虹の架け橋プロジェクト!

@Ak386FMG

第1話 虹を渡ろう!

 今日も、雨は上がったけれど、虹は出なかった。あれからもう何度か雨が降っているけれど、この前の豪雨を最後に虹が出ていない。条件が悪いのか、運が悪いのか。「虹の架け橋」プロジェクトで多くの人が新世界に行ってしまった。私は、いわゆる「留置組」である。「新世界」に行った人たちと対比してそう呼ばれている。

 数年前にある国が発案し、様々な国がそのプロジェクトに乗っかった。そのプロジェクトがようやく今年の3月に始まったのである。虹が現れたとき、その虹を渡っていけば、「新世界」にたどり着くことができ、悠々自適な生活ができると言われていた。世界中の多くの人々がすでに「新世界」へ渡ってしまって、こちらの世界はがらんとしている。東京はそれなりに人がいるけれど、歩いているときに人にぶつかる心配をする必要が全くない。通勤ラッシュ時の満員電車なんてどうやって乗っていたか忘れてしまった。

 人がいないのでこちらの世界も結局仕事がほとんどなくなった。スーパーなども人型ロボットが対応してくれている。「新世界」がどうなっているのかは知らないけれど、知り合いの話によると、仕事はしなくていいし、遊ぶところもたくさんあるし、「めっちゃ楽しい!」らしい。早く来いよと言われたが、わたしはそのとき断った。私は石橋をたたいて渡るタイプである。いやむしろ石橋をたたいて壊した上で、あーあやっぱり壊れたか、と思うタイプである。要はそれくらい慎重なのだ。新しい世界ができたからといって、ほいほい行くようなタイプではない。


 虹が出ないことを確認し、それでも自分の部屋の窓から外をぼーっと眺めていたら、空を何かが飛んでいるのが見えた。

「うーわー」

 それはサッカーボールくらいの丸いピンク色の何かで、私は慌てて金属バットを取り出し、ベランダに出て思いっきりバットを振った。

 ズドン。重たい音が鳴る。私は思いっきり空振りしていて、丸い何かが私の部屋の窓に突っこんでいた。

「こんちには、僕の名前は、クマノリ」

 丸い何かは、まるで何事もなかったかのように振り返ってしゃべり始めた。

「あれ、聞こえてないのかな。こんにちは、僕の名前は、クマノリ。シンセカイからやってきたんだ!」

 私が黙っていると、クマノリはもう一度自己紹介をした。短い手足が、丸く顔のついた胴体にくっついていて、その短い手足をパタパタと動かしながらしゃべっているのだけれど、あたかもそうすると女子ウケするということを意識してやっているようで少しイラっとする。

「あれ、聞こえてるかな。君は、藤野紫くんだよね」

「なんで、私の名前を……」

「なんでって、僕は君に呼ばれてきたんじゃないか!」

 クマノリは、飲食店で呼び出しのボタンを押されたので注文を取りに来ました、みたいな雰囲気で語るが、私にはそんな呼び出しボタンを押した記憶なんてなかった。

「あれ、おかしいな。君が『新世界』へ行きたいって願ったんじゃないの?」

「いや、願ってはないけど……」

「でも行きたいなとは思ってたでしょ」

「まぁ、少しは」

「なら一緒に行こうよ。僕は、君を『新世界』へ連れていくために来たんだ」

 クマノリの説明によると、新世界へ行くには、認証が必要らしく、そのサポートをするためのマスコットがいるらしい。それが、クマノリ達だというのである。つまり、虹を渡るのには彼らの手助けが必要であるということだった。

「いや、ちょっと今は……。あの、風邪ひいてるんで」

 わざとらしくケホケホと咳をする振りをすると、「大丈夫?」と本当に心配してそうな表情になったので、少し良心が痛んだ。

「いや、ちょっと、体調が万全じゃないから、今はちょっとね……」

「そっかぁ、じゃあ、僕もしばらくここに居させてもらうから、治ったら一緒にいこうね!」

「いや、それもちょっと……」

 そういって、苦笑いをしたときである。ピンポーンとチャイムが鳴った。ドアについているカメラの映像を確認すると、帽子で顔は見えないが、配達員っぽい。今どき配達なんて珍しい。それに何かを注文した覚えはないが。

 はーいと返事をして、ドアを開けようとしたそのときだった。

「あ、藤野くん、開けてはだめ!」

 え?と言った時にはもう玄関のカギを開けていて、その瞬間、玄関のドアが一気に開いた。

「No.537541、見つけました」

 その言葉と同時に配達員が私の部屋に一気になだれ込んできて、そのまま私に覆いかぶさった。必死に手足をばたつかせて抵抗するけれど、何人かで手首や足を抑えられていて、動かない。

「クっ、だ……か、たs……」

 誰かを助けを求めようにも、のどを抑えられて言葉がうまくでてこない。息が苦しい。思いっきり息を吸おうとしても全然息ができない。もう死ぬ。そう思ったときだった。

「おう、あんちゃんら、人んちで何してんねん」

 なんとか顔の向きを少し変えて声のする方を見ると、そこには、金髪でいかつい感じの美少女が。目の錯覚か。死ぬ前にいいもん見えた。しかし、あのピンクのパンツは……。もしかして……。

 その瞬間、今まで私の上に乗っていた配達員っぽいごついやつらが一瞬にして空中に舞い、そして開いている玄関の方へ吹き飛んでいった。

「二度と来んな。ボケ」

 私は目をうたがった。

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