第18話 内部の反乱


 俺は城の執務室で反乱勢力からの挑戦状をじっと見つめていた。


 領内で不穏な動きがあることは以前から感じ取っていたが、ついに行動に出たのだ。


 俺が再建を進めている領地には、まだ完全に払拭できていない不満が潜んでいた。


「ついに来たか……」


 俺は呟いた。


 反乱の兆候を探るため、少し前から民間の情報網を使って調査を進めていたが、今回の反乱は単なる農民の一揆ではない。


 腐敗した貴族たちが裏で糸を引き、彼らがこの機に乗じて領主である俺を追い落とそうとしているのだ。


 俺が考えを巡らせていると、執事のグレゴールが静かに入室してきた。


「若様、反乱の一派がすでに動きを見せ始めています。城下町の一部がすでに彼らの手に落ち、さらに他の地区への影響も懸念されています。」


 グレゴールの報告に、俺は眉をひそめた。


 城下町を押さえられると、補給路や民心の掌握が一気に難しくなる。


 放置するわけにはいかない。


「反乱のリーダーは誰だ?」


 俺は冷静に質問した。


「主犯格は、腐敗した貴族の一人、ルドルフ卿です。彼はかつて領内の商人たちと裏で取引をしており、今も商人ギルドの一部と結託しています。また、農民たちの不満を煽り、彼らを武力行使に巻き込もうとしています。」


 ルドルフ卿か。


 俺は内心でため息をついた。


 俺が改革を進める中で、こうした既得権益層が抵抗するのは時間の問題だったが、思っていたよりも早く行動に出たのだ。


「状況は悪化しているが、冷静に対処しよう。まず、ルドルフ卿の動機と彼の背後にいる勢力を明確にする必要がある。力で押さえつけるのは簡単だが、裏を見抜かない限り、根本的な解決にはならない。」


 俺はリリィを呼ぶようグレゴールに指示した。


 補佐官としての彼女の助けが必要だ。


 しばらくすると、リリィ・ホワイトが部屋に現れた。


「お呼びですか、アーサー様?」


 彼女は真剣な表情で尋ねた。


「反乱勢力が具体的な行動を起こした。ルドルフ卿が裏で操っているのは確かだ。だが、彼一人でこれだけの力を集めることはできない。他にも背後に何者かがいるはずだ。」


 俺は手にしていた挑戦状をリリィに渡した。


 彼女は一読し、鋭い目つきで返した。


「この挑戦状……挑発的ですが、背後にもっと大きな計画が隠れているように感じます。反乱自体は表向きの口実かもしれません。」


「その通りだ。だからこそ、今は慎重に動かなければならない。武力で鎮圧するのは最後の手段にしたい。まずは彼らの意図を探り、できる限り交渉で解決したいところだが、もし交渉が不可能な場合には……」


「その場合、武力行使しかないですね。準備は進めておきますが、アーサー様はあくまで冷静に対処されることを望んでいますね。」


 リリィの言葉に俺は頷いた。


 俺は血を見ることを望んでいない。


 転生してからの俺は、平和なスローライフを求めていたが、この領地に生きる以上、争いを避けることはできないのかもしれないという現実が徐々に押し寄せていた。


「よし、まずはルドルフ卿に密使を送り、彼との直接対話を試みよう。もし彼が応じるなら、今後の展開も変わるかもしれない。」


 そう決めた俺は、すぐにグレゴールを通じて密使を準備させた。


 俺自身は反乱の背景をさらに調査するため、領地の情報網を総動員して、腐敗貴族たちの動きを洗い出す計画を立てた。


 ***


 数日後、俺の元に密使が戻ってきた。


 ルドルフ卿との会談の結果は芳しくなかった。


「アーサー様、申し上げにくいのですが……ルドルフ卿は交渉を拒否し、反乱を強硬に進める意向を示しました。」


 報告を受けた俺は、黙ってその場に立ち尽くした。


 やはり武力衝突は避けられないか――。


「これ以上の対話は無駄か……ならば、こちらも防衛と鎮圧の準備を急ごう。だが、民間人を巻き込まないよう、できる限りの配慮をする。」


 俺は静かに命令を下した。


 リリィはその決意を受け取り、すぐに行動に移った。


 城下町にいる兵士たちに指示を出し、守備隊の配置を再確認するとともに、民兵たちの協力を求める準備を進めた。


 ***


 その夜、俺は城のバルコニーに立ち、暗闇の中に広がる城下町を見つめていた。


 俺の頭の中には、転生してからのこれまでの出来事がよぎる。


「スローライフなんて、どこにあるんだ……」


 俺は苦笑した。


 転生前はただ静かに生き延びたいと願っていたが、現実はそう甘くない。


 領主としての責任、領民を守るための義務、そして反乱勢力との対決――それらすべてが俺にのしかかっていた。


 しかし、俺の心の中にはまだ希望が残っている。


 どんな困難が待ち受けていようと、自らの知識と努力で平和な日々を取り戻すことはできるはずだ。


 俺はこの領地を守り、いつかは静かな生活を手に入れるために、戦わなければならないと決意した。


「ルドルフ卿、そしてその背後にいる者たち……お前たちの陰謀に俺は屈しない」


 俺は夜風に向かってそう誓い、領地を守るための新たな戦略を頭の中で組み立てていった。


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