第137話

 コウ達一行は大森林ロートスの深層部を順調に何事もなく進んでいた。


 とはいえ周りは前まで緑に溢れていた目に優しい風景とは真逆の真っ赤な木ばかりでSAN値がガリガリと削られていくような気がしないでもない。


 少し遠くの方からは何かが争っているような音が聞こえてくるので、きっと魔物同士が縄張り争いでもしているのだろう。


「おぉ...また宝箱だ」


 大木の根の部分へ隠れるよう宝箱が置いてあり、見た目も中層などで見つけた宝箱と違って少しだけ箱の装飾も変わっていたりする。


 宝箱を開けるため上に手を置くと黄色いガスの様なものが宝箱の隙間から噴射された。


「あぶなっ!」


 すぐにコウは宝箱の側から飛び退き噴射されたガスを回避すると近くの木の根が枯れ木のように朽ちていく。


 暫く待っているとガスの噴射が止まり、風の流れに乗ってその場からガスが流されていったので近寄って宝箱の中身を確認すると金や銀で装飾された冠やナイフなどが複数個入っていた。


「おぉ~なんだか高そうなものばかりですね~!」


「色んなものが手に入るのは嬉しいもんだな」


 現状のダンジョン探索で得たものはこれで銀の食器、魔道具の様なものが2つ、そして今回の装飾された冠やナイフなどだ。


 これらをルーカスにでも売ればそこそこの金額になるだろうし、ここまでのダンジョン探索としての収支はプラスのはずだと思いたい。


 まぁ実際はこのようにうまいこと宝箱から当たりを引き続けるのは中々無いらしいので運がいいと言える。


「それにしても植物型の魔物を全然見なくなったな」


「擬態や待ち構えてもここでは通用しないので少ないのでしょう」


 別に擬態や待ち構える系の魔物は弱いという訳ではなく対人や普通の魔物達にとっては脅威ではある。


 しかし深層を主に生息しているオーガやレイジーベアなどの魔物には小細工などが通用しないため、大体は純粋な力によって魔物に抵抗もできず潰されてしまうのだろう。


「あれってなんですか~?」


 宝箱に入っていたものを収納の指輪の中へ仕舞い込むのが終わると同時にライラが何かに気づいたようで何処か別の方向に向かって指をさしていた。


 なんだろうと思いライラの指をさす方向を見てみると、そこには大木の真っ赤な樹皮がボロボロに剥がされているのが見えた。


 見方によっては何かのマークに見えなくもない。


「ん〜あれは確か...あぁ思い出しました。オーガの縄張りのマークですね」


 イザベルは少しだけ考えると思い出した様に手を叩く。


 どうやらオーガのマーキングらしく木などに傷を付けて自身の縄張りと示すらしい。


 つまりここら一帯はオーガの縄張りであり、先程少し遠くから聞こえた争う音はもしかしたら縄張りに侵入してきた者を排除している音かもしれない。


 とすると、ここから一刻も早く離れたほうがいいだろうか。


 何故ならば、先程の争う音は少し前だったので下手をしたらもう戦闘は終わっており、オーガが既にそこらを彷徨っていて見つかった瞬間にこの縄張りから排除しにくる可能性が高いのだ。


「オーガに見つかったら面倒だし、さっさと移動しよう」


「同感ですね。無駄な争いは避けたいです」


「会いたくないですね〜」


 深層という事もあって、わざわざ無駄な戦闘を起こすのは無駄な事である。


 しかし世の中にはそう簡単にうまくはいかない事もあるのだ。


 コウ達は移動しようと魔向草が向いている方向へ一歩踏み出すと何かが勢いよく飛んでくる。


 飛んできた"それ"はそのままコウ達の近くにある樹皮がぼろぼろに剥がされた木に大きな音を立てぶつかる。


 木にぶつかったのは体長2m程のレイジーベアの死骸であり、見る限り力強い何かに強打されていて骨が毛皮から出ていて体は変形していた。


 ここまでレイジーベアをボロボロにできる魔物はそう多くはない。


 しかも2m程の大きさとはいえ、かなりの重さがあるはずなのにこちらに投げてくる魔物。


 そしてオーガの縄張りという事もあってコウ達は直ぐ答えに辿り着く。


 答え合わせの様にずしん!ずしん!と地面が揺れ何かがこちらに迫っており、巨木の影からこちらに迫っていた存在が姿を現す。


「はぁ...最悪だな」


「コウさんって問題を引き起こす体質だったりしますか?」


「そんな事はないはずだと思いたいな」


「悪い事ばかりじゃないんですけどね〜宝箱運とか良いですし〜」


 目の前に現れた存在は真っ赤な皮膚に巨大な身体、そして筋肉は膨れ上がりまるで童話に出てくるような鬼だ。


 つまるところ先程まで話していたオーガである。


 しかも1体ではない。


 別に1体だけならば問題はなかったのだが、その1体の赤いオーガの後ろから追加で青いオーガがこちらに顔を覗かせていた。


 それは上位種であり、通常の個体のオーガよりも強くそして皮膚も硬い存在がいたのだ。


 とある児童文学ならばどちらも心優しい鬼のオーガになるはずなのだが、現実は厳しく悲しいところである。


 2対のオーガはこちらを見るや否や雄叫びを上げてこちらに大地を蹴り上げ走り、走った後の場所にある土が放物線を描きながら宙が舞う。


「来るぞ!」


 雄叫びを上げた瞬間に各々は戦闘態勢に入り、昨日の休息がすぐに無駄になってしまった様に2対のオーガとの戦いが始まるのであった...。


ここまで見てくださってありがとうございます!


そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m

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