第67話 なんで僕が?

「なんで僕が?」


 その予告状を読み、僕が思わずそう言ったのは、霊能者協会西東京支部での事。


 机の向こうでは芙蓉さんが、悩ましげな顔をして僕を見つめている。


「私が聞きたいぐらいだわ。優樹君。何かこの人に、指名されるような覚えはないの?」

「ありません。そもそも、僕は人から恨まれるような覚えなんて……」

「あるでしょ」


 声の方に顔を向けた。


「樒。君は、僕に何か恨みでもあるのか?」

「私はないけど、あんただって恨みの一つぐらい買っているでしょ。ゲームで、レベル差攻撃したとか」

「あれはギルメンに頼まれて仕方なく……てか、樒も頼んだ一人だろ! それに、たかがゲームの恨みで、こんな事をする奴なんて……」

「いたでしょ。エラが」

「まあ。いないとは言い切れないが……」

「それとさ、あんたここ数日、下駄箱にラブレター入っていたじゃない。ちゃんと返事しているの? 返事をしないで、相手に恨まれているんじゃないの?」


 確かにここ数日、僕の下駄箱にラブレターが入っていた。


 最初は嬉しかったりもしなくはなかったが、連日で入っているとちょっと不気味に思えてくる。


 それに、スマホ全盛の今時に紙のラブレターを下駄箱になんて……


 しかも内容はいつも一言だけ……


 なにより……


「樒。差出人の書いてないラブレターに、どうやって返事をするんだよ」

「え? 書いてなかったの?」


 僕はコクッと頷いた。


「じゃあ、『どっかで会いましょう』とか……」

「そういうのもない」


 内容はいつも『あなたが好きよ』とか『優樹キュン可愛い』とか一言だけ。

 

「とにかく、優樹君は身に覚えないのね?」

「ありませんよ。芙蓉さん」

「そう。ところで、実は今日、権堂氏から正式に護衛の依頼があったのよ。一応、協会としては呪術からの護衛を依頼してきた人は、原因を調べることにしているの。一回や二回なら護衛する事はできるけど、呪術は警察では対応できない。だから、一回や二回防いでも、術者は何度でも呪いをかけてくるわ。やめさせるには、術者と交渉する必要があるの」

「原因を調べたのですか?」

「ええ。協会所属のテレパスとサイコメトラーをつけて聞き取りに行ってきたわ」

「で、どうでした?」


 芙蓉さんは首を横に振った。


「権堂氏に、呪いをかけそうな人を特定できるような情報は得られなかったわ。それにこの人は法律に触れるような事はしていない。まあ、まったくなかったわけではないけど、呪われるような事ではなかったので、このことは協会内部の秘密にすることになったの」

「権堂氏は、何をやらかしていたのですか?」

「樒さん。それはプライバシーに関することなので話せません」


 そうだろうな。


「芙蓉さん。私たちだけなら、話してもいいんじゃないの? それとも、私と優樹がその情報を悪用するとでも?」

「優樹君は、そんな事をする子ではないと信じています」

「私は?」

「やるかもしれません」

「ひどい! そんなに私が信用できないの」

「はい。信用できません」


 いや、どうやったら信用できるんだ。今まで散々不正請求しておいて……


「まあ、それはいいとして」

「よくない!」


 樒の抗議を無視して、芙蓉さんは話を続けた。

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