青髪の冒険者
もうもう
第1話
「もう少し...もう少しで完成する...」
30代前半だろうか?肩に掛かるくらいの青い髪、細身長身の男が大きな培養槽の前で自身の願いがもう少しで叶うかのように優しく呟く。
「あとは"中身"を用意するだけだ...そうすればまた...」
そんなことを言いながら男は大きな培養槽の前から離れて近くにある階段を上っていき、その場からいなくなる。
その培養槽は壁が灰色の質素な部屋の中央にあり、培養槽の中には男と同じ様な青い髪で小さな男の子の姿がゆらゆらと瞼を閉じながら浮かんでいた...。
■
カーテンの隙間から少しの光が差し込むことに気づいた1人の青年は気だるげに目を覚まし、ショボショボとする目をこすりながら重い身体を起こす。
「まだ朝5時か...なんの夢を見ていたのだろうか?」
時計を確認するとまだ朝5時という部分を針が指し示し、青年は今しがた見た夢をぼんやりと思い出すように記憶を辿る。
思い出そうとしたのは夢で自身の目の前に立っていた男の姿。
顔のパーツなど細かい部分は実際に思い出せないが優しそうで我が子を慈しむような顔をしていたような気がした。
ただ自分自身が何処の視点からその男を見ていたのかまでは思い出せず、頭を振り思考を切り替える。
「まぁいいか...」
そう呟きながら青年は欠伸を噛み締めベッドの上から降り、体を伸ばすと寝起きのためか身体の一部がボキボキと音を鳴らし、深い深呼吸をして朝の冷えた空気を目一杯吸い込む。
「ふぅ...ゴールデンウィークだし今日は何するかな?早く起きすぎるのも問題だな。することがないし」
青年は近くの服屋で買ったセール品である安い長袖のTシャツとジーパンに着替え、カーテンを開けて外を見るとまだ夜が少し残った空を見て今日のやることを考える。
「近くの堤防へ散歩に行くか...そうしたら母さんが朝ごはんを作ってくれているかもしれないし」
青年の家は海の近くにあるため、今から散歩に行って軽く運動なりなんなりをすれば時間も潰せるし、お腹も空いて朝ごはんを美味しく食べれるだろう。
部屋を出て1階に降りると朝の5時のためか家の中はまだ物音もせず、家族はまだ寝ているためか静寂に包まれていた。
そんな静寂の中を青年はゆっくりと古くなった木が軋む家の廊下を歩き、スニーカーを履いた後、家族を起こさないよう静かに玄関の鍵をカチャリと開けて家の外へと出て行くのであった...。
■
家を出て大体5分程度で海の堤防に着いた青年は体をほぐすように軽くストレッチをする。
勿論、怪我をしないためにだ。
「海風もあまり吹いてない。今日は過ごしやすいな」
そう呟きながら青年はストレッチを終え、長い堤防の側で走り出しだすと20分ぐらいだろうか?軽く走った青年は足を止めて切れた息を整えながら身体の熱を冷ますために堤防の縁へと座り込む。
海を見ながら遠くの船が桟橋に着桟するために汽笛を鳴らすと響き、大きな音と軽い振動が共に伝わってくる。
なんとなくボーっとその光景を見ていると自分の座っていた堤防の先にあるテトラポッドの下部の海面がほんのり光っているのにふと気がついた。
「なんだ?」
青年は堤防の近くにあるテトラポッドの上に乗り、海面が見えるギリギリの場所に立つと海面を覗き込むように身を乗り出す。
どうやら水の底で何かが光っているのは確かであり、実際海の底に何があるのかは見えないが不思議と惹きつけられるような光。
普段、こんなにもテトラポッドの先端ギリギリに普段は立つことはないのだが、更に顔を海面が見える位置まで出すとようやく不思議と惹きつけられるような光が直接真上から見えた。
ついつい海面からの不思議な光に魅入ってしまったのだろうか。青年はテトラポッドの苔がついたヌメリがある部分に足を掛けてしまいついつい足を滑らせてしまった。
「あっ...」
青年の小さな声が漏れた。その声は反射的に出たものであり、"あぁ...滑ってしまった"というような感覚が近いだろうか。
テトラポッドの部分に頭をぶつけなかったのが幸いで、青年の頭の中では落ちても泳げばいいやぐらいの気持ちで海に落ちていく。
実際には海に落ちた際、泳いで上がれるように近くに階段のようなものがあるため、なんとかなるだろうと思っていた。
ザブンッ!と大きな音と水しぶきを立てて青年は海へ落ちると海水はまだ5月ということで冷たく、服にどんどん水が吸収されていくためか幾分動きづらい。
(さて上がれるとこまで泳ごうか)
そう思いながら青年は泳ぎだそうとするが青年は気がついてしまったのだ。
足の先が少しずつ光っている海の底に引っ張られるのを...。
(は!?なんで足が下に引っ張られるんだ!?)
パニックになりながら青年はバシャバシャと海面を両手で叩きつけて音を立て助けを求めるように周りへ大きく叫ぶ。
「誰か!助け...!」
しょっぱい海水が口を出入りしながらも、大きな声で助けを叫ぶのだが時間帯は早朝であり、周囲の堤防沿いには運が悪いことに誰もいない...。
更に足を海中へと何かに引っ張られるため、できるだけ息を吸い込むと息を止めて目を閉じながら先程光っていた海面の場所に沈んでいく。
意識はあるが海の中だから目を開けられず時間が経つにつれて苦しくなっていき、止めていた息が続かない...。
息が続かなかったためか口を開き、呼吸をしようとしていしまい一気に海水が口の中へ入り込み、肺の部分へと海水がどんどんと流れ込んでいくので頭がおかしくなる程の苦しさが増していき、意識が遠のいていく。
今、見ているのはきっと走馬灯なのだろうか?自分の生きていた人生を振り返るように脳裏へまるで映画のワンシーンを切り取ったように再生されていた。
自分の小さな子供の頃から小学校の頃...中学校の頃...様々な思い出がどんどんと脳裏に現れては自身の口から出た空気の泡のように儚くも消えていく。
青年の既に意識が無くなっており、口からは肺に残っていた残り少ない空気が押し出され青年は海の中へ落ちていくと、光っている海の底の中に引きずり込まれ青年の身体は光りに包まれていくのであった...。
ここまで見てくださってありがとうございます!
そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m
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