第47鮫 鮫キチ!鮫沢さん season2

 戦うとなれば手段はいくらでもある。

 例えばこんなのじゃ。


「こんなこともあろうかと、小回りの効くサメを作れる便利セットこと熊王から借りパクした工具箱があるのじゃ」

「それは我が妻の工具箱に見えるが気のせいかァ?」

「気のせいじゃ」


 わしは四次元と繋がっているのかとよく言われる懐の中で工具箱を開き、金槌を取り出した。4本もな。


「本当は島で休む時の酒盛り用じゃったが、背に腹はかえられん」


 更に、他の懐からウィスキーの入った瓶を取り出して開封し、中身を豪快にドバドバと金槌にぶっかける。

 そうして、ウィスキーまみれの金槌に〈シャークゲージ〉を注入すると、準備は完了じゃ。

 早速こいつで戦おうと思ったのじゃが、直前に鮭王が有無を言わず筋肉質なシャケの肉体を奮うように敵へと突進していった。せっかちじゃのう。


「シャ拳法"放流乱舞"!」

 

 鮭王は1匹のオオカミを殴りつけると、流れるような動作でその後ろにいた巨大なイノシシを蹴ったのじゃ。

 一発一発の破壊力は凄まじく、四肢に触れた動物の肉体はバラバラのぐちゃぐちゃになっていく。

 しかし、その攻撃の動作そのものを隙と見た他のオオカミは、集団で触手を伸ばしながらバーシャーケー王の手足を搦め取る。


「甘いィ! 甘いィ! 甘いィ! 妻の好物であるハチミツより甘いィ!」


 じゃが、鮭王たる者をその程度で止められるはずもなく、彼は気合と筋力で身体を動かし、イノシシの死骸を持ち上げてオオカミの集団に投げつけてペシャンコのミンチにした。

 全く本気を出していないであろう現状でもこの強さ、単眼鮫魚人シャークロップスに匹敵する力を持つ海鮮戦士であるのは明らかじゃ。

 あの怪物を一発でダウンさせたのをこの眼でみている分、嫌でもそうだと感じてしまったわい。


「サメザワァ、そろそろ出番であるゥ!」


 鮭王がそう言った時、彼の頭上に十数匹のタカが空から突撃しようとしていたのじゃ。

 ついどう戦うのか観察するのに夢中になっておったが、一応は偉い人から頼まれた救出対象、こんな所で傷ついてもらっては困る。

 何より彼を連れ帰って機密資料閲覧権を得たいからのう!


「任されて! 爆裂鮫槌ばくれつさめずちジャグリングをお見せする時! 今度の一発鮫芸いっさめげいは瞬き厳禁じゃぞ!」


 今すぐ反撃するには間に合わないであろうタカの攻撃に向かって、わしは酒に塗れた鮫槌が1本投擲したぞい。

 すると、サメの形を模した炎の爆発が発生し、固まっていた位置のタカを巻き込んで宙の上で燃やし尽くす!

 更に、第二波、第三波とタカの集団が鮭王の頭上に向かって突撃していくが、その全てを鮫槌の投擲と爆発で殲滅! 爽快感ある絵面が完成したぞい!


「ジャグリングはテクニックとパワー、そこに金槌とサメの暴力性が合わされば最強の投擲武器と化すのじゃ」


 加えて、投げた鮫槌にはワイヤーを仕込んでおり、ブーメランのように戻ってくる便利機能付きなのじゃ。

 つまり、4本の鮫槌でジャグリングしながら投擲を行い続けることの出来る永久鮫機関えいきゅうさめきかんが完成した!

 これは、サーメル魚学ぎょがく賞も夢じゃないサメじゃ。

 それからは、イノシシどころかライオンやトラまでタコを頭になった怪物として襲いかかってきたが、それも鮭王の拳法で一網打尽。

 空にいる多種多様な鳥も全てジャグリングシャーク技術で炎に喰らい尽くされていったぞい。

 ……悔しいが、シャケとサメ、好敵手ライバルと呼ぶにふさわしい連携をしてしまったわい。


「ふぅ、いい汗をかいたのう」

「鮫沢ァ、我輩とお前は相当に相性が良さそうであるなァ!」

「シャケなんぞ所詮食物連鎖の下位……なんでもないぞい、好敵手ライバル同士だからこそ手を取り合って、ラッターバを襲う怪物を倒しに行くのじゃ!」

「多分救出対象がバーシャーケー王以外の王族だったら今頃大惨事よね、おじいさん……」



***


 こうして敵も全滅し、森の先を進んでいくとバーシャーケー王の拠点と思わしき家に辿り着いたのじゃ。

 その全貌はなんというか、大きい岩に無理矢理穴を開けて藁を敷いて眠れるスペースを確保しただけな原始人ハウスじゃった。

 実は王らしく何か民家を改造してそれらしい家に住んでいると思っていたが、全然そんなことは無かったぞい。


「まあ座れェ、勢いだけで作った拠点ではあるがァ、ここは位置がいいのか敵に狙われる事もなく安心して眠れる場所だァ」

「わ、悪くないとは思うのう」

「そ、そうね」


 何がともあれ、ここでなら安心して食事も睡眠も取れるみたいじゃ。

 船から持ってきた非常食で今晩は過ごすとしようかのう。


「飯だとォ!? 我輩はここの化け物共など食べたくないと絶食状態であったが故にィ、とても食べたいィ!」

「あーはいはい、乾燥させたパン菓子とか干し肉とかそんなのしかないけど、それで良ければどうぞ」

「彩華お手製の保存食はクオリティが高いからのう。あとは酒があればいいんじゃが、さっき使ってしもうた」

「どんだけお酒に執着してるの……サメじゃないのに」

「"サメ"と"さけ"はさから始まる上に韻を踏める存在、もはやサメに選ばれし飲み物なんじゃぞ!」

「そ、そう」


 わしらは休める状態になったからか身体をリラックスさせ、彩華の保存食を頂きながら談話していた。

 おかげで、バーシャーケー王がこの島で何をしているのか聞くことまでできた程じゃ。


「本当に何も無く素通りできたのだァ。そこから何となく知っているとは思うがァ、我輩はこの島こそが元凶であり、悪霊と対話しようと試みたァ」

「けど、悪霊なんて居なかったわけね」

「そうゥ、その通りであるゥ! 気が付けばァ、帰りの船も流され1人で島の中をサバイバルしている始末ゥ、貴行らには感謝感激シャケあられだァ!」

「サメあられでは無いんじゃな」

「サメあられじゃないのね」


 この様子じゃと、昨日の暗殺者傭兵集団みたいなのとは出くわしておらんみたいじゃな。

 せっかくじゃし存在を伝えておくべきじゃろう。


「そうじゃ、この島に来る途中"でダークリッチマン"協会なる組織に雇われた海守が魔獣ではなくお前さんを狙って上陸しようとしていたぞい。全滅したが」

「あの協会の代表者とは確かに面識があるぞォ! 漁師として意見を貰いたく会議に呼んだがァ、この島の秘匿性を利用しィ、あわや海守を我輩の暗殺に利用するとはァ、許せんゥ!」

「でも、バーシャーケー王なら別に襲われても勝てるんじゃないの?」

「それもそうだがァ、そんな理由で民を殴りたくはないィ!」


 話の通りじゃと、ダークリッチマン協会とはゼンチーエに帰ってからも一悶着ぐらいありそうじゃ。

 反面ヒョウモン島の中でまで関わって来ないと思われ、そこは安心して良いじゃろう。

 しかし、気になることはまだある。

 この島へ上陸する時に現れた黄色い大きな布や天使に巨人、アレらの怪物を認知しているか確認しておかねばならん。


「それはそうと、島へ上陸する過程で黄色い大きな布を見かけんかったかのう。さっきの魔獣もどきみたいな怪物を召喚する能力を持つ奴なんじゃが」

「いや、何も無く素通りできたぞォ?」


 うーむ、そうなると彼が実はタコオックと何か関係が……それこそ〈百年の担い手ハンドレッド・マスター〉はサラムトロス側にいて、鮭王こそがタコ使いのシャケなんて訳の分からない推理しか出来んのう。

 ひとまず、今は遠回しにそれっぽいことを言って話題を流しておくのじゃ。


「よし、何となくわかったぞい! 鮭王はのじゃ。何せヒョウモン島はお前さんの先祖の罪そのもの、何らかの意思がこの島の現実から目を背けるなと指示しているのじゃろう」

「よく分からんが分かったぞォ。なら、お前達の知るこの島についての話も聞かせてもらいたいものであるなァ。何分ゥ、当時の魔族主義による国からの離別以外は記録もないィ」


 やはり、鮭王は馬鹿ではないが単純ぐらいの知性なのじゃろうか、話が上手くいったわい。

 どうせじゃ、他にも日記の内容についてや、〈百年の指示者ハンドレッド・オーダー〉について……それがわしであり、この島の黒幕も同じ能力者である事を伝えておくぞい。


「〈指示者オーダー〉とやらは魔王から聞いていたがァ、お前だったとはわァ! しかしィ、黒幕もヒト種であるなら135年も間がある以上生きているとは考えられないィ。謎が深まるばかりであるゥ!」

「納得してくれるなら嬉しい限りじゃ」


 それから、お互いの情報整理ができたことから、改めて明日の行動指針を固めることとなった。


「ひとまず、明日はどこへ向かうのがいいじゃろうか?」

「日記を頼りにするなら、やっぱり屋敷かしら」

「我輩も賛成であるゥ!」


 消去法でいけば、日記でも大きなターニングポイントになっていた屋敷に向かうのが正解じゃろう。

 鮭王は、日が昇っている内はあのタコな魔獣や信徒も襲ってこないと教えてくれた。

 しっかり休んで、朝から出発する形でも十分に余裕がある。

 場所も、実は日記に島の地図が挟まっていたようで、島中をくまなく探索する必要もない。

 そうであるなら、決定も同然じゃ。

 今晩はもう寝るだけ、そんな時にセレデリナがこんなことを言い出したぞい。


「せっかくだしサメ映画を見ましょうよ。バーシャーケー王もサメについてもっと知りたそうじゃない?」


 ……それもありじゃな。

 もしかすると、鮭王がサメの偉大さを……己のシャケとしての非力さを理解するかもしれん。やってみる価値はあるじゃろう。


「ほっほ、つまりじゃな、わしらは皆頭も体も使い過ぎて疲れておる。なので、休みがてらわしの世界の映画という一種の演劇を楽しんで見ては如何かな」

「ほう、それは面白そうであるゥ!」


 結果、タブレットを起動し、顔が3つあるサメの映画をみんなで見ることとなった。

 鮭王曰く演劇を見る機会は多く、わしの世界の技術だとこういうものを作れるというのはとても関心深かったようで掴み自体は良かった。

 良かったんじゃが……。


「映画はとても面白かったァ、何よりも3人並べは必ず食われてしまうシステムは中々に好みであったぞォ! 鮫沢のサメも同様であるならより手合わせが楽しみだァ!」


 確かに楽しんでは貰えたが、余計な闘争心を産んだだけで恐れてはくれんかった。残念じゃ。

 その後はなんやかんやで感想会を経た後、眠りについたぞい。

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