第179話
一方その頃のコウは何も言わないルッチの後を警戒しながら距離を開けて大通りとは別の細い道を走っていた。
暫く走り続けると噴水が真ん中にある拓けた広場へ到着し、唐突に先行して走っていたルッチが足を止めた為、コウも同じように走るのを止める。
どうやら相手方はこの場で戦えば良いと判断して足を止めたのだろう。
コウとしても狭い場所でサンクチュアリを振り回すと取り回しが悪くなってしまい戦いづらく、広い場所でのびのびと戦ったほうが良かったので好都合である。
「...良い夜」
ルッチは屋根の上に飛び乗ると月の光を浴びるように空を見上げ、月に向かって手を伸ばしながらポツリと呟く。
イザベルとは違い男のためかそれとも本人がガサツな性格のためかわからないが自身の銀髪にはそこまで手入れをしていないようで月明かりに照らされるとキラキラと光はせずに鈍く光っている。
「お前らが攻めてこなかったら良い夜なんだけどな」
コウにとっては目の前の男はどんな人物か知らない。ただ最初の印象は無口であり、イザベルから聞いていた危険な人物の1人ということだけだ。
そんな彼の名前はルッチ。姓は無く、物心がつく頃にはアルトマード王国の片隅にあるスラム街の住人で彼はヴァンパイアとして生きていた。
彼はスラム街のゴミを漁りつつ、地べたを這いずり回りながら生き残るもヴァンパイアの本能として血を飲みたいと常日頃思っていた。
幸いにもスラム街では死にかけの人間や死んでも問題ない者などが多く集まっているためそこまで血を好きなだけ飲めたのは僥倖だっただろう。
彼自身は子供の時から大の大人に勝つほどの腕力を持っていた為、この劣悪な環境下のスラム街から抜け出すため成人したと同時に冒険者として活動していくこととなる。
ヴァンパイアとしての身体能力、そして持ち前の戦闘センスが光ったのか冒険者の中で徐々に頭角を現しだす。
ただ彼はヴァンパイアとしての本能のせいで血が飲みたくなるため魔物の血を吸っていたが、幼少期に吸っていた人間の血のような満足感がない。
補足として殆どのヴァンパイア達は血を飲むために奴隷買ったりして共存するのだが、このアルトマード王国では奴隷自体が禁止されているので安易に人間の血を吸えずにいたのだ。
そのため彼はスラム街へ向かい定期的に人間の血を啜っていたが、所詮はスラム街の人間なので健康的な人はおらず当然美味しい血は少ない。
そんな彼はスラム街の人間を力でねじ伏せ支配者として君臨し、健康的な人間を襲う様に指示を出していた。
しかし行方不明者が血を吸い取られや状態で死んでいたということが続出し始めたために王国は本腰を入れ、捜査をするとスラム街の住人が関わっていることを知る。
元々スラム街の住人もルッチの圧政に嫌気が差していたのかすぐに裏切り、リィンと同じ様に彼もまた冒険者としての権利を剥奪され、追われる身となった。
「で...お前の後ろ盾は何処の貴族なんだ?」
「...知る必要は無い」
何処の貴族が裏切ったのか知るために聞いてみるも会話は意味が無いようで答える気はさらさら無いようだ。
とすると力でねじ伏せて服従させるしかなさそうではある。
「ふぅ...とりあえず捕まえてから吐かせるとするか」
「...やってみろ」
お互いに武器を構えるとピリピリとした緊張感が周囲を包み込む。
目の前の男は元とはいえAランク冒険者だったため一筋縄ではいかないだろう。
「...
先に仕掛けたのはルッチであり、何かしらの魔法を使用したのか彼の足元から黒い煙が湧き出して広場の周りを包み込むと月明かりすら届かない暗闇へと変化した。
ルッチの使った魔法は多分だが探知系の魔法と予想し、これでは相手の位置がわからず一方的に攻撃されてしまうだろう。
「不味いな...”
コウも同じ様に探知系の魔法である濃霧を対抗するかのように使い、足元から薄い霧を生み出していると背後からぞくりとした悪寒がするので振り向くとルッチの赤く光る瞳がこちらを凝視しているのが見え、足を一歩後ろに引いてしまう。
「っ!」
少しだけ怖気づいてしまったことを悟られたのかその赤い瞳が迫るように一気に距離を詰めてきており、コウは仰け反りながら後退するも突き出された大きな縫い針で少しだけかすり傷が出来てしまう。
「ちっ...」
そして奇襲が失敗したということでルッチは舌打ちをしつつ再び、暗闇の中へと消えていったので厄介極まりない。
追撃するために早く位置を相手の位置を把握しておきたいがまだ霧が上手く周囲を包み込んでいないため急いで霧を生み出していくが何度も同じ様に奇襲され、なんとか回避しているがじわじわとかすり傷を負っていく。
ある程度、周囲を霧が包み込むと何とかルッチの位置が把握できたがそれは相手も同じことである。
「ここだ!」
「ぐぅっ!」
ただ周囲は暗く霧が出ていたとしてもわからない状況であり、ルッチはコウが位置を把握できることを知らないので合わせるようにサンクチュアリを振るうと彼にとって予想外の行動だったのか胸を掠り少し大きめな傷が出来ると血液を地面へと撒き散らしながら暗闇の中へと逃げ帰る。
優位に立っていたと思っていたら反撃されたためルッチは先程の一撃でコウに対しての認識を変えた。
「...面白い。
「おいおい嘘だろ...」
暗闇の中から声が聞こえ、今度は何をしてくるんだと思いコウは身構えてルッチの位置を把握していると何故か反応する数が分裂するかのように増えていき、最終的にルッチを含めたであろう合計5体の反応が暗闇の中を自由自在に動き回り始めるのであった...。
いつも見てくださってありがとうございます!
評価やブクマなどをいつもしてくださる方もありがとうございますm(_ _)m
次回の投稿は5月18日になりますのでよろしくお願いします。
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