第9話 何をすればいいかわからないけど、何かを始めよう
ガットムへの道中俯いていた
「あ、えっと、その、気を使わせてしまってすみません……」
才から謝られた
「気にしてないから大丈夫だよ。こう言っちゃなんだけど、冒険者とかしてると訳ありの人とか結構いるしね」
「もう! ななみったら変な事言わないでよぉ。あ、けど気にしてないのは本当だよ」
「……ありがとうございます」
少しわざとらしくおどける二人の態度に、才は暖かいものを胸中に感じて表情を緩める。しかし気分的に落ち着いたところで、才は大きな問題があることを思い出していた。
「これから、どうしようかな」
絶望という程ではないにしろ、明らかに諦念が大部分を占めるような、妙に落ち着いた表情で呟いた才をみて、二人の女性冒険者は再び顔を見合わせる。
「さい君はさ、学校を卒業したばかりでまだ仕事には就いてないんだよねぇ?」
美羽がそのウェーブがかった薄茶色の髪に軽く触れながらそう尋ねると、才はこくりと小さく頷いた。
「うん、ウチもそれがいいと思う!」
「――?」
脈絡ないように聞こえた那波の言葉に、才は首を傾げる。無職であることを「それがいい」などと言われたようには思えなかったが、では何の話かというと皆目見当がつかなかった。
「えっと、何がですか?」
「あはは、ごめん先走っちゃって」
才が問い返すと那波は頬を掻く仕草で苦笑いを浮かべ、美羽は困ったような表情を見せる。自分の頭の中で思考が先行してしまうのは那波の悪癖ということのようだった。
「さい君は冒険者をやってみる気はない?」
「……え?」
美羽から落ち着いた声音で告げられた提案に、才は口を開いて固まってしまう。単純にその選択肢が才の中にはなかったからだった。
モンスター狩りを主な生業とする冒険者は、実入りも良い分危険も大きい職業だった。それでやっていける程の技量やスキルがあるなら、少し妥協すれば他の安定した生き方があるし、まして貴族であるならなお更だった。
しかし今の才は既に貴族ではない。ネレイダに帰って才が生きていることが
「確かに、それしか無いかもしれないですけど……。でもボクなんかが一人で冒険者になっても……」
強力なスキルである『召喚魔法』に開眼しながらも、それが一切使えなかった五年の間にすっかり自己否定的な思考が染み付いてしまった才は、他にいい考えなどないながらも踏み出すことはできないでいた。
「一人じゃないよ! ウチも、ミウもいる」
「そうそう、一緒にパーティを組んでみませんか、っていうお誘いをしてるんだよぉ」
「へ?」
出会ったばかりの、それも才から見れば風格のある冒険者然とした二人から唐突に誘われたことで、才は再び呆然とした表情で固まる。
「他に当てがないならそうしようよ!」
「あ、それともさい君は、もしかしてあたし達と組むの嫌だったかなぁ?」
そこで急に表情を曇らせた美羽が、胸の前で手を組みながら如何にも不安そうな細い声で聞く。それはいかにも意識的な仕草で、相棒の那波から見れば戸惑う才の背中を押すためにわざとやっていることは瞭然であったものの、才を焦らせるには十分だった。
藤堂家に養子入りした後の才は冷遇されていたからこそ、ある意味箱入りの育ちとなってしまっており、学校でも名門貴族の一員として距離を置かれていたために人慣れしてはいなかった。
「あ、え、その、嫌じゃないです!」
「じゃあ決まりだねぇ、これからよろしくぅ」
「あはは、よろしく!」
才の返答を聞いた瞬間、ぱっと表情を明るくし両手を合わせて喜ぶ美羽を見て、那波も快活に笑って才を歓迎する。
才の方はここでようやく美羽の一連の仕草の意図に気付いたが、心地よさを感じて思わず口元を綻ばすのだった。
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