控えめに言って、異世界転生したい

火雪

第1話 担任が

の夢を見ている。


五年前のトラウマ。

忘れ去りたい過去。

過ぎ去った思い出。

取り返しの付かない時間。

僕等を散り散りにしてしまった


「ねぇねぇねぇ? ホンット、本当に〜やらなきゃダメ? 私、出来ればやりたくないし。帰りたいんだけど? あとYouTube観たいし〜お風呂にも入りたい」


大郷おおさと 瑠璃奈るりなが膝を抱えながら大仰に訴える。コンクリートの打ちっ放しの地面は、お世辞にも綺麗ではない。そんな事はお構い無く、お尻を地面に付け、小さく縮こまっている。

姿だけで言えば、小動物に見えてしまう。攻撃性など皆無で木の実を食べているだけの可愛らしい動物が容易に想像出来る。

その反面、発する言葉は猛獣そのものだけど。


先刻から瑠璃奈の言い分は「やりたくない」「帰りたい」「浩太こうたウザい」に尽きる。


僕と浩太側から言わせて貰えば、瑠璃奈の言い分は理不尽。ちょっとした言葉の暴力だ。裁判を起こせば勝訴確実。


今回の顛末は瑠璃奈が言い出し、瑠璃奈自身が企画した。

僕等は観客者だ。

………被害者とも言えるが。


「はぁ? お前がやるぅ~ウフフって言ったんだろ? 早くやれよバカ! カス! ブス!」


浩太が挑発する様に腰をクネクネさせ、強い口調………ひでぃ言葉を言い放つ。


「はっ? 浩太ウザッ。マジ死ね!! 腸をぶちまけろ! あとブスじゃねぇし〜美人寄りだし。渋谷に行ったらスカウトの嵐だし」


完全に小学六年生女子から出るセリフではない。

僕に直接、言われていないが目元全体を掌で覆い、現実逃避する。

目の前の現実より少しでも、優しい世界を見るために。


「サーちゃんもなんか言ってよ。このウンコ野郎のクソ野郎に!」


ジャイロボール並の変化球が僕の腹部に、抉る様に飛び込んで来た。驚く事に硬球で。

「なんか」と言われましても「あ〜」とか「い〜」を言っておけば良いのか? と安易に考える。が、発言すれば最後、浩太扱いに格下げされるので「う〜ん」と考えるフリで乗り切る。

フランソワ=オーギュスト=ルネ・ロダン作の地獄の門の上に居る、考える人の像ばりに考えるフリをしてみる。

考え過ぎてウンコしている様に見えたら謝りたい。


「ねぇ〜? なんか言ってよ?」


無理だった。

乗り切れない。

回避不可だ。

会話回避能力の無さで将来に暗雲が立ち込める。強い意志を持ち、回避能力を身に付けたい所だ

仕方ないのでここは忌憚の無い意見を言う事にした。


「今回はヤバいと思っているよ。出来れば中止したい………かなぁ?」

「三郎! 何だかんだでアイツ等は直ぐに消えるじゃん! だからイケるイケる! イッちゃおう! バンバン行こうぜ! いや、ガンガン行こうぜ!」


隣の浩太が何故かイケイケな返答をする。

今の浩太が興奮状態だ。たちを召喚した時から分かり切っていた事だったけど、浩太は召喚が大好きみたいだ。幾度も瑠璃奈に召喚を頼んでいる事も知っている。

今回は今回で、ではないので、楽しくて仕方がない様子だ。

遠足前の子供と表されても仕方ない位に、テンションが高い。


「スライムは攻撃されなかったけど………今回はでしょ? さすが危ないよ」

「だ〜か〜ら〜この倉庫だろ? 見ろよ! この敷地を! もう俺たちは自由だって感じで最高!」


浩太はその場で、手を広げて回る。

イメージはサウンド・オブ・ミュージックのデイム・ジュリー・エリザベス・アンドリュースの様だ。


現在、僕等は街から離れた廃工場に居る。立地条件が非常に悪く、経営悪化続きで潰れたらしい。浩太のお父さんの関連会社で、今年一杯で解体が決定していると聞いている。

僕等はそこに目を付け、数時間掛かりでここにやって来た。


をやる為に。


「瑠璃奈、やっぱり止めるよね?」

「………」


瑠璃奈は膝を抱えたまま、コンクリートの地面をじっと見詰めている。病院だったら、精神疾患者に見えたかもしれない。

だが違う!

付き合いの長い僕だから分かる。

またコレだ!

僕に意見を求めたのにコレだ! 

女は意見を求めるが、答えは求めていない。聞いて欲しいだけだ。瑠璃奈と知り合って、女の悩みは答えを求めるモノではなく聞いて欲しいのみと学んだ。僕の父親はこれを理解していないので、母親と良くバトっている。


瑠璃奈が沈黙して数分経過した。

彼女は、超絶に苦悩し始めると周囲を無視する。

ガン無視を国家権力並みに行使する。


先刻まで、やりたく無い感情が勝っていた筈なのに、今度はやりたい様だ。


「決めた! 私、やる! やってやるわよ! 召喚するわ! 私は召喚王になってみせるわ!」


訳の分からない事を喚き散らし、勢い良く立ち上がり、拳を作る瑠璃奈。

あちゃ〜。

結局やるんだ。実施しちゃうんだ。

僕は頭を抱える。もう生まれて来た事を後悔する様に懺悔の念を込めて頭を抱える。


浩太も瑠璃奈も、なんでここまでやる気なんだろうか? 本当に疑問だ。異世界から何かを召喚して、何が楽しいのか分からない。

そもそも、異世界系の物語は有象無象の様にあるけど、どれも面白くない。早く消えないかなぁ~って切望するコンテンツだし、オリジナリティが皆無な所が嫌いだ。日本のクリエイターを駄目にするし、読み手側にも思考停止させている。

実際に、異世界に行きたいかと問われれば、僕の答えはNoだ。逆に異世界の人をこちらの世界に呼びたいかという問いにも難色を示す。

結論から言えばやれやれと外国人ばりに呆れるだけだ。


う~ん。

やはり僕等が異能力者だから異世界に憧れるんだろうか?

と、いうのも僕等は何を隠そう、異能力者だ。


浩太の突然発現した能力スキル【 盗み見 】。

この能力スキル所為せいで瑠璃奈の能力スキル【 要らん事し〜 】が発覚した。

そして僕の能力スキル【 キス魔 】も発覚した。


ネーミングは浩太が全て決めた。

本人曰く「俺の能力スキルが無かったら、お前等の能力スキルは見付からなかったから俺が名前を付ける」という事らしい。


かなり迷惑だ。

何よりダサい。ネーミングからどんな能力スキルか分かりづらい。

本気で小学六年生のネーミングセンスを疑いたい。

関係無いが、日本の未来が心配で仕方ない。


と、いう経緯が色々有り、瑠璃奈の能力スキルで異世界の生物を呼び出す事にハマっていたのだが、遂に最大にして最高位の魔王を呼び出そうという事になってしまった。


「じゃ、そろそろ行くね! 来い魔王!」


瑠璃奈が拳を高らかと振り上げる。空を割らんとするばかりの振り上げ方だ。世紀末覇者っぽい人の壮絶な死を彷彿させる。


「お前さぁ。もっと呼び出し方ってあるだろ? 来い魔王で来るのかよ? 蕎麦屋の出前かよ!」

「来ます〜。マジうざっ浩太。もうナイフでめった刺しにしたい。ってか指ぱっちんでも召喚可能だけど、雰囲気と演出を兼ねて拳を天に突き出したんだもん」


指ぱっちんで呼ばれる魔王はシュール過ぎる。

ってか、スライムは異世界に存在したみたいだったけど、魔王は本当に存在するんだろうか? 人間が想像した物語の登場人物で、実際は居ないんじゃ?


「来ねぇじゃん!」

「来ます〜」

「来ねぇじゃねぇかぁ!」


二人の遣り取りを見ているのは、飽きないけど僕もそろそろ帰りたいので、横槍を入れる事にする。


「もう直ぐ夕方になるし、帰ろうよ」

「ちっ! マジガン萎えしたわ! 糞が! 瑠璃奈の【 要らん事し〜 】使えねぇ」

「うっさっ浩太! ってかってかスキル名ダサっ。私の能力スキル名は華召喚はなしょうかんって名前だし」

「違います〜。お前の能力スキル名は要らん事し〜です。俺が命名したから要らん事し〜です」

「はっ!? マジ、うざっ。もう浩太放置で帰ろう。サーちゃん」


瑠璃奈に手を引かれる。

悪くない。

いや、ありがとうございます!

瑠璃奈とは幼馴染の間柄で、家同士もかなり仲良しだ。瑠璃奈の家とはかなり格差があるけれど………。

そして何よりまだ男も女も区別出来なかった頃、一緒にお風呂に入った逸話がある。僕のメモリアルの中で輝かしい過去となって末代まで語り継がれる事になると自負している。


今、現在の所、彼女は僕の事をどう思っているのかは、分からない。

僕の方は幼馴染の障壁を越えたい。


「どうしたの? サーちゃん?」


ワイヤーを伸ばして、高い高い壁を越えられる機械があれば、と考える間に瑠璃奈に心配されてしまった。


「大丈夫、帰ろう」

「うん」

「浩太も………」


振り返ると浩太は腰を抜かした様に座り込み、わなわなと震えていた。


「どうしたの? 浩太?」

「あ゛あ゛あ゛あ゛」


声を正しく出せない様だった。

次に浩太の目線の先をゆっくりと見た。


そこには!!!


砂埃を立ち上げた中にいた者は、大きなリュックを背負い、右手には勇者が装備してそうな装飾がいっぱいの剣を持ち、左手には大魔法使いが持っていそうな杖を地面に突き刺していた。

身体はボン・キュッ・ボンとスタイルが良く。革製のビキニの様な服を着ている。もう裸よりエロい。

頭にはヤギの角ようなモノが、二本飛び出している。そして肌は薄いブルーだった。


これは誰がどう見ても魔王だ。

瑠璃奈は魔王召喚をやってのけた。


「○✕△%&?」

「え?」

「何だよ!?」

「わからないわよ」

「§❧❖?□¥」

「ヤバいよ? 逃げた方が良いよ」

「サーちゃんに賛成! 浩太は残れば」

「お、俺も逃げるに決まっているだろ!!!」


浩太は叫んだ後、立ち上がり駆け出した。

僕等も後に続く。

アレは絶対にヤバいヤバいヤバいヤバい。

頭の中で警鐘がずっと鳴りっぱなしだ。そんな時も小学六年生の子供だから後方が気になる。

恐る恐る振り返ると、


「アレ? 太陽」


と間抜けな声を出してしまった。


「バカ! 伏せろ三郎!!!」








「バン!」

「え?」

「起きましたか? 三村みむら 三郎さぶろう君」

「あれ?」


僕は教室の机に突っ伏していた様だ。

目の前には、お腹の大きい木村先生がにこやかに笑っている。

この人は確か、今日から産休で臨時教師と交代する………筈で………。

記憶が曖昧だった。挨拶をしている所で急激な眠気に襲われ、明晰夢を見ていた。あの事件の夢を。

やれやれ。五年も前の事なのに、まだ僕の中では根深く、深層心理のもっと奥に眠っている。

だからあんな夢を見たんだろう。


忘れよう。

ここには瑠璃奈も浩太も居ない。アレ以来、彼等には会えなくなった。いや、お互いに会う事を止めたのだ。

能力スキルの使用も自ら禁じた。

僕の能力スキルは頻繁に使えないし、使っても無駄だ。単純に犯罪で僕が塀の中に入るだけ。


「では、三村君も起きましたので新しい臨時の担任を紹介します。どうぞ」


僕は眠気眼で教卓を見据える。

木村先生は産休に入り、そのまま育休に突入する。つまりもう会えないのだ。彼女が休んでいる間に、僕等は卒業する。だから女子の中では、泣いている者も居る。

僕は、心にカビが生息しているので只々眠い。

担任としては優秀だったと言える。人生の歴代教師の中でもトップに君臨する。だからと言って、涙は溢れない。

寂しいなぁ〜。

人妻だなぁ〜。

という程度。もう今の段階では昼飯の心配にシフトされている位だ。


液岩えきいわと言います。皆さんよろしくお願いします」


教卓に臨時担任が立って挨拶をしているようだ。

僕はもう興味が無いので外を眺めていた。秋の空は澄んでいる。あの工場で魔王を召喚した時もこんな空だった。

あの魔王はどうなったんだろうか?

確かに召喚した。この世界に異世界の魔王を召喚したんだ。アレから五年も経過したのに、魔王が出たという話はネット上、テレビでも言われていない。

スライムも大量に召喚していたが、彼らもどうなったか今では分からない。スライムを捕まえたという話も聞かないし、自分勝手な事を言うが自然に消えていて欲しい。


「君が三村みむら 三郎さぶろう君ですか?」

「へ?」

「久しぶりですね」

「え?」


周囲がガヤガヤする。「知り合いだったの?」とか「どんな繋がり?」など様々な事を言われている。


知り合い?

どんな繋がり?

目の前に居るのがだったら、思い出そうと必死になっていただろう。

僕の眼前に直立するのは人間サイズのスライムで、尚且スーツを着ていた。

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