私じゃないの

 カズ坊は仕事先だけ連絡してくれたらそれでOKって言ってたけど、ホンマにエエのかな。アイツだって好きな女の一人ぐらいおらへんのか。まあ、アイツの事やからいてもどうせ『片思い』やろけど。

 とりあえず仕事先にはおらへんな。女も来たけど全部一回きりの見舞いやから、ありゃ義理だ。つうかそんな適当そうな若いのはおらへんかった。他となると雲をつかむような話になるけど、出来たら連絡してやりたいな。そうすりゃカズ坊も元気が出るやろし。

 カズ坊をなんとか助けた時には『夢よもう一度』も思たけど、やっぱりウチじゃないよな。あんだけ毎日話してるのに、いつまでもタダの友達扱いやもんな。昔と一緒で嬉しい反面、やっぱり寂しいよ。どうしたってウチじゃお眼鏡に適わないみたい。ウチはカズ坊のお友達なだけ。

 でも誰なら知ってるかなぁ。アイツ高校の同窓会も顔出さへんかったし、卒業後も交友のある奴なんて知らんわ。それをいえばウチも似たようなもんやけど、なんとかしてあげたいもんや。


「先生、この写真集、素敵と思いませんか」


 なんやねん。人が考え事してる時に。ほう、なかなか綺麗な写真やん。こういうのはようわからんけど、ちょっと違うんだけは何となくわかる。誰が撮ったんやろ、加納志織って女性カメラマンか。加納志織、加納志織、ひょっとして、ひょっとして、


「これって、シオリの写真集だな」

「先生、加納志織を存じてらっしゃるのですか」

「いや、人違いかもしれん」

「こっちにカメラマンの写真もありますが・・・」


 間違いないシオリだ。たいしたもんや、写真集出るぐらいの売れっ子になったんや。まあ才能あったからな。そういうたら、シオリはカズ坊と中学も一緒やったはずや、いや小学校も一緒やったはず。シオリならなんか知ってるかもしれへん。つうか聞くだけ聞いてみてもエエか、


「ちょっと写真集貸してくれる」

「先生、お知り合いなんですか。今人気ナンバーワンの売れっ子カメラマンなんですよ」

「あ、うん。ちょっとした知り合いでな」


 事務所の電話番号はこれやな、


「シオリ先生。高校の同級生だったって方からお電話です」

「なんて名前」

「なんか病院の先生らしくて、キムラユキエさんて仰ってました」

「キムラユキエ、キムラユキエ・・・ああ、思い出した。委員長やん。こっちに回して」


 なんだろう。木村さんから電話なんて。


「久しぶり。写真集、見た」

「ありがとう」

「たいしたもんや、立派なカメラマンだ」

「木村さんもお医者さんになりはって」


 なんの話だろう。まさか写真集の事でかけてきた訳じゃないだろうし。


「・・・ところでな、山本和雄君を覚えてるか」

「覚えてるよ。小学校から一緒やから」

「実は・・・」


 全身の血の気が音を立てて引いていくのがわかります。途中から木村さんの話が耳に入りません。


「わかったわ、とにかくすぐ行く」


 スタッフに今日から一週間の仕事はすべてキャンセルするように指示し、なんだかんだと理由を聞きたがるスタッフを置き捨てて病院に急行です。なんで言うてくれへんの。言うてくれたら、言うてくれたら・・・カズ君の馬鹿野郎。こんな時に頼らなくて、いつ私を頼るっていうのよ。


 ・・・あれ? シオリは変だったな。まあいいか、女神様が来てくれたらカズ坊も少しは元気が出るやろ。ホントはみいちゃんが一番なんだろうが、人妻は拙いもんな。女神様を見て慌てるカズ坊を冷やかす楽しみが一つ出来た。

 でもウチがその役をしたかったなぁ。どうにもカズ坊の人生劇場の中では脇役にしかなれへんみたい。まあそれも一興か。悔しいけど、ウチじゃないの。どう頑張ってもウチじゃないの。それがこのユッキー様の役回りなの。

 カズ坊が生き返った時は死ぬほど嬉しかったんだ。あれはウチの命と引き換えにしたはずなのに、ユッキー様はどうして生きてるんだ。あん時にちゃんと死んでいたら、最悪のカス野郎が他の女にデレデレするところを見ずに済んだものを。やっぱりアイツが全部悪い。

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