第72話 結界設置班
多摩丘陵の一角にある、総面積五百坪はありそうな豪邸。
この邸宅が、呪殺師ヒョーのターゲットにされた
屋敷の閉める面積は、その中の二割ほどで、八割は庭園。
その庭園の中で一際目立つのは、高さ十メートルはありそうな築山。
近所の人々は、権堂富士と呼んでいるとか……
確かに、塀の向こうで夕日を浴びている小さな山は、富士山に見えるな。
というか、富士山を模して作ったのだろう。
「しっかし、どんな悪いことすれば、こんな大きな家に住めるのかしらね?」
声の方を振り向くと、樒がバイクから降りるところだった。
「樒。悪いことをしないと、お金は稼げないと決めつけているのか?」
「ええ!? 違うの」
権堂邸の門前で樒とそんな事を話している僕たちの
トヨタのピクシスエポック。芙蓉さんの車だ。助手席には、ミクちゃんが乗っている。
芙蓉さんの車が止まったとたんに、門扉が自動的に開き始めた。
運転席の窓が開いて芙蓉さんが顔を出す。いつもの巫女装束だけど、これって運転に支障はないのかな?
「二人とも、私の後から着いて入ってきてね。バイクをそこらに止めちゃだめよ。
僕たちはバイクのエンジンをかけて、軽自動車の後を追って屋敷内に入っていく。
ふと、権堂富士の方に目を向けた。
ん? 山頂に誰か人がいる。あんなところで、なにをしているのだ?
おっと、よそ見運転は危ないな。
視線を一度前方に戻してバイクを停止させ、もう一度権堂富士の方を見た。
あれ? さっきの人がいない。
もう山を降りちゃったのかな?
いけない! 芙蓉さんの車から引き離されてしまった。
バイクを走らせていると、ほどなくして玄関前に着いた。
玄関前には、芙蓉さんの車と樒のバイクの他に、白いワゴン車が一台停止している。
ワゴン車の横には、『霊能者協会』とロゴが入っていた。
先に来ていた結界設置班の人達の車だな。
作業服姿のおじさんが、図面を広げて芙蓉さんに見せている。
結界の設置状況を説明しているのだろう。
バイクを止めて、ヘルメットを取ると芙蓉さんが僕の方を見ていた。
「優樹君。なにをしていたの?」
「いや、築山の上に人がいたものだから、気になって……」
それを聞いて、結界班のおじさんが僕の方を振り向いた。
「ああ! それはうちのスタッフだよ。築山の上から、結界の設置状況を、写真に撮っていたんだ」
「ああ、そうだったのですか」
その時、樹木の陰から作業服姿の女性が出てきた。
大きなマスクとサングラスで顔はよく分からないが、歳は二十代後半ぐらいだろうか?
女性はデジカメをおじさんに差し出す。
「主任。写真を撮ってきました」
「おお、ご苦労さん」
おじさんはデジカメの映像をチェックすると、芙蓉さんの方を振り向いた。
「では、御神楽さん。私たちはこれで引き上げます」
「お疲れさまでした」
「結界が式神に破られる事はないと思いますが、人の進入は結界では防げません。万が一、結界の内側に術者に入られたら終わりですので、十分お気をつけ下さい」
そう言い残して、結界設置班の車は帰っていった。
「よく来てくれたな」
結界設置班の車を見送っていると、突然背後から声をかけられた。
振り向くとそこには、すっかり頭髪が禿げ上がった小太りの爺さんが白いスーツを纏って立っていた。
今回の依頼人、権堂正三氏だ。
不動産業を営んでいて、年齢は今年で六十九だと言う。
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