ある日の木村先生

「木村先生、指示お願いします」


 しかしビックリしたなぁ。まさかこんなところでカズ坊に再会するなんて。かなり危なかったけどもう大丈夫のはずや。だいたいやなぁ、医者がスクーターなんか乗ったらあかんやん。今度みっちり説教したろ。ふふ、今やったら言いたい放題やからな。

 でも本当に助かって良かった。もしあのまま意識を取り戻さなかったら、どうしようかと思た。ホンマにカズ坊のゴキブリ並みの生命力に感謝やわ。それでもあれは拙かった。心拍が落ちかけた時に


「カズ坊、ウチの目の前でくたばったらタダじゃおかへんからな」


 思わず叫んでもた。叫んだって効果はないのに思わず出てしもたんよ。付いてた看護師が固まってたもんな。クール&ビューティの木村先生のイメージが台無しやん。それでもエエか、カズ坊助かったやんから。あれはウチの声が天国、いやアイツやったら地獄に落ちかけたんを呼び戻したと思とこ。絶対そうや、このユッキー様の声の力は絶大やからな。


「すみません木村先生、指示お願いします」


 いかんいかん、カズ坊が入院してからどうも調子狂てる。しっかしカズ坊は昔のままやな。成長つうもんがアイツにはないんか。アイツが昔のままやから、ウチもユッキー様に戻ってまうやん。あいつが意識を取り戻し時に、クール&ビューティの木村先生で対応しようと思てたのに開口一番、


「なんでユッキーがこんなとこにおるんや。また席替え一緒か」


 あれで全部狂てもた。事故後の記憶の混乱なんやけど、一遍に昔に戻ってもたやん。全部カズ坊が悪い、あのまま地獄に落としときゃ良かった。でもでも、本当に良かった、カズ坊が助かって。後は任しとき、ウチが腕によりをかけて元通りにしたる、そう完全に寸分違わんカズ坊に戻したる。後遺症なんか一グラムだって残すもんか。


「あのう何度も済みません、木村先生、指示ください」


 やっぱり地獄に叩き落としときゃ良かったかな。それでも後半年ぐらいはカズ坊はウチと付き合ってもらうわよ。みっちりとね、昔のようにね。

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