会議

「・・・今日の議題はこれで終りです。他になにかありますか」


 定例の院内会議です。


「ちょっとよろしいですか」

「事務部長。なんだね」

「木村先生のことなんですが」


 木村先生の名が出てきて会議室に異様な緊張が走ります。


「みなも関心があるだろうから良いだろう。病状を診療部長よろしく」

「はい。木村先生は倒れられた時には既に末期癌で手も付けられない状態でした。あの木村先生がこんな状態になるまで放置されていたとは信じがたいですが、木村先生はよく了解されて緩和ケアだけを受けておられます。

 当初は三か月ぐらいと見ておりましたが、病状の進行は思いのほかに早く・・・今月もつかどうかではないかと」


 会議室に動揺が広がります。


「院長先生よろしいですか」

「事務部長どうぞ」

「木村先生は二つの要望をなされています。病室と山本先生への対応です。特別室に御移り頂くように何度もお願いしましたがお断りされています。病室は仕方がないとして、山本先生への対応をなんとかできないでしょうか」

「それは・・・」

「これは事務部一同からのお願いです。もう見てられません。対応する事務職員も辛くて限界です。ここに事務部全員の署名がある要望書があります。どうか変更の許可をお願いします」

「看護部も同じ意見です。看護部からも看護師全員の署名を記した要望書を提出させて頂きます」


 二枚の要望書をじっと読む院長でしたが、


「君たちの気持ちはよくわかる。他ならぬ私が一番そうしたい。つい先日も木村先生を見舞った時に持ちだしてみたのだが、それだけは宜しくと念を押されてしまったのだ。それを私に変更なんて出来ないんだ」


 重苦しい空気が会議室を流れます。


「よろしいですか」

「看護部長どうそ」

「山本先生への対応の変更は難しいとしても、それ以外は良いのですよね」

「まあ、そうだが」

「一人お呼びしたい方がいます」

「誰だね」

「加納志織さんです。木村先生はプライベートをほとんどお話されませんし、家族との連絡もまったくされません。家族については仲がよろしくないと聞いたことがありますから置いとくとして、御友人を呼ばせて頂きたいんです。だって、倒れられてから誰一人お見舞いに来られていないじゃありませんか。そんなことが、そんなことが・・・」


 院長はしばらく何かを考えていたようですが、


「ところで加納志織さんって誰なんですか」

「山本先生が入院中にお見舞いに来られた方で、木村先生の高校時代のお友達だそうです。御職業はカメラマンです」

「ああ、あの有名な写真家の加納志織さん。ただ木村先生はお見舞いの面会も喜ばれていないようだから、確認してみます。それで良いですか」

「時間がないので早急にお願いします」

「わかった、会議が終わり次第、御意向をうかがってくる」

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