第381話

「さぁ私の客人なのだから早く門を開けなさい」


「畏まりました!」


 誠実そうな男性の門番はまさか女主人であるイザベラがこんなところに現れると思っていなかったのか、再び驚きつつも、大きな鉄格子の門を開ける指示されたため、慌てて開けていく。


 大きな鉄格子の門はギィーっと、重い金属の音を鳴らしながらゆっくりと開き切ると、コウはそのまま屋敷の敷地の中へ入ることにした。


「コウ君数日ぶりね。じゃあ頼んでいたものを置く場所まで案内するわ」


「あぁよろしく頼む...ってちょ!」


「さぁ行くわよ!」


 どうやらピィアリの実を置く場所まで案内してくれるとのことで、屋敷の敷地内に踏み入れると、イザベラにコウは手を取られ、強引に引っ張られていく。


 そして屋敷の敷地内の奥に手を引かれながら歩いていくと、そこは広い庭園となっており、白薔薇騎士団の屋敷に負けず劣らずな大きな屋敷が姿を現した。


 そんな広い庭園には何名かのメイドや庭師が与えられた仕事を黙々としているのだが、こちらに気づいた者は深々と頭を下げてくるので、コウもつられてお辞儀をしてしまう。


「それにしても広いな」


「旦那が見栄っ張りだと大変なのよねぇ...」


 どうやらイザベラはこの広い庭と大きな屋敷にはあまり良くは思っていない様子であり、旦那であるライエルに対して頬に片手を添えながら悩ましげに愚痴ぐちを少しだけこぼしていた。


 そのまま大きな屋敷の中に入ると、壁や階段など様々な場所に綺羅きらびやかな飾り付けがされており、きっと今夜の晩餐会に向けての準備だというのが分かる。


 そんな綺羅びやかな飾り付けをされている場所を通り過ぎていき、広い屋敷内を歩いていくと、良い香りが部屋から漏れてくる扉の前に到着する。


 そしてその良い香りが漏れてくる部屋の扉をイザベラが開けると、そこには白い服を身に纏った料理人達がせっせと今夜の晩餐会に出すであろう料理の仕込みをしていた。


「おや?イザベル様じゃないですかい。どう致しましたかい?」


 イザベルがその厨房をチラリと覗きながら顔を扉から出すと、料理長と思われる人物がこちらの存在に気づいたのか話しかけてきた。


「今日の晩餐会に出す予定のピィアリの実をこの子に頼んで持ってきてもらったのよ」


「あぁそうなんですかい。じゃあ坊主悪いけどここにピィアリの実をいれてくれい」


「ん...わかった」


 料理長と思われる人物は大きな籠をいくつか目の前に用意してくれたので、コウはレイニーウッドで採ってきた新鮮な状態のピィアリの実を収納の指輪の中から取り出して潰れないよう1個1個丁寧に籠の中へ入れていく。


 そして用意された籠の中に黙々と入れていると、いつの間にかピィアリの実は山のように積み重なっていた。


「これだけありゃ十分だ。ありがとうな坊主」


 まだまだ収納の指輪の中にはピィアリの実は残っているが、料理長と思われる人物に確認すると、晩餐会に必要な量は確保できたとのことなので、残りは自分で食べる分として残しておくことにした。


 それにしても良い香りがあちらこちらから漂ってくるせいで、食欲が刺激されてしまい、周りに聞こえない程度でお腹がぐぅ~っと鳴る。


「コウ君ご苦労さま。少し聞きたいことがあるしよかったらお茶でもしていかないかしら?」


「んーどうせ夜まで暇だし良いぞ」


「じゃあ応接室まで案内するわね」


 厨房から漂う良い香りのせいで、小腹が空いたことだし、まだ午前中ということもあって断る理由も特にないため、イザベラからのお茶の誘いに乗ることにした。


 そしてコウとイザベラは厨房を後にして屋敷にある応接室に移動し、中に入ると、好きに座るように言われるので、ふかふかと座り心地の良さそうな椅子へと座り、ここまで歩いて疲れた足を伸ばして癒やしていく。


 暫くすると、この屋敷で働いているメイドが良い香りのする淹れたばかりの紅茶とふんわりとしたカップケーキに似た美味しそうなお菓子を目の前に用意してくれた。


「そういえば聞きたいことって何なんだ?ピィアリの実についてか?」


「違うわよ?イザベルちゃんとライラちゃんはどちらが本命なのかってことが私は聞きたいのよ」


「ごほっごほっ!」


 聞きたいことというのは今回採ってきたピィアリの実の事についてなのだろうか?と思いつつ、メイドが用意してくれた淹れたての紅茶をすすりながら、目の前に座っているイザベラに聞いてみると、想像としていたことと全く違った予想外の質問をされ、コウはその場で大きくむせんでしまうのであった...。



いつも見てくださってありがとうございます!


評価やブクマなどをしてくださると嬉しいですm(_ _)m


次回の更新は6月30日になりますのでよろしくお願いします。

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