第68話 第2回イベント6
『プー、プー、プー、プー』
俺は今、全力で走っている。
洞窟の中の比較的大きな部屋。
6つあったはずの出口は全て土の壁で塞がれて使うことが出来ない。
この状況を作り出した相手は3人組のパーティで、それぞれ盾、杖、本を装備している。
幸いプレイヤーのスピードはそんなに速くないが、このままだといつか倒されてしまうだろう。
魔力剤で回復しながら次々に魔法を放ってくる2人と、土の壁をひたすら作って、俺の逃げる場所を減らしていく盾野郎を見ながらため息を吐く。
またこのパターンかよ……
会議の日から2連休を挟み、今回のイベントも残すところあと2日になった。
自称親友よりも稼ぐ為にログインした俺は今日だけで6時間、最低でも20回以上はレアモンスターとして働いているが、まだ1度も逃げきれていなかった。
それどころか毎回20分足らずで撃破されてしまう。
なぜ、こんなに簡単に倒されてしまうのか?
理由はわかっている。
昨日、攻略法が配信されたからだ。
しかも動画を上げたのは、またしてもリン。
それを知った時、個人的にあいつを敵だと判断した。
方法は単純で、土の壁を生成してレアモンスターを閉じ込めるだけ。
ちなみに、水の壁や、火の壁だとHPは1削れるが、魔物がすり抜けてしまうらしい。
土の壁……消費魔力10、耐久力は魔力に依存。
難しい取得条件は無く、ただイメージするだけで使えるようになる。
攻略が公開される前から同じことをやってる人は居ただろうが、この方法は爆発的に広がってしまった。
誰でも簡単に覚えることが出来るせいか、今やイベントダンジョンに挑戦するプレイヤーのほぼ全てが使用してくる。
勿論、壁の性能は低い。
しかしレベル1のスライムでも壊せるような脆い壁でも、攻撃が0の俺達には破る手段は存在しない。
そんな事を思い出してる間に部屋の半分以上が土になり、逃げるスペースはどんどん狭くなっていく。
「そろそろ行こう」
杖を持った女性が本を装備している男に声をかけた。
「「アローレイン」」
2人が同時に唱えた魔法により、赤と青に輝く矢が雨のように迫ってくる。
1本、2本、3本、飛んでくる矢を躱していく。
時には縮み、時には平べったくなり、時には針のように縦に伸びる。
人間のアバターだったら間違いなくヒットしていたが、今の俺はスライムだ。
ある程度までなら体を変形させる事が出来る。
だてに何度も殺されてないぜ
特にこのタイプの魔法は嫌になるほど味わった。
途中で相手が何か喋っていた気もするが、聞き取る程の余裕は持っていない。
全ての矢を避けた俺はついつい叫んでしまう。
どんなもんじゃい
『プププ、プププギャー』
設定に変更はなく、口に出した声は挑発するような鳴き声に変わってしまう。
達成感からか、少しだけ楽しくなってくる。
認めたくはないが、相手を煽ることが楽しくなってきた自分がいる事を否定出来なくなってきた……
青筋を浮かべた3人が土の壁を量産する。
わかっていた。
残念ながら閉じ込められた時点で敗北濃厚なのだ。
まだ始まってから10分程度、制限時間まで残り1時間50分。
流石に完走出来る気はしない。
だったら、せめて魔力剤を使わせまくってやる。
『プギャー』
冷静にさせないように敢えてプレイヤーの近くで飛び跳ねる。
部屋の7割が壁で埋まった。
『プップー』
土の壁を作る盾持ちの前に行っては寝っ転がってゴロゴロしてみる。
空間の8割が土で覆われた。
『プルプルプルーン』
本を持つ相手の腕にダメージ0の突進をお見舞いする。
もはや一本道よりも細くなった部屋に2人の声が響き渡る。
「「アローレイン」」
迫ってくるのはさっきと同じ技。
隙間のない攻撃に飲まれながら俺は決意した。
リン、お前だけは許さない。
体が光ると共に視界も白く染まっていく。
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