第5話 ステータスという名の縛り

 さて、色々とあったが……早速動くとしよう。


「さて母さん、これでも俺は25年後の魔術師……の知識を持った子供な訳だ。だから色々と知ってる。特に、基礎能力の限界を突破する方法とかね」

「基礎能力? それって、ステータスとは関係のない身体能力のこと?」

「そう。まぁ、限界を突破するというか……祝福の儀を受けると女神からクラスとステータスを授かるだろ?」

「えぇ」 

「授かった後だと、クラスに縛られちゃうんだよ。もし戦士のクラスを授かれば筋力や敏捷力、つまり前衛職に必要な能力の成長に補正がかかるけど、魔力やMPは一切上がらなくなってしまう。でも祝福の儀を受ける前に魔力量を上昇させることが出来たら、それは限界を突破したと言ってもいいだろ?」

「……そうね。でも、基礎能力って鍛える意味があるの?」

「くく、それがあるんだよ。何故だか分かる?」


 この議題に関しては俺も結構時間がかかった。

 母さんは俺があるという答えを予め出してるからすぐに思いつくだろうけど、俺の場合意味があるのか分からない状態で研究を始めたからな。


「うーん。……あっ、そっか。ステータスは戦場に立った時基礎能力に上乗せする形で解放される身体能力。基礎能力が高ければ高い程有利に立てるってとね!」

「そう。……突然だけど、タルタロスの足枷ってあるでしょ?」

「え? え、えぇ。奴隷がつけてるアレでしょ? 戦場に立ってもステータスが解放されなくなる奴」

「うん。で、祝福の儀を受けた後だと戦場に立っていなくとも全ての行動はステータスの成長に繋がるよね?」

「えぇ。スキルの獲得とかね」

「そう。で、奴隷剣士っているでしょ?」

「えぇ。借金とかが原因で闘技場で見世物にされてる人達ね」

「うん。で、そういう人達ってさ。釈放されてから、つまりタルタロスの足枷が外れてからやたら活躍することが多くない?」

「……そういえば、そうね」

「でしょ? それが肝だったんだ。俺がこの理論を思いつく為のね」

「……はぁ~成程ね。凄いわね、ヴァレリー。こんなこと思いつくなんて」

「あ、分かった? 流石母さん。早いな。フィーは理解するまでもうちょっと時間がかかったんだけど」


 と、母の頭の回転の速さを褒めた所で、ふとノエルがずっと黙っていることに気付いた俺は、聞いてみることにした。


「そういえばノエル、ずっと黙ってるけどどうしたんだ?」

「え? あっ、いえ……別に全然話についていけなかったなんてことはないんですよ? えぇ。本当に」

「……そっか。……あー、そういや俺まだ飯食ってねぇや。頼める? ノエル。母さん喉渇いてない? お茶、きれてるけど」

「ん? あー、そうね。私からも頼むわ」

「畏まりました!」


 足早に部屋から去って行くノエル。

 まぁ、仕方ないっちゃ仕方ない。

 メイドとしてはかなり有能だけど、基本的に頭じゃなくて感覚で動くタイプだからな。フィーと同じで。


「で、話に戻るけどさ……逆行の魔術を完成させてから研究を始めて、3ヶ月はかかったかな~。ちょっと懐かしいや。まぁ、ともかくそういうことだから祝福の儀までに出来るだけ鍛えないといけない。祝福の儀を受けたら、もう二度と基礎能力を鍛えることは出来ないからね。まぁ、奴隷になるようなことがあれば別だけど」

「……今の理論聞いて思ったんだけど、私が貴方に教えられることって、ある?」

「そりゃ魔術以外だよ。俺は前世魔術一辺倒だったんだ。近くに寄られたら何も出来ねぇ完全後衛型」

「私も、完全後衛型の魔術師なんだけど」


 そう聞いて、ハッとする。

 魔術関連の知識は、25年分リードしているから今更教えてもらうことなど一つもない。

 咄嗟に脳内を精査し、母さんに教えてもらいたいものをあげる。


「……あー、さっきの話術とか?」

「それ、基礎能力関係無いでしょ」

「……済まん。金銭面とか、鍛える為の環境の用意とか、そういう面でサポートしてくれると助かる。体力とか筋力とかは、ノエルに頼むことにするよ」

「そうね。明らかにそうした方が良いわ。……はぁ、気合入れたけど、無駄になっちゃったわね」

「いやいや、無駄じゃないから! 戦闘技術以外なら幾らでも教えられるだろ?」

「そうね。まぁ、そもそも最初はそういうのを教えるつもりだったんだものね」

「そ、そう! そういうことさ! うん! だから母さん、落ち込まんでくれ。俺まで悲しくなって来る」

「そう、慰めてくれてありがと。……ふぅ、よしっ! どんと任せなさい! 幸いお金ならお父さんの遺産が……って、そういえばもう知ってるんだったわね」

「ん? あぁ。親父と離婚したから今村に住んでるけど元々貴族なのでしたって話だろ? 12の時聞いた。ってか、フィーと同じ学校に通ってたって話したろ」

「そうだったわね。……まぁ、とにかくお金ならかなり貯蓄があるから、任せてちょうだい。欲しい本とかがあれば、買って来るわ」

「うん、頼む」


 よし、これで俺のやることに違和感を持たれずに済む。

 かなり動きやすくなったな。


「お食事が出来ました。ヴァルドレイド様」

「ん、ありがとう。ノエル」

「いえ」

「あとノエル、今度遊びに行こうぜ。そうだな……川にでも」


 俺がそう言った瞬間、


「……魚ですか? 魚なのですかにゃっ!?」


 ノエルのテンションが上がる。


「はは、やっぱ猫だな。語尾出てるぞ」

「にゃっ!? ……も、申し訳ございません。フローラ様!!」

「もういいわよ、別に。あのクズと同じ趣味になって欲しくなかったから抑えてもらってたけど、もうバルちゃんじゃなくてヴァレリーだから」

「ほ、本当ですかにゃ!?」

「えぇ。耳も尻尾も出していいわ」

「あ、有難う御座いますにゃ!!」

「あぁ、でも家の外では隠してね。村の人達は獣人を怖がっちゃうから」

「あ、はい。それは承知しておりますにゃ。有難う御座いますにゃ! ヴァルドレイド様!!」

「はは、いいよ。別に」


 猫人、あるいはケットシー。

 それがノエルの、本当の姿なのである。


 ちなみに母さんと父さんが離婚した原因は、父さんの獣人趣味が酷すぎたことらしい。人種で差別をせず受け入れるだけならむしろ魅力だったのだが、妻である自分を放って獣人の娘を愛でるような人だったのだとか。


 では何故結婚することになったのか? 簡単な話である。

 いわゆる政略結婚という奴だ。

 侯爵だった父さんの父と、同じく侯爵でわりと仲の良かった母さんの父が2人を結婚させたのだ。

 そう、母さんは玉の輿で貴族になったのではなく元々貴族なのだ。

 しかし……ならば何故今俺達が村に住んでいるのか? 曰く「だって戻ったらまた誰かと無理矢理結婚させられそうだし?」とのこと。

 要するに、母さんはもう結婚するつもりが無いのである。

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