第15話 順調、楽勝! ……とばかりはいかないようで

 「近いね」

 

 那波ななみが呟いて間も無く、少し先の曲がり角から大きな蛇が顔を出した。

 

 「ビッグスネーク!」

 「じぇ~!」

 

 モンスターの種類を認識した美羽みうの声に反応するように、ジェイが前へと出て飛び掛かってきたビッグスネークの牙を盾で受け止める。

 

 「あ! もう一体います!」

 

 さらにもう一体のモンスターが角から現れ、短剣を抜いたさいが警戒する。

 

 「ゴブリンだね、あれは任せて」

 

 落ち着いた声で答える那波は、剣を持った右腕を振り上げ、言い終わると同時に振り下ろして投げ放っていた。

 

 「えっ!」

 「グゲェ」

 

 才の驚きの声と首から剣を生やしたゴブリンの苦鳴が重なり、すぐに剣は空気に溶けるように消えて、続けてゴブリンも同じように消滅する。スキルによる生成物である那波の剣も、モンスターであるゴブリンもどちらも魔力が固化したものであるために、形を維持するものを破壊されるか切り離されればそうなるのだった。

 

 そして才が視線を戻すと那波は既に動き始めていた。その手には次の剣が握られ、ジェイが抑えるビッグスネークへと駆け出す一歩には迷いがない。

 

 「ッシ!」

 

 鋭く息を吐いた那波が振るった剣閃がきらめき、続いてビッグスネークの頭部が胴体から零れ落ちる。そしてその頭部が地面につく前に胴体ごと消滅し、後に残った那波が右手を軽く揺すると召喚された剣はすっと消えていく。

 

 「す……ご」

 「すごいよねぇ、ななみの動き。あたしにはとてもできない」

 

 周囲を警戒して不測の事態に備えていた美羽も緊張を解いておどけた物言いで驚嘆する才に同意する。しかしその言葉に込められた尊敬の念は本心からだと才にも感じられた。

 

 「あはは、褒められると照れるよ。こんな狭い場所で素早いモンスターだとまあウチの頑張りどころだしね」

 「(あ、そうか……、だから今ジェイさんは……)」

 

 照れ隠しも含みながらの那波の言葉に、才は内心で納得していた。圧倒的に強いはずのジェイが盾しか持たなかったとはいえモンスター一体を足止めしかしていなかった。どこか慎重というか遠慮がちな動作をしているようにも見えていたのは、このダンジョンの地下通路を崩落させないように気を使っていたからだった。

 

 「(そっか、そうだよね。ジェイさんにも得意不得意があるよね)」

 「じぇ?」

 「ううん、大丈夫。それより盾役ありがとうね」

 

 仮面の特殊ゾンビという圧倒的な力を不意に手に入れた才は、本人も気付かない心の奥底で傲慢という毒に侵されかけていたが、ここで本来の冷静で謙虚な思考を取り戻した。少し落ち込みかけた才であったが、自身を心配して気遣うジェイを見て、気を取り直すのだった。

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