第9話勘違いと羞恥

「おじゃまします......」


「いらっしゃい桜、どうぞ、上がって」


 昨日来たにも関わらずその顔はどこか緊張気味だ。


「桜、そんなもぞもぞとしてると昨日みたいな事を言うぞ?」


 そうすると桜はしっかりとした足取りで歩いてきた。


「桜、お昼ご飯食べた?」


「いや、食べてないよ」


 時間はそろそろ十二時を迎えるくらいの時間だ。

 俺は何かを作ろうと思い足をキッチンへ足を向ける。

 すると桜が俺の袖を引っ張って止めてきた。


「私が作るよ」


「さすがにお客さんに作らせるってのは」


「いいの!颯くんは座ってて」


 そう言って俺は押されて無理やり座らされる。待っててねと念を押されてされるがままになっていた。

 部屋を見渡すとただ広い部屋にポツンと一人。寂しさを覚えるが桜がいるだけでどこか安心感がある。何を作るか考えている彼女の背中を見ていると、新妻というよりも長年連れ添った夫婦みたいに思ってしまう。

 すると、桜が振り返って何か食べたい物ある?と聞いてくる。

 急いで自分の頭から煩悩を振り払い冷静に何でもいいよと返す。

 すると桜はムッと頬を膨らませるようにして不機嫌な感じを躊躇なくぶつけてくる。


は何が食べたいの?」


 桜は笑顔なはずなのだがなぜだか怖い。


「さ、桜??落ち――」


「わ、わわわ、私!?だめだよ!?」


 桜がなんか勘違いをしている。明らかにダメな方で......

 なんとか落ち着かせようと試みるがまるで俺の声が届いて内容でキッチンの隅っこでぶつぶつと何か話している。


「は、颯くん!」


 声が裏返って桜は両手で顔を抑えて恥ずかしそうにしている。


「は、颯くん。そういうのは大人になってからで高校生のうちからするものじゃないよ!!」


 やっぱり盛大な勘違いをしている。

 この誤解を解いた後の桜が少し可哀想に思えてくるがこっちの誤解をされている方が辛いので正直に伝えた。


「桜?俺が言おうとしたのは桜に落ち着いてって言うためだよ?別に桜が、その、食べたいとかじゃなくて......」


「「............」」


 桜の顔が一瞬にして茹でだこのように真っ赤に染まる。


「ご、ごめんなさい!!!」


 そう言って桜は全力で二階に逃げてしまった。二階は俺の部屋と母さんの部屋と物置しかないのだが......

 桜はしばらく再起不能そうなので結局昼飯は俺が作ることにした。

 特に好みとかが分からなかったため適当にオムライスを作ることにした。

 そこまで手間はかからないので十分強料理をすれば出来上がった。お盆に二人分のオムライス、スプーン、お茶を乗せて二階に運んでいく。二階に上がるとすぐの突き当たりに桜は体育座りをしていた。


「お昼ご飯食べよ」


 桜はコクンと頷き、ゆっくりと立ち上がる。

 変なことでも言って紛らわそうとも思ったのだが、今言ったら火に油を注ぐようなものなのでさすがに控えておいた。

 一階に戻るのもめんどくさくなって桜を自分の部屋に入れた。

 別に変なものは置いてないから特に入れても心配はない。

 桜を適当な場所に座らせてそれと対になるように俺も腰を下ろす。


「ごめんね......なんか盛大な勘違いをしちゃって」


「いいよ、誰にだって間違いはあるし」


 そうは言っても桜の表情があまり明るくなることはなく俺は桜のオムライスを借りてケチャップで字を書く。


『元気出して』


 崩れた字だしとても気の利いた言葉ではないけどこれが俺の精一杯だった。


「そうだよね、こんなことでしょげてても仕方ないよね」


 そう言って桜は俺のオムライスを取って何を書くか考えている。


『ありがとう』


 何に対するありがとうかは分からなかったけど今はこれでいい気がした。


「「いただきます!」」

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