ビー型でわるいかっ!

「ああもう何なのよ!」


 ベシィッ!


 ビー子ちゃんが本を床に叩きつける音が響きました。



「さっきまでおとなしく本読んでいたかと思えば……何やっているんだ?」

 音を聞きつけて、エー太くんが様子を見にきます。



「それがさー……まわりの人から本を借りたんだけど。」


「借りた本を床に叩きつけたのか? ダメだろ。」


「書いてあることがチョームカつくのよ。」


「はぁ。何の本?」


「血液型占い。」


「ビー子はビー型だっけ。」


「そう。それがね、ひどいのよ。エー型は几帳面、オー型はリーダーシップ、エービー型は天才肌、どれもすごいじゃない。なのにビー型だけ『マイペース』なのよ。何がマイペースよ! 長所でもなんでもないじゃない。むしろマイナスだわ。」



 なんだ今更……そう言いかけてエー太くんは言葉を変えました。


「いやー、良いんじゃない? 図太くてストレスに強いかもよ。」



「強くないわっ。現に今、多大なるストレスを受けているもの。」


 ビー子ちゃんの怒りは収まりません。

「あーあ、なんでビー型の特徴だけ何の役にも立たないのかしら。とんだ貧乏くじだわ。」


 本をパラパラめくりつつまたも

「ほらね、やっぱりビー型の特徴だけ、どれも役に立たない。」とブツクサ言うビー子ちゃん。



 エー太くんはフォローするのをやめて、別のことを言う作戦に変えたようです。

「じゃあ、血液型占いなんか信じるのやめたら? そんなの信じている人間は個人的に好きじゃないな。今時血液型で人をどうこう言うのは差別に当たるし、『ブラッドハラスメント』略して『ブラハラ』なんて言葉も出てきたらしいぜ。知ってる?」


 しかしエー太くんのこの発言は火に油を注いだようです。


「『血液型占いなんか』『そんなの』って何よ! こっちにとっては一大事なんだからね! あなた方には分からないでしょう!」


 その言葉に今度はエー太くんもカチンときたようです。


「『あなた方』ってなんだ! なんだか分からないカテゴリーに俺を入れるのはよせ! ああもううっとうしいヤツだな、なんて言えば納得するんだよ。占いの結果が気に入らないなら好きなように解釈するか、信じないようにするか、どっちかにすれば良いんじゃないのって言っているんだよ、俺は。」


「占いの結果を都合よく解釈したり、ひねくれて『信じない』って言ったり……そういう問題じゃないでしょ! お神籤を引いてみて気に入らなかったら、自分勝手に解釈したり『気に入らないから信じない』って言うの!?」


「血液型占いはお神籤かよ! そんなに崇める必要ないだろ。っていうか血液型占いの言うことが絶対なんだったら、文句を言わず借りた本も投げずおとなしく受け入れてりゃいいだろー!!」



 その言葉にビー子ちゃんはハッとしました。


 しばらく沈黙が続きます。



「そうか、そうよね……。」

 ビー子ちゃんは頷きました。


「私、血液型占いというより、血液型占いを信じる人々を信じていた。それが証拠に私は、知名度が低くて話題に上らない占いは信じていなかったわ。みんなになんと思われるか、みんなの中で自分がどういうキャラであるか、それを気にしていたの。……でも人から信じられて嫌なことは、まず自分が信じなければいいのね。」



 エー太くんは安堵したようにため息をつきました。


「そういうことだ! 人から嫌なことを言われても、信じたくなければ信じるな。占いに限らずいつでもそうであれ。分かったな?」



「うん。」



「よし。まぁお前は占い云々以前に、お前の心の奥底……いや浅いところに潜む悪魔をなんとかした方がいいけどな。」


「え、悪魔をなんとかするのはエー太の役目でしょ。」


「なんでセルフコントロールを放棄しているんだよ。やっぱお前マイペースなビー型だわ。」


「こら、私なんかの特徴をビー型のそれと決めつけたら、他のビー型の人に失礼でしょ。謝りなさい。」


「何急に尤もらしいこと言ってるんだよ。でもたしかに。ごめん。」



「けど他の血液型がうらやましいなぁー。」

 ビー子ちゃんは急に寂しげに笑いました。


「私ね、こういう占いでいいこと書いてあった試しがないの。だから他の人がうらやましかったのよね。自分もいいこと言ってもらいたかった、仲間に入れて欲しかったっていうか。」



「ふぅんなるほど……。」


 エー太くんはしばらく考え、提案しました。

「ならこういうのはどうだ? 俺はエー、お前はビー、二人合わせて天才。……反則かもしれないけれど。」



 それを聞いたビー子ちゃんの表情がぱぁっと輝きました。


「二人合わせて天才! それいいわね! エービー型にはすごく憧れていたの。まぁたしかに反則だから、それ、二人の中だけの秘密にしましょ。」


「うん、じゃあそれで。」

 エー太くんは照れ笑いを浮かべました。



「よぉーし。二人合わせて天才だと思うと、なんかすごいことできそうな気がしてきたわ。……そうだエー太、今日から『漫才コンビ ーエビタコー』復活してみる?」



「漫才はもういい!!」


 動揺したエー太くんの叫び声があたりに響き渡りました。

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