってことになるのか」

「こんな偶然があるのか」


 そうだ。お前らリア充は俺のような引きこもりを『ハロウィンだろうとクリスマスだろうとパソコンとにらめっこしているから同じだな』なんて嘲り笑ったが、この通りハロウィンもクリスマスも一緒だなんてことは昔から決まってたんだ。


「そうです。補欠さんは『eat』の過去形である『ate』と数字の8の『eight』が同じ発音であることを利用してこの部屋の暗証番号をあたしたちにダイイングメッセージとして伝えたんです。最後にベッドに横たわったことがあまりの1だったんですね」


「なんだって」

「あいつ、自分が死ぬって時にこんなに手の込んだことを」

「よくもまあ閃いたな」

「火事場のクソ力ってやつか」


 そのダイイングメッセージを考え出したのは俺だ。そんなに褒めるな、照れ臭い。


「その証拠に……皆さん、いったん部屋を出てください」


 かい子に促されて俺たち全員が部屋から出ると、かい子がいったん扉を閉めてから00025と入力してボタンを押す。


「あ、ガイドさん。そんなことをしてもし間違っていたら」

「危険だよ」

「わざわざそんなことをしなくても」

「あぶない」


 俺とかい子以外はそうあわてるが、扉は問題なく開く。当然だ。俺がこの部屋の暗証番号を00025にしたのだからな。

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