第17話 せーとかいちょーの座を奪ったよ!


 縦ロールのお怒りを買ったリア。二人は自分の尊厳をかけて勝負することになった。

 そしてわたしやエリー、モブ一行は練習場に移動して二人の勝負を観戦することになった。先生は「毎年1人はいる」とか言ってあっさり許可を出した。


「どちらかの戦闘不能、もしくは降参で終わりだ。剣も魔法も自由に使え。では試合開始!!」


 先生が試合開始の合図として旗を勢いよく下ろした。

 その合図と同時に木剣を構えたおバカ二人。わたしならこの瞬間に後ろに回り込んで殴りかかってる。


「どうした? 来いよ」

「その油断が敗北の原因ですわ。『ボルテックス』!!」


 縦ロールの雷魔法がリアにめがけて打ち込まれた。そしてリアはそのまま受けたけど、何事もなかったかのように立っていた。


「弱っ。そんなお前に本当のボルテックスを見せてやるよ。『ボルテックス』!!」


 今度はリアの雷魔法が縦ロールに当たった。わたしはその頃、リアの秘密に迫っていた。

 リアって雷魔法使えたっけ……? リア適性魔法って風魔法と空間魔法じゃなかった……?

 そんなこと考えてたら試合が終わってた。


「勝者リア!!」

「うえーい! あっ! あそこにフェノン!」


 リアがわたしを指さして大きな声を出した。すると負けたのが嫌になったのか迫ってくる縦ロール。もうオチが見えたよ。


「フェノンフェリナス! 勝負なさい!!」

「……負けたらどうするの?」


 もちろん勝負するからにはなんらかの報酬が欲しい。特にお金とかお金とかお金とかお金が欲しい。


「負けたら……あの男はアンタにあげますわ!」


 先ほど合掌された少年よ。喜べ、君はわたしの報酬になったぞ。


「足りないねぇ。やっぱりコレがないとね」


 左手の親指と人差し指でわっかを作って縦ロールに見せる。

 すると縦ロールは納得したのかわからないけど、今年1年間、全ての食事代を請け負うとのこと。もちろんそれには乗った。

 こっちはお金が欲しいのだ。


「では試合開始!!」


 木剣を構えたおバカさんにわたしは後ろから蹴りを入れた。

 蹴りを入れられたおバカさんは頭から倒れた。


「(い、いつの間に後ろに……? 魔法の気配とか一切しなかった。それなのにどうやって!?)」

「……アイツ汚ないな」


 リアはこれからわたしが何をするのか理解したらしく、その言葉を発した。

 わたしは勝つときは確実に勝てる手を打つ人。なので、透明化を使って色んな方向から蹴りを入れ続ける。

 なお、透明化は後ろからは見えるようにしておいたので、モブたちがわたしの透明化に気づくことはなかった。先生は気づいてるようだったけど。


「うん、これで終わり」

「そこまで!!」


 わたしが縦ロールの頭にめがけて木剣を振り下ろそうとすると危ないと思ったのか先生が止めに入った。


「この勝負はフェノンフェリナスの勝ちだが、あとで職員室に来い」

「え?」


 それだけを言って先生は練習場を出ていった。

 わたしが驚いてる間に縦ロールが「これで勝ったと思ったら大間違いですことよ」とか言って逃げて行った。報酬の少年は要らないけど、一応貰っておくことにした。

 わたしは少年に首輪をつけた。


「フェノン、お前……」

「だって報酬だから貰っておかないと」

「本人の許可を取れ」


 その首輪をつけた本人を見ると何処と無く嬉しそうだった。コイツの区分も地雷のような気がしたので、首輪を外して解放した。

 そしてわたしは元気に職員室まで出頭しました。


「フェノンフェリナス、お前何者だ。記録を見る限り住所はおろか、全て不詳。それに加えてあの身体能力、魔力操作の応用。どうみても子供が出来るものじゃない。お前は一体……」


 先生はめっちゃ怪しそうにわたしを見てくる。

 別にただのチートお母様の娘ですけど……たぶんお母様が余計なことしたんだろうな……でもこういうときはやっぱり!


「フェノンフェリナス……ただの宝石好きの女の子だよ」


 めっちゃドヤ顔でそのセリフを捨てて職員室を出ていこうとすると職員室の扉が勢いよく閉じた。そして魔力でコーティングされ、厳重な金庫のようになった。


「まだ話は終わってないぞ」

「この程度じゃわたしを捕まえられませんよ」


 わたしは豪快に職員室を出ていった。


「……マジか」



 翌日、わたしは今日も職員室に呼び出された。


「フェノンフェリナス、今日はお前に頼みがあるんだ」

「なんですか?」


 昨日は扉も破壊しちゃったし、いろいろ迷惑かけたからできるだけ協力してあげようかな?


「生徒会長になってくれ」

「……せーとかいちょー?」


 先生から出たお願いはわたしの想像の斜め上を行くもので、理解が追いつかなかったわたしは首を傾げた。


「実はな……」


 それから先生は現状の学園の生徒会について話始めた。どうやら生徒会長は縦ロールの兄らしく、その権力で他の生徒たちに暴力を振るってるらしい。他にも虐めにも関係してるらしく、このままではウチのクラスにも被害が出るんだとか。縦ロールをボコボコにしたリアのせいで。

 だからわたしへの依頼はアイツをボコボコにして、生徒会を乗っ取ってくれ! というものだった。


「リアが迷惑かけたようだし、仕方ないからやってあげる」

「いや、正確にはおま━━━━━━」

「それでなにをすればいいんですか?」


 先生が何か言いかけたけど、わたしはそれをかき消すように口を挟んで、具体的な方法を聞いた。

 すると先生は何故か大きなため息を吐いた。


「生徒会にこの書類を出す。生徒会長と試合をする。勝てば生徒会長。負ければ犬。それだけだな」

「……わかりました。面倒なことはごめんですけど、今回だけですからね」


 すると先生が手を差し伸べてきたので、握手を交わし、先生と生徒会室に向かった。


「ところで先生、わたしなんかを『せーとかいちょー』にしていいんですか?」

「お前は1年生だから担任の俺が口出し出来るからな。それだけで充分だ」


 どうやらわたしを生徒会長にして先生が自由にしたいだけだったようです。……何かムカつくからあとで殴ろ。

 そして、生徒会長の座を奪うために生徒会室に突撃したわたしと先生。


「これはこれは1年生か。どうした? この生徒会会長様の手下になりたいのか? 喜んで許可しよう。俺様はそんな女が大好きだぞ? さあ、メスのように働け」


 生徒会室の扉を開けて第一声がコレだった。そしてその生徒会長はいきなりズボンを脱ぎ始めた。


「帰っていいですか?」

「ダメだ」


 そしてズボンを脱ぎ、パンツを脱いだ生徒会長。年齢的にまだ毛はなかった。


「コイツが生徒会長になりたいんだとさ。勝負して力の差を見せてやれよ」


 あたかもそっち側の人間かのように言う先生。

 そしてそれと同時に笑い始める下半身露出狂の変態。そろそろ隠して。汚ない。


「そうか。バカなやつだ。くくくっ……わかった。ついて来い」


 生徒会長に案内されると明らかにヤバい拷問器具が見える部屋に誘導された。


「この部屋にお前が1時間居られたら、生徒会長の座を譲ってやる。お前が負けたら奴隷にでもしてやる。さて、試合開始だ」


 ……聞いてた話と違うんだけど? てっきり決闘スタイルかと思ってたのに拷問に耐えろ? 先生、逃げ道なさそうだから諦めるけど、あとで覚えておきなよ。


「ほら、まずは服を脱ぎな」


 変態は何か言い始めたけど、1時間部屋に居るだけなのだから逃げればいいだけの話。けど、罠もいくつかあるようだ。部屋はだいたい一般的な家のリビングぐらい。そんなに広くない。


「罠の位置を把握できるのか。まあ、その程度じゃ俺様には勝てな━━━━へぶっ!?」


 魔力の壁に激突した生徒会長。彼は今もなお、下半身裸である。

 そしてそのまま魔力の壁で変態を閉じ込める。


「わたしの勝ちかな?」

「こんなメスごときに俺様が負けるわけがねぇ! 『アースランス』!!」


 魔力の壁の中で土魔法を使って突破しようとする変態。しかし、魔力の壁は傷つくことすらなかった。


「お前ごときの魔法でわたしに勝てるわけがないでしょ? どうしたの生徒会長? わたしを奴隷にするんじゃなかったの?」

「クソ! 俺様は絶対諦めない!! お前を倒してみせる!!」

「(うわっ、どっちが悪役かわからなくなってきた……)」


 何故か観戦席でわたしのことを冷たい目線で見てくる先生。先生もそんな余裕があるのも今だけだよ? この試合が終わったら先生もその絶望を身を持って知ることになるからね?

 そして、魔力の壁の中の酸素が減ってきたのか、呼吸が荒くなってきた生徒会長。少し苦しそうである。


「苦しい? 助けて欲しい? でもそうやって人を苦しめて来たんでしょ? なら仕方ないよね? もっともっと苦しんでわたしを楽しませてよ!」

「き、きさま……」


 壊れてやがる……! みたいな顔をしてる先生。でもわたしはただふざけてるだけである。何故ならわたしの本性はメンタルが弱すぎるただの泣き虫だから。


「ギブする?」

「ま、負けを認める。認めるか……ら……」


 生徒会長はそこで息を引き取った。わたしの頭の中ではチーンという音が流れた。


「勝ったォどーー!!!」

「そ、そうかよかったな……」


 わたしがばんざーいとやってると先生がゆっくりと拍手をした。

 それから変態元生徒会長を解放し、一応1時間経ったのを確認して部屋を出て、その足で食堂まで向かった。


「他人のお金で食べるごはんさいこー!!」

「フェノン、お前最近キャラ崩壊が酷いぞ」


 リアのわたしへのツッコミは消え、遂にはキャラ崩壊を疑われた。

 いや、これはお決まりじゃん? 言わないといけないやつだと思って……女の子が言うセリフじゃなかったかもね。どうもすいませんでした。


「そうそう、わたし『せーとかいちょー』になったよ」


 リアとエリーが同時にフォークを地面に落とした。そしてそれと同時に食堂が静かになった。


「「いまなんて言った?」」

「せーとかいちょーになった」


 聞かれたことにそのまま答えるとリアとエリーは互いに顔を合わせて数秒後、発狂した。


「「ホワアアアアアアアアっ!!!!?」」


 そして食堂にいた他学年の人たちも食器を落としたり、顔芸をしたりと、変わった反応を示すものが多かった。

 みんなの中でわたしってどうなってんの……?


「ごちそうさまでした。じゃあ部屋先に戻ってるから鍵借りるよ」


 わたしはリアから寮の鍵を奪い、食器を片付けて部屋に戻った。


「とりあえず着替えてお風呂行こ」


 袴を脱いで、部屋着のワンピースに着替える。その後、シャンプーやタオルなどの必要なものを持って大浴場へと向かった。

 そしてお風呂にゆっくり浸かってから出て、髪を乾かす。


「隣いいかい?」

「あっ、うん。どうぞ……」

「失礼するよ」


 横にとある部分おっぱいがかなり大きい黒髪の人が座った。そしてそこでわたしは気づいてしまった。

 彼女が前世で通っていた学校のクラスメイトだったということに━━━━━━


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