第7話 ケーキ
優花のせいで散々な目にあった昼休み。もう俺と優花は屋上に行くことなく、教室で食べることが出来た。そして今日はお互いがお互いの弁当を作ってくる、ということで俺が優花の弁当を、優花が俺の弁当を作ってきた。
「わあ!すごい!航平君って料理上手なんだね」
「吉崎さんの方が上手だろ」
「いっただきまーす」
優花は俺が作った卵焼きを口に入れる。
「!?」
「どうだ?」
「美味しい!」
「良かった…」
一安心して俺も優花が作った弁当を口へ運ぶ。
「ねえ。これからも私のお弁当食べたい?」
「はい」
「ならさ、交換条件」
「いいぞ」
「まだ何も言ってないよ!?」
「もう察しがついてるんで」
「ふーん。じゃあその通りでよろしく」
「任せといてくれ」
こうしてお互いがお互いの弁当を作ることになったのだった。優花の好きな食べ物をしっかり聞いておかなきゃ。
放課後、俺は優花を校門で待っていた。優花は生徒会の一員で帰りは少し遅い。
「ごめんごめん。遅くなっちゃった」
「気にしないで」
「じゃあ行こうか」
「はい」
俺たちは優花が言っていたケーキの店へ向かう。幸い、生徒の姿はない。
「今日、寒いね」
「はい。夜は寒くなるって言ってたな」
「手がかじかんできちゃうよね」
「まあ、そうだな」
俺は手をポケットの中に入れてるから平気だが、優花は違う。今も優花は口に手を当てて寒そうにしている。そこまでまだ寒くない気がするが人それぞれだろう。
「…」
「ポケットの中に手入れればいいのでは?意外と暖かいぞ」
「…」
なぜだろう。優花の機嫌が悪い。優花は何か考え込んでいるのか黙ってしまった。
俺が何か悪いことでもしたのだろうか。心当たりがない。
「なあ優花」
「…」
「道、こっちであってるか?」
「うん」
相変わらず優花は機嫌が悪い。どうしようかと悩んでいると
「優花!危ない!」
「え!きゃ!」
電柱にぶつかりそうになっていた優花の手を掴み、引き寄せる。その時、優花を強く引いてしまったからか優花は俺に倒れ込んでくる。支えてやったので怪我はさせなかったものの、俺が優花を抱きしめる形となった。
うわ。すごいいい匂いがするし柔らかい。このまま抱きしめていたいと思ってしまうほどだ。優花も優花で俺から離れようとはしない。頑張れ俺の理性!本能に打ち勝つんだ!俺はなんとか優花を立たせる。しかしその時に胸に手が当たったのは秘密だ。
「危ないぞ。気をつけて」
「う、うん。あ、ありがとう」
「よし、行くぞ」
「もう少しこのままが良かったのに…」
「なんか言ったか?」
「なんでもない!行きましょう」
優花の顔が真っ赤になっている。なんか足取りがおぼつかなくなっているので俺は優花の手を握り、引っ張っていく。
「大丈夫か?」
「…うん!」
優花は俺にとびっきりの天使のような笑顔を見せ、俺の手を引き歩き出した。
「ここがおいしいケーキ屋さん」
「へえ。初めて見たなあ」
「つい最近出来たんだよ〜。早く入ろう!」
中に入り、商品を見る。ショートケーキやムース、パフェにタルトなどいろいろな種類がある。どれも美味そうだ。
そんな中、俺は苺のショートケーキを頼んだ。
「ここのショートケーキ美味しいよ」
「へえ。優花は?」
「私はムース。ショートケーキは前食べたから」
ケーキと紅茶を店員からもらい、席に座る。優花も俺の向かいの席に座る。
「本当に奢ってくれるの?」
「もちろん」
「ありがと」
「どういたしまして。いただきます」
「いただきます」
俺はケーキを口に運ぶ。
「美味い!」
「よかった」
これなら高いのもうなずける。優花もムースを美味しそうに食べている。
「はい」
「?」
優花を見るとムースが乗ったフォークを差し出してきた。
「はい。あーん」
!?これじゃ間接キスじゃないか!落ち着け俺。優花め…、小テストの時といいドSなのか?そう思って優花を見ると
嘘だろ…。なんで「食べないの?」とでも言いたそうな顔をしてるんだ?もしかして間接キスってのを知らないのか?それともこれくらい当たり前なのか?
「ほら。あーん」
「あ、あーん」
結局優花に急かされるままにムースを口に入れる。ムースはとても美味い。でも間接キスのことで俺は頭がいっぱいだった。
「顔赤いよ?どうしたの?」
「い、いやなんでもない。む、ムースも美味いな!」
「でしょ!美味しいよね〜」
そして優花は俺が口にしたフォークでムースを一口食べる。本気で間接キスを気にしてないようだ。なら俺も気にせず食べよう。ムースは美味しい。それだけだ。
俺は借りはすぐに返す主義なので俺もショートケーキを優花に差し出す。
「ほら」
「…あーん」
な!?食べさせろ、ってことか。可愛い奴め…
「はい、あーん」
「あーん。やっぱり美味しいなあ〜!」
俺はこのフォークで残りのショートケーキを食べるのか…。どうしても意識してしまうな…
「ねえ。顔赤いけどどうしたの?」
「な、なんでもない。」
「間接キス、気にしてるの?」
「な!?」
「やっぱり〜、ふふっ、可愛いなあ〜」
くそっ、分かっててやってたのか…。恥ずかしくないのだろうか?
「食べないの?」
「た、食べますよ」
俺はショートケーキを食べ進める。優花はムースを食べ終え、俺のことを見つめてニヤニヤしている。
「ごちそうさまでした」
俺は優花と店を出る。
「美味しかったでしょ。また来ようね!」
「はい」
無邪気な優花の笑顔は夜の暗い道を照らすほど輝いて見えた。俺はこれならケーキ代も安いものだな、と思い、優花を送り、少し明るくなった道を歩いて行った。
後書きです
次話はこの話の優花編を書きます。なので今回の優花視点はありません。
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