第12話到着

 さて、かい子が発生させた嵐でクルージング船が十六角館のある島に漂流した。サッカー部の連中にクソ教師は全員気を失っている。よし、今のうちだ。


「かい子、俺たち二人を実体化させてくれ」


「了解です、アラタ様」


 俺の指示でかい子が俺とかい子を実体化させる。よし、気絶している連中を目覚めさせるか。


「みなさま、嵐は収まったようですよ。どこかの島に流れ着いたようです。ほら、目を覚ましてください」


 俺が暴風雨の中で苦しめさせた連中が次々と意識を回復していく。みんな船に自分を括り付けたロープをほどいていく。


「やれやれ、ひどい目にあった」

「おおい、みんな生きているか?」

「どうやら全員命はとりとめたようだよ」

「そいつはよかった。不幸中の幸いだな」


 そうだ、誰一人として死なせはしない。こんなところで一人でも死なれるということは俺の計画に反することになるからな。


「どうやらどこかの島に漂流したみたいだぞ」

「スマホは……だめだ。嵐のせいで使い物にならなくなっている」

「それじゃあ、ここがどこかはわからないな」

「なんてことだ。今どきスマホがなかったらどうにもならないよ」


 そして、もちろん嵐の最中に全員分のスマホは使用不可能な状況にさせてある。スマホなんてものがあったら俺がせっかく仕込んだ暗号も簡単に解読されるし、三人目の被害者に残させる予定の意味ありげなダイイングメッセ―ジもあっという間にその意味を知られてしまうからだ。これでは風情も何もあったものではない。


 そんな中、かい子がそこらに生えている植物をしげしげと見て回る。よしよし、俺の台本通りだ。


「この植生……これは間違いありません。まさか、こんなことが起こるなんて」


「どういうことですか、ガイドさん」


 かい子の芝居にトップ下が引っかかる。そうだ、それでいい。かい子よ、俺の脚本にのっとってこの島がどういう島であるかを全員に説明するんだ。


「この島は、外界から完全に隔離された島なんです。国境問題とか、環境保全の問題で太平洋戦争が終わってから誰も新しく上陸していないんです」


「つまり、ここは無人島と言うことですか、ガイドさん」


「違います、トップ下さん。衛星写真や無人飛行機の観測でこの島には何百人もの原住民が生息していることは確認されているんです。ですが、先程も言ったように国境問題とか、環境保全の問題から外部からの侵入が今まで行われていないんです」


 そういうことだ。この島では俺の子孫がしっかり繁栄しているのだ。当然のことだが張本人の俺はそれを知っている。しかし、かい子のトップ下への説明を聞いて、ほかの連中が慌てだす。まあ、いきなりそんなことを言われたらそうなるのも無理はないだろう。


「なんだって、このご時世にそんな島が」

「そんな。つまり、現代文明から遮断されていると言うことか。冗談じゃないぞ、そんな原住民がどんな野蛮な文化を持っているかわかったものじゃない」

「そうだ。言葉が通じないかもしれないし、ひょっとしたら人食い人種かもしれない」

「あああ、なんだってこんなことに」


 そんなふうに俺やかい子以外の人間が絶望している中、どこからともなく歌が聞こえる。絶海の孤島に漂流したと思ったら、そこには原住民がいてなにやら怪しげな伝統的な音楽や踊りが伝えられている。これこそ本格ミステリーだ。俺好みの展開になってきた。


「れい、いち、にー、さん、しー、ごー、ろく、しち」


 そう。俺が過去でれいといちの双子に教えて、現代まで伝承させるように言い残した歌だ。よし、しっかり伝承されている。れいといちは俺の言いつけを守ったんだな。しかし、俺やかい子は事情を知っているがその事情を知らない俺とかい子以外の連中はとたんに動揺しだす。


「これは……日本語の歌か?」

「なんでこんな外界から遮断された島で日本語が?」

「そんなことはいい。言葉が通じるなら希望はあるぞ」

「みんなで声がする方に行ってみよう」


 というわけで、俺たちは声がする方に向かっていくことになった。その間も歌は続いていく。


「はち、きゅう、じゅう、じゅういち、じゅうに、じゅうさん、じゅうよん、じゅうご」


 懐かしい歌だ。この歌に合わせて俺の子孫が俺の教えた二進法ダンスを踊っているかと思うと胸が熱くなる。二人組で右手と左手を挙げ下げするあの踊りだ。さあ、次の歌詞は英語の数だったな。ゼロ、ワン、ツー、スリーと数え上げられていくはずだ。


 そう思っていると、俺の目に二人の俺の子孫が躍っている様子が目に入った。しかし、その踊りと歌詞は俺が教えたものとは異なるものになっていたのだった。

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