第11話 少女の頼み
「俺に声を掛けた理由を聞いても?」
移動中に聞いてみた。
「昼間、町の近くで魔物と戦っていたでしょう? かなりの手練れだと思ったんですよ」
魔物退治でもやらせる気か? それだったら明日にしてほしいな。
「その強さがあれば修道院を占拠した不届き者達を何とか出来ますよ」
おいちょっと待て。
「あいつら王政を批判する活動しているみたいだけど、実際はこの騒ぎで好き勝手やっているだけの奴等みたいなんですよ。抗議ですらない」
「ちょっと待った。それは町の兵士に頼めば良いんじゃないですかね?」
「話しても忙しいと言われて相手にしてくれないんですよ」
「仕事しろよ兵士」
年配男性は数人が集まっているところを指差して、
「あそこですよあそこ」
小走りで近づいていく。向こうも気づいた。
「頼れる助っ人を連れてきよ。もう安心だよ」
女の子に優しく声を掛ける。彼女が件の困っている子のようだ。
身長からすると十歳前後の少女。黒の修道服。カチューシャと靴も黒。余計な物が無くシンプルな作りで黒一色に纏められた服装は、違和感を抱かせない自然な雰囲気を纏う。派手さとは無縁で地味という印象はあまりない。
「貴方が私達を助けて下さるのですか?」
先程まで泣いていたのか、腫らした目でソロモンを見上げる。胸の前で手を組み祈るような姿でソロモンを瞳に映している。
「修道院が占拠されたって聞いたんだけど」
「はい……。いきなり押しかけて来て……助けを呼んできてくれって私だけ逃げてきました」
少女は目を伏せた。ソロモンは黒髪を掻きながら、
「押しかけてきたのはどんな奴だったのかな?」
「男の人達……魔法で皆に酷いことをして……それで……」
余程怖い目に遭ったのか目元に涙を浮かばせる。
これは明らかに面倒な事だ。目的はどうであれ実力行使をしたんだ。そんな連中が占拠された修道院に乗り込んでいったら絶対揉める。魔法を使うようだし流血沙汰になるのは確実だ。それに今日は魔物狩りで結構疲れている。そもそも万全の状態じゃない。
断ろう。元々俺は無関係、必要の無い争いに関わるのはゴメンだ。
頼みを断ろうとして口を開いた時だった。
「どうか私達をお助け下さい。お願いします……お助け下さい……」
強く手を組み、か細い声で少女は懇願する。
ソロモンは声を出す前に口を閉じた。
断れねぇぇぇぇ!! 断れる雰囲気じゃねぇぇぇぇ!!
心の中に絶叫が響き、断るという意思表示を掻き消した。
「分かった、分かったよ。俺が何とかするよ」
少女の顔に安堵と喜びの光が差した。周囲からも歓喜の声が溢れる。
何度もお礼を言う少女を見ながらソロモンは左腰の剣に左手で触れた。今日の狩りで魔物の血を大量に飲み込んだ問題児だ。
今日のブロジヴァイネの調子なら、人間を相手にしても容赦が無いだろうな。もうひと働き頼むか。
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