第149話

 馬車に付いている窓からフェニは外に飛び出し、後方にいる黒い蝙蝠達へと攻撃を仕掛けるように飛んでいくのをコウは馬車の後ろにも付いている小窓から戦いを見守る。


「キュイッ!」

 

 馬車のスピードに合わせつつ、フェニは黒い蝙蝠達に立ち塞がる様に飛び両翼の先端部分に1つずつ雷球を作り出す。


 作り出された雷球は一直線に黒い蝙蝠達へ飛んでいくが、やはり速度の遅い雷球では避けられ馬車が通ってきた道へと落ちて穴を開ける。


「キキィ!」


 今度は黒い蝙蝠達が反撃とばかりかフェニに向かって周りの空気が震え空間が振動するのが見えた。


「うるさっ!」


 後ろの小窓からコウはフェニと黒い蝙蝠達の戦いを見ていたのだが、馬車にいる中でも一瞬だけキーンッ!と耳元で鳴り響きイザベルやライラは両手で耳を塞ぐ仕草をしていた。


 超音波攻撃は周りが拓けているせいなのか減衰率が高くこちらには煩かっただけであり、ダメージの様なものはない。


 もしこれが洞窟内などの閉鎖された場所ならば、かなりの威力を発揮しただろうか。


 ただ蝙蝠達の少し前を飛んでいたフェニはそれなりにダメージを受けてしまった様で少しだけふらついていた。


 とはいえフェニはすぐに体制を立て直し、空中で宙返りすると黒い蝙蝠達の背後へピッタリとくっつく様に飛ぶ。


「キュイキュイ!」


 そして今度は両翼に雷球を作り出すのではなく、両翼自体にばちばちと目に見える様に雷を纏わせると加速し、一気に黒い蝙蝠達の間をすり抜けながらほんの少しだけ両翼の先端を掠れるぐらいに触れさせていく。


 両翼の先端に触れた黒い蝙蝠達はバチッ!っと音を鳴らし、フェニの雷魔法によって感電したせいか次々と地面に落ちる。


 全ての黒い蝙蝠を感電させ、地面に落とすとフェニは馬車の窓の縁へ止まり、戦った際の汚れを綺麗にするかの様に毛繕いをしだす。


「おぉやるじゃないかフェニ」


「キュイ!」


 コウは黒い蝙蝠達を全滅させたフェニを褒めると、当然だ!といわんばかりに胸を張り自慢げである。


 それにしても何処で両翼に雷を纏わせるなどを覚えたのだろうか。


 もしかしたらフェニは思ったよりもずっと賢く、そして強いのかもしれない。


 しかも、まだまだ子供であるためこれから順調に成長していけばもっと頼りのある仲間となるだろう。


「それしても〜フェニちゃんは一体なんの魔物なんでしょうかね〜」


 既にフェニはコウの膝の上でゆったりと寛いでおり、濡れていた羽根はいつの間にか乾き、そんなフェニの嘴先をライラは指でツンツンして戯れながらそんな事を言う。


「私の方でも調べてはいるんですがフェニちゃんに該当する魔物がいないんですよね」


 今現在もイザベルが管理している白薔薇騎士団がフェニの事を調べてくれているらしいのだが、まだまだ何の魔物か分かっていないらしい。


 変異種?上位種?死の森で見つけたのでもしかしたらフェニは新種の魔物かもしれない。


「まぁ珍しい魔物なんだろうな。知らない人について行くなよ?」


「キュイ?」


 世の中には魔物をコレクションとして集めていたり、見世物として飼っていたりする者達がいる。


 フェニの様な物珍しい魔物は特に狙われやすいので一応、釘を刺さす様に言っておくが理解しているか分からない。


 そんなやり取りをしているといつの間にか先程まで空から降っていた雨は止み、雲の隙間からオレンジ色の夕日が差し込む。


 そろそろ野宿をする場所を決めないといけないだろうと思いつつ、窓から外を見渡すもこの辺りにはあまり良さげな場所はないのでコウ達一行は暫く馬車に揺られながら進み続ける。


 場所と時は変わり、ローランにあるギルド内ギルドマスター室で1人の大男が片手に持った1枚の書類を険しそうな表情をして見つめていた。


「戦争か...」


 机の上には乱雑に封が切られた封筒が1枚置いてあり、送り主はアルトマード王国の王都からであった。


 手紙の内容としてはとてもシンプルなもので冒険者ギルドへこれから帝国との戦争が起こるので、それなりの支援がほしいとのことだ。


「ギルドマスター失礼します」


「おう」


 コンコンと部屋のドアから軽快なノック音がするのでギルドマスターであるジールが返事をすると扉は開き、サーラは足元においてあった拾い上げ多くの書類を両手に抱えて入ってくる。


「よいっ...しょ!これがギルドマスターの判子が必要な書類になります」


「...ちょいと用事がだな」


「駄目ですよ!まだまだ復興は終わってないですしこれぐらい我慢して下さい!」


 ジールは書類の束から逃げようと席を立つが、サーラに扉の前に立たれ塞がれてしまい諦めて席に座る。


 とはいえ逃げたとしてもジールが最終的に判子を押さないといけないため諦めるしかないのだが。


「まだローランの復興も終わってないのに王国は戦争を始めるみたいだし更に頭が痛くなるな」


「帝国との戦争ですか?」


「まぁランクと参加者を制限してなるべく犠牲を少なくしないといかんな」


 冒険者を戦争に参加させたとしても低ランクなら無駄死にしてしまう可能性が高いのでランクの制限が必要だとジールは判断する。


 ただ本当ならば王都からの要請は無視して犠牲を無くしたいのだが、国からの支援で冒険者ギルドは成り立っている部分もあるため無視することは出来ない。


 ため息を付きつつ、ジークは黙々と机の上に乗せられた大量の書類を1枚1枚確認しながら今後起こるはずの戦争のことについてどう対応するかを考えるのであった...。


ここまで見てくださってありがとうございます!


そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m

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