第7話 やっぱりお母様が1番怖かった


 星刻印の精錬が終わり、ナタリーと馬車に戻った。


「フェノン、どんな星刻印貰ったの?」

「これ!」


 お母様たちに左手の印鑑で押されたヤツを見せる。


「なにこれ? 初めて見たわ……」

「私もです。これ何なんでしょうか? フェノン様、水晶は何色に光りましたか?」

「えっ……?」


 わたしは必死に目を逸らして外をじっと見る。頼むからその期待の眼差しをやめて欲しい。死ぬから。

 わたしは長い時間の据え、意を決して言葉を発した。


「光らなかったの……」

「「……え?」」


 お母様とナタリー、二人合わせて抜けた声を出した。


「それで変なおじいさんがこれでいいやとか言って……」

「はあ!? ちょっと仏像破壊してくるわ!」

「エマ様お止めください!!」


 お母様を必死に抑えようと努力するナタリー。しかし、お母様には手も足も出なかった。

 そして数分間お母様は馬車を離れ、帰ってきた時にはお母様の手元には仏像の頭部があった。


「さあフェノン、好きなだけ殴りなさい」

「エマ様! やめてください! 仏像のライフはもう0です!!」


 その名言こっちにもあるんだ……というか本当に仏像を破壊しないでくれます? これどうするの?


「エマ様、この仏像が消えた教会はどうするんですか……」

「あの男にでも請求すればいいわよ。妻の面倒もしっかり見れない夫だと世間に知らしめてやるのよ」


 それお母様も非難されますよ。ついでに言うとわたしまで非難されますよ。


「ナタリー! フェノンが凄い冷たい目で見てくるんだけど!」


 お母様のテンションがちょっと上がったような気がした。でもわたしはそこに触れなかった。なんか触れてはいけないような気がした。


「当たり前です。エマ様に呆れてるんですよ」

「なん……ですって……?」


 なんでショック受けてるの。当たり前でしょ。お母様は一体ヒトをなんだと思って……


「フェノン、冗談よね……? お母様間違ってないよね?」


 なぜ確認する。自分で考えればすぐにわかるだろ。


「フェノン様、ゴニョゴニョ……」


 ナタリーが横から耳打ちをしてくる。ナタリーの言った通りに言えと。


「おかあさまなんてきらいです! もっとおかあさまは優しい人だと思ってました! 仏像様をこわすなんてひどいです!(棒読み)」


 終始完全に棒読みだったが、お母様は両手をついて凄いダメージを受けてるようだった。でも若干興奮してるようにも見えてしまった。


「待っててねフェノン。今すぐ作り直してくるから!!」


 その考え方はおかしい!! 謝ってきて!!

 それから1分もしないうちに仏像が出来上がり、お母様が許して許してとねだってくる。わたしはシュークリーム1年分で納得した。


「そういえばあのおじいさん宝石なんとかがどうとか言ってましたよ」

「宝石……もしかして庭にあるアレ?」

「エマ様、アレって何だったんですか?」


 ナタリーがお母様に聞いた。わたしもそれは気になっていたのだ。


「ダイヤモンド」


 あまりの言葉にわたしは首を傾げた。


「ゴリラ?」

「どう聞き間違えしたらそうなるんですか。ダイヤモンドですよ」


 ダイヤモンド? それってあのお高いヤツ?


「フェノン、ほんの少しだけ魔力出して見てくれる?」

「うん……?」


 よくわからないけど、とりあえず魔力を少し出してみる。以前より魔力量が格段に増えてるので、調節が少し難しい。


「こんな感じ?」

「じゃあ魔力を切り離してみて」


 切り離す……? どうやって? まあ、イメージかな。

 魔力を切り離すと、魔力が石ころへと変わり、足下に落ちた。


「これは……!?」


 ナタリーが拾い上げるとどうみてもそれはブルーサファイアだった。


「フェノン! 絶対に外で魔力を出さないようにしなさいッ!! というか外に出ないでッ!!」


 肩を掴まれ、めっちゃ迫られた。必死過ぎる。さすがにこの魔法はヤバいと自分でも思うけど、さすがに外に出るなとは……キツイっすね。ほら、せっかく異世界転生したんだから冒険者とかやりたいじゃん? それなのに外に出られなかったらニートと変わらないじゃないか。


「私がフェノンを常に守れるとは限らない。だからフェノンは自分のことを自分で守れるようにしてもらうからね?」

「え……?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る