第26話 宝石少女と勇者様
クルミさんに今日あったことを伝えたわたしは2階にある自分の部屋に戻って、リアに現状を伝えた。
「……それマジ?」
「うん、マジ。だからなるべく会話しないで。どうしても会話する時は必要最小限」
「ああ、わかった。任せておけ」
リアは自信満々に言うけど、逆に少し不安になる。リアに伝えた後は生徒会室に戻って校外学習のセッティングをしていた。
「予算いくらあったっけ?」
適当にファイルを取り出して探していると扉がノックされた。
返事を返すと扉が開いて、副担任が入ってきた。
「あの、少しいいですか?」
「なんですか?」
とりあえずわたしはファイルを元に戻してお茶を淹れて、副担任に出した。名前は忘れたけど、クラスメイトたちからは美紀ちゃんって言われてた。
「あっ、どうぞ座ってください」
「失礼します……」
副担任をソファーに座らせてた後でわたしもその反対側にあるソファーに座る。
「フェノンさんでしたよね。まだ小さいのに生徒会長なんて凄いですね」
「そうでしょうか? ただやりたいことをやってるだけなのでそんなに凄いわけでは……」
まずは穏やかな世間話から入っていった。けれど、わたしも副担任も情報を聞き出せないかと探り合っている。お互いに顔は笑っているけど、空気はピリピリとしている。
「……こういうのやめません? わたし苦手なんですよ」
「じゃあ単刀直入に言います。知ってる情報を全て吐いてください」
思ったよりもシンプル過ぎて逆に驚いた。少しぐらいオブラートに包んでくるかと思ったのに。
「言える範囲でなら教えますけど、わたしもそちらの情報は欲しいですね。いまクラスはどんな感じになっているのか……とか?」
「わかりました」
交渉が成立して、副担任もとい美紀ちゃんから話を聞いた。
クラス転移をしたあと、クラスメイトの二人が居ないことに気づいた。けれど、その二人は見つからなかった。それから王城で鍛練を積み重ねて行くうちに1人の生徒が自殺してしまったそうだ。
そこから少し歯車が狂い始めたそうだ。今は石塚くんのお陰で保っているが、彼が消えたらクラスは崩壊するレベルにまで来ている。
そんなクラスメイトたちの目的は王都にいつ襲ってくるかわからない魔王を討伐して欲しいとのこと。お母様を探してるのはお母様と魔王が繋がっていると聞いたらしい。
魔王を討伐すれば元の世界に帰してくれるとのことで、みんなで魔王を討伐するらしい。
「これぐらいですね。私からはここまでです」
恐らく王家はクルミさんを追い出したことを黙って、死んだことにしたのだろう。それほどクルミさんが邪魔だったということなのだろうか?
確かクルミさんは王城に居た頃は文字を覚えようとしてたはず……もしかして、王家は異世界人に文字を読まれるのを恐れている?
「そうですか。ではそれに見合った情報を教えますね」
わたしはお茶を一杯飲んで、カップを置いた。
「まず、魔王は確かに存在しますが、別に戦争を引き起こしたりするようなものではありません。魔王は別の大陸に住んでるだけの魔族と呼ばれる種族の王様です。そして『古代種殺し』と魔王の接点は元冒険者時代のパーティーメンバーです」
「じゃあ魔物はなんだと言うんですか!? 魔王が作って苦しめているんじゃないんですか!?」
王様から聞いてた話と全く違う話をしたわたしに驚いてソファーから立ち上がり、いきなり怒鳴り始めた。
「魔物はその辺に住んでいる魔力を持たない動物たちが多量の魔力を摂取した時に変化する自然現象です。そして、魔力を多く含んだ魔物は栄養価がとても高く、高級食材として重宝されます。これぐらい常識です。覚えておいてください」
わたしが言うと落ち着いたのか、美紀ちゃんはソファーに座った。
けれど、わたしはこれ以上に残酷なことを伝えなければならなかった。
「……これからわたしはあなたに酷いことを伝えます。それでもあなたは知りたいですか?」
「……」
副担任は真剣な表情をしたわたしに対して、少し考え、頷いた。
「わかりました。実は召喚魔法は一方通行です。この世界から元の世界に帰る方法はありません。これはわたしが魔法に興味を持った時に調べた本です」
わたしはクラスメイトたちが元の世界に帰れないことを伝えると、美紀ちゃんの顔色は少し悪くなっていた。
恐らく王家の知られたくない真実はこれなのだろう。けれど、これ1つだけならクルミさんを排除する必要はないはず。クルミさん以外が解読しようとしたら、地球には無い単語が多いので、最低でも一年は掛かる。
でもクルミさんは天才だから数日で全てを理解した。王家がクルミさんを追い出したのはその頭脳を恐れたから……?
まあ、とりあえず説明に戻ろう。
「召喚魔法の定理。召喚魔法は転移魔法とも言われてます。特定の条件を絞ることでその対象となるモノを持ってくることができます。ただし、送り返すことは出来ません。持ってくることが出来るだけです。
故にお金等の窃盗や強力な魔物の召喚を防ぐために召喚魔法は禁忌魔法とされているのです。……大丈夫ですか?」
美紀ちゃんの顔色はとても青かった。少しやつれているようにも見えた。
「はい……」
「情報量が多すぎましたね。簡単に言うならあなたたちは王家に騙されてます。魔王の討伐後、王家の恐れる対象はあなたたちです。あなたたちはすぐに虐殺されるでしょう。今のうちに全員でこの国から出ることをおすすめします。
わたしからは以上ですが……盗み聞きするぐらいでしたら中に来てください」
「え?」
美紀ちゃんはわたしがいきなり扉に向かって言い始めたので、少し驚いた。
先ほどから魔力の気配がするかと思ってたらやはり1人いた。恐らく先ほどの魔道具を使ってた人だろう。
すると扉が開いて入ってきた。確か風紀委員長の……なんだっけ? まあ、風紀委員長でいっか。
「お前先生に何を吹き込んで……」
「威圧感が凄いですね。女性なのですからそんな汚い言葉遣いはやめてくださいよ。それにわたしが教えたのはただの真実ですよ」
「黙れ!!」
いきなり怒鳴り始めた。何か不味いことでもしてしまったのだろうか?
「お前の発言が正しい証拠などないだろッ!
先生、こんなヤツの言葉なんて信じるだけ無駄です! 帰りましょう!」
風紀委員長は美紀ちゃんを連れて生徒会室を出ていった。
「まあ、アイツらがどうなろうとわたしには関係ないか」
わたしは再び校外学習の計画を練るためにファイルを取り出して席に戻った。
夜になって生徒会室を出て寮に戻ったわたしは入浴の準備をして、リアと大浴場へと向かった。
「リアもだいぶ馴れたんじゃない?」
「そうかもな。でも今日だけは入りたくなかった……」
リアはわたしと浴槽に浸かりながらシャワーを浴びてるクラスメイト数人を眺めながら言っている。もう恥ずかしがってる素振りは見せない。少しぐらい顔を逸らして欲しいところではある。
「ねえねえ、リア」
「ん? どうし━━━━━━」
わたしは立ち上がってとある部分をリアにガッツリ見せると、リアは顔を赤くしたまま動かなくなった。
「リア? 大丈夫?」
「お前よくもやりやがったな……」
「え? ━━━━きゃっ!?」
リアが思いっきり水をかけてきた。そこからはリアと水のかけ合い勝負が始まった。幸いにも他の人がクラスメイト数人だけだったので、「生徒会長あんな子供らしい所もあるんだ」と思われる程度で済んだ。
ある程度疲れたところで切り上げて食堂に向かった。食堂は夕食前にお風呂に行くと空いているのでスムーズに食べられる。
「フェノンちゃん、横いいかな?」
「うん、どうぞ」
わたしの横に嘘探知魔法を持ったクラスメイトが座った。
少し変に思われたかもしれないけど、気にしない。さすがに「はい」と言えないのをバレたくない。バレたら終わりだとわたしは考えて行動する。
「お友だち?」
「うん」
リアを指して言ったので、頷く。リアもわたしの忠告を覚えているようで黙っている。
「私服になるとずいぶん雰囲気違うんだね」
「うん」
わたしが「うん」としか返さないと会話のネタが尽きてきたかのようになってきた。
「きょ、今日は良い天気だったね……」
「うん」
「……何か会話しない?」
「うん」
いつまでも返事をマトモに返さないでカレーを食べきる。
今はこうして一緒に食べてるけど、きっとお母様と戦うことになったらわたしは……
「ごちそうさまでした。では失礼します」
わたしはリアと食堂を離れて部屋に戻った。
「お前少しは会話してやれよ。可哀想だったぞ」
「これでいいんだよ。余計なこと言って変に詮索されるよりはね」
「そうか」
翌日、わたしは朝早くに起きて生徒会室に向かって、壊れた椅子の修理をしていた。
実はこういう雑用もわたしがやらないといけないらしい。
「……どうしました? 教室ですか?」
「いえ、今日はフェノンさんのことを聞きにきました。昨日は私たちのことを言っただけでしたので……」
わたしの後ろには美紀ちゃんがいた。
美紀ちゃんしつこい。先に自分たちの現状を考えなよ。
「わたしのことを話す必要なんてありません。今すぐ王都に帰って、夜逃げの準備でもしてください」
「……そうですか」
美紀ちゃんはトボトボと生徒会室を出ていった。
「フェノンくん、なかなか冷たいこと言うじゃないか」
クルミさんが生徒会室の床から出てきた。
「クルミさん、こんな所に居ていいんですか? バレても知りませんよ?」
「大丈夫さ。それに床の隠し通路を私の部屋と繋げてくれたのはフェノンくんじゃないか」
生徒会室にある隠し通路は元生徒会長が外に脱出する時のために作ったものなのだが、わたしはそれを利用してリアの水魔法で地面を深く削ってもらって、寮の3階にあるクルミさんの部屋まで繋げた。
地下から3階までは
クルミさんはレスキュー隊が使用している鉄の棒でスルーと降りるヤツが良いと言ったのだが、昇る時どうするの? となったので、
「まあ、それはともかくとして話し相手になってくださいよ。ちょっと勇者様たちが来てからだいぶ疲れたので……」
「フェノンくんのストレスの原因は私にもあるからね。いくらでも聞こうじゃないか」
とりあえず思ったこと全て吐き出した。クルミさんは黙ってわたしを抱きしめて話を聞いてくれた。
「わたしは『うん』しか答えてないのにずっと話かけてくるんだよ。おかしくないですかッ!?」
「彼女は仕方ないさ。陽キャだからね……おっと、お客さんのようだ。じゃああとは任せるよ」
そう言ってクルミさんは床下に消えて行った。すると扉がノックされた。
「どうぞ」
「教室を借りたいんだが、いいかな?」
「構いませんよ。少し待っててください」
わたしは椅子の修理に使ってた工具箱と修理中の椅子を持って石塚くんたちを教室に案内した。
クラスメイトたちは椅子に座って会議的なことを始めた。
わたしも持ってきた椅子の修理を再開した。背もたれが壊れているので、新しい板に取り換える。
「待ってください! それどういうことですかッ!? 王城の話と違うじゃないですかッ!?」
「王城の人たちが嘘ついてたってこと? でも魔法には何も引っ掛からなかったよ!?」
向こうは話がややこしくなってきたようだ。わたしは手を止めて立ち上がった。
「嘘探知魔法には抜け穴がありますよ」
わたしの発言にクラスメイトたちが一斉にこっちを見た。
この人たちにはさっさとご帰宅願いたいので、一気に上手く言いくるめて帰って貰うとしよう。
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