第94話 権堂富士の宝
権堂富士に開いた穴の断面を見て、この築山の構造が分かった。
どうやら本体はコンクリート造りで、その上に土を
僕たちが穴から出ようとしたとき、国税局のソバカス女が入ってくる。
芙蓉さんが、ソバカス女の前で立ち止まった。
「私たちを、利用しましたね?」
「なんの事でしょう?」
芙蓉さんの質問に、ソバカス女はあくまでもとぼける。まあ、国税局としては、脱税の証拠を見つけるために、呪殺師を雇ったなんて事実は絶対に認めないだろうね。
「とにかく、あなた達の仕事は終わりました。どうぞお引き取り下さい」
「この事は、抗議させていただきます」
「お好きにどうぞ。でも、仮にあなたの言う通りだとしても、互いの上層部では話し合いはついているはずですよ」
話は終わったとばかりに、ソバカス女は立ち去ろうとする。
「仮に上層部で話し合いがついていたとしても、うちの霊能者には危害を加えないという条件が付いていたと思いますが」
ソバカス女が、ピタっと立ち止まる。
「どなたか、怪我をされたのですか?」
すると、芙蓉さんは僕を指差した。
「見ての通り、うちの霊能者は未成年です。その未成年者が、呪殺師にキスを強要されました」
「え?」
「これって、セクハラですよね。そちらではそこまでする事を、呪殺師に許可されていたのですか?」
「ええっと……呪殺師というのがなんのことであるか分かりませんが、後ほど事実を確認させていただきますので、今日のところはお引き取り下さい」
「良いでしょう」
芙蓉さんは、僕達の方へ振り向く。
「帰るわよ」
穴から外へ出て、権堂富士を
途中、池の前で芙蓉さんは立ち止まった。
「この池の中に、入り口が隠されていたのよ」
ここは昨夜、男の子の幽霊が教えてくれた池。
あの子の遺体は、今もここに沈んでいるのかな?
「でもさ、芙蓉さん」
樒が池を指差す。
「式神ならこんなところを通らなくても、壁を抜けて中に入れるんじゃないの?」
「権堂富士の壁には、軽い結界が設置されていたのよ。権堂さんも霊能者との付き合いがあったから、式神とか生霊に隠し金庫を見つけられると警戒していたのだと思うわ」
そう言えば、サラリーマンの幽霊は、最初は結界があって築山の中に入れなかったと言っていた。
ヒョーは自分の式神をコントロールするために、一時的に結界を解除したのか。
そして、僕を拉致してから、再び結界を元に戻した。
だから、式神も池を通らないと入れなくなってしまったんだな。
あ! そうだ。
「芙蓉さん。帰る前に結界を解除しないと」
周囲を見回すと、浮遊霊たちが集まってきている。
サラリーマンの幽霊が僕の前に寄ってきた。
「よかったよ。私たちの事は、忘れられていたのかと心配していたんだ」
「やだな。忘れるわけ、ないじゃないですか」
ごめんなさい。忘れていました。
結界杭は、簡単には引っこ抜くことはできないけど、実はドライバー一本で蓋を開けて中のお札を取り出せる仕組み。
三か所のお札を取り出せば、幽霊は通り抜けられる。
その中の二つを解除して三つ目に取り掛かった時、結界が緩くなったのか男の子の霊が僕に近づいてきた。
ドライバーを回しながら、僕は男の子に話しかける。
「君はここの池で溺れたんだよね」
「そうだよ」
「まだ、遺体はここに残っているの」
「ううん。僕の遺体はとっくに回収されたよ」
「そっか。しかし、なんでこんなところで溺れたの?」
「僕は、ここに落ちたわけじゃないんだ。自分から潜ったんだよ」
え? まさか自殺?
「金塊を取に行こうとして、潜ったんだ。水泳には自信があったから。でも、戻るときに、金塊が重くて浮き上がれなくなって……」
「なんでそんな事を?」
「権堂富士の宝は、僕が成人したら相続することになっていたんだ。だから、先に一つぐらいもらっても」
「君は権堂さんの……」
「孫だよ」
「しかし、なんでそんな事を」
「あの時は、どうしてもお金が必要だったんだ。友達の家族が経営する工場が倒産しちゃって、夜逃げをしなきゃならなくなったんだよ。大切な友達だったので、別れたくなかったんだ。金塊さえあればと思って」
そうだったんだ。
「今でも時々、霊界からお爺ちゃんの様子を見に来ていたんだよ」
「そこへ運悪く、結界に閉じこめられてしまったんだね」
「そうだけど、せっかく霊能者が来ているのだから、頼みたい事もあったんだ」
「なにを?」
「お爺ちゃんに伝えて欲しい事があったのだけど、もう必要なくなっちゃった」
「必要なくなった? なんで?」
「権堂富士の宝を、貧しい子供たちに寄付してほしいと。でも、その前に税務署に見つかっちゃったね」
「そうか」
結界が解除されたのはその時……
結界から出ていく霊たちに僕は手をふった。
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