第6話テスト期間
俺たちの学校はそこそこの進学校だ。
そこそこ頭のいい人は入ってくるが、東大、京大はおろか、その下のランクの大学に受かる人など精々一人二人といったところだ。
だから、そんなに勉強熱心なやつがいる訳でもない。だが、この時期はまるで学生の本文を思い出したかのように勉強をする。
そう、テスト期間なのだ!!
俺は基本暇な時間はゲームか勉強をしている。
どうにも飽き性なところがあって、ゲームは長く続いたことがない。
だから次第に勉強の時間が長くなったのだ。
その甲斐あってか前期の中間では十位以内に入ることが出来た。
あくまで勉強の時間が増えたのは3年の秋頃からだ......
理由は瑞希が――思い出さなくてもいいことを思い出してしまった。
しかも罰ゲーム付きで。定期テストおわったら絶対に三玖さんのこといじってやる。
しかし、褒める人がいない。なんだかんだ言って女子とは壁を作って来てしまったからな。
最初の方はよく話しかけられたが今は完全にグループが出来ていて女子が個人的に話に来ることなどほとんどない。
「あの、颯くん......」
振り返るとそこには内田さんがいた。
「ああ、内田さんか、どうしたの?」
「あの、颯くんって頭良かったよね?」
正直その質問は困る。
ここで「うん」とか答えても完全に自意識過剰なやつに思われてしまう。かと言って「いいえ」とも答えずらい。
よくある謙遜で返した。
「いや、そんなことないよ」
内田さんがこちらを睨むように見てくる。
「中間学年順位は何位でした?」
「ろ、六位です」
なぜかこっちまで敬語になってしまった。内田さんの圧力が強すぎる。
「そんな颯くんに相談というか頼みがあります!!!」
「ん?俺に出来ることならするよ?」
「言いましたね?二言はないですね?」
「ないから大丈夫だって」
「なら、良かったです。図々しいとは思いますが今週一緒に勉強して貰えませんか!?というか勉強教えてください!」
「そんなことでいいなら俺も協力するよ」
「それじゃあ今日から早速よろしくお願いします!」
それを了承すると満面の笑みで自分の席へ戻って行った。
放課後、璃久に内田さんと勉強する旨を伝えると「頑張れよ」と言ってきた。まるで他人事だな。一番ヤバイのは璃久だろ。
そうして俺と内田さんは学校近くの図書館に来た。
仕切りのあるカウンター席に座り各々テキストを広げる。
それからはしばらく話すことなく静かにペンを走らす音だけが聞こえた。
しばらくすると内田さんが腕をつんつんとしてくる。分からないところがあったらしい。
「どうしたの?」
「ここが分からなくて......」
「そこはこの公式を応用して......」
不意に横を見ると目の前には整った内田さんの顔があり、つい見とれてしまった。
「颯くん?」
と言って内田さんがこっちを向いてきた。
目線がぶつかる。
どのくらい経っただろうか、はっと気づくと二人の顔はみるみる赤くなっていき、なぜか二人とも謝りあってしまう始末であった。
その後は少し気まずくなってしまって、向こうから聞いてくることはなくなってしまい少し寂しく感じた。
集中しているとあっという間に時間は過ぎてしまい後10分で閉館という時間になっていた。
「ありがとうございました。とっても有意義な時間を過ごすことができました」
「こちらこそありがとう。家じゃあこんなに続かなかったよ」
「ふふっ、私もです。家ってとっても誘惑が多くて......」
「なんか、ソワソワしちゃうよね〜」
コクコクと内田さんが頷いてる。例えるなら小動物みたいな感じだ。うん。そりゃ可愛いわ。
「内田さんも最寄り駅は同じだったよね?」
「はい!そうですよ!」
駅まで行き、ホームで気になった事を一つ聞いてみた。
「あの、内田さんってどうしてこんな遠いところ受験したの?」
「颯くんだってそれは同じじゃないですか。私がこの学校を受験したのはクラスの中の位置づけが嫌いだってんです。いわゆるカーストですね」
「それは低いのが嫌だったということ?」
「いえ、その逆です。むしろカーストトップなら何してもいいみたいな風潮が嫌で環境を変えたくてこの高校に来てみたんです。」
「へぇ」と気のなさそうな返事をする。
しばらくすると電車が来た。
時間が時間なため電車内は混んでいた。
7時前後のラッシュ時間とかぶってしまったらしい。
だか、それよりもやばいことがある。
内田さんをいわゆる壁ドンしている状態になっているのだ。
ほのめかしい匂いが鼻腔を通り過ぎていく。
内田さんは俯いてしまっているが、大丈夫と聞くとすぐに頷いてくれた。
やばいやばい、颯くんに壁ドンされてる〜〜//
耐えられるわけが無い。
学校で1番といっても過言ではないほど美形な颯くんに壁ドンされてしまっている。自分でも耳まで赤くなっていくのがわかる。
熱くなってしまった顔を隠すために下を向いていると颯くんが「大丈夫?」と声をかけてくれる。
気を抜けばニヤけが止まらなくなってしまいそうだ。
大丈夫かな変な匂いしてないかな。今日体育あったし。
一応制汗剤はしたけど汗くさくないかな?
そんなことばかり気にしてしまう自分が少し嫌になった。
颯くんは自分のためにこうやってしてくれているのに......
でも、守ってもらえる感じ。いいかも。
そんなことばかり桜は考えてしまっていた。
なんとか自分の理性との長い格闘時間を終えてどっと疲れを感じていた。
「颯くんごめんなさい。色々と気遣ってくれて」
「別に内田さんが謝ることじゃないよ。今日誘ってくれたおかげで勉強時間も確保出来ただけだし」
「そう言ってくれると嬉しいです。それじゃあ逆方向なのでまた明日学校で!あと、明日もよろしくお願いします!」
「内田さん、今週とは言ったけどもしかして毎日?」
「え?違うんですか?二言はないはずなんですか......」
若干内田さんが俺をいじって来るようになった。内田さんってSっ気あったんだ。
それに時々ものすごい圧力を感じることがある。その時の内田さんには逆らえる気がしない。
「あ、うん分かったよ」
言わされた感じになっていたが別に嫌なわけじゃないし、むしろありがたい。
今日のように静かな公共機関で勉強できると言うのはとても有意義な時間だと思う。
だがそんな颯の淡い考えはすぐに打ち破られてしまうことになる。
家で軽く復習を行っているとメッセージの通知が届く。
内田さんからだ。
『明日はどこで勉強しますか?』
明日は土曜日なのでわざわざ電車を使う必要ないので無難に市営図書館でする事を提案した。
数分後、内田さんも同じ考えだったらしく時間と現地集合の旨を伝えられた。
翌日、時間通りに図書館に到着した。
まだ、内田さんの姿はなく、車が通る騒音だけが鳴り響いていた。
スマホを見て待っているといつの間にか内田さんが近くまで来ていた。
「おはよう内田さん」
「おはようございます颯くん」
挨拶を交わすと二人は早速図書館に入っていく。
学習スペースを見ると既に満席になっていた。
この近くには三つの高校がありどこの高校もテスト期間で図書館に来ているのだろう。
「どうしようか…」
困惑していると内田さんが覚悟を決めたかのようにこっちに振り向いた。
「私の家で勉強しましょう!!」
出そうになってしまった大声を飲んで、代案を出そうとする。
「ほ、他にも勉強できる場所はあると思うよ?」
「おそらくここと同じ有様だと思いますよ?」
その後も少し言葉による格闘が行われたが結局内田さんの家で勉強する事となった。
十五分程歩くと内田さんの家に着いた。
道中でも色々言っては見たものの無言の圧力によって完全にないものにされてしまった。完璧なまでに尻に敷かれている気がした。
「おじゃましまーす」
おそるおそる入るとまずは内田さんの部屋に案内された。
飲み物などを取りに行く前に「あまりジロジロ見ないでくださいね」と注意されてしまった。
女子の部屋に入るのなんて瑞希の部屋に入った時以来だ… と思い出したところで気づいた。あれ、また褒めなきゃいけない?なんだかんだ言って二回くらい言わなかったけど、内田さんといるときこのミス多くない?
すると内田さんが戻ってきてしまった。
「麦茶で良かったですか?」
「ああ、うん、ありがとう」
現実から少し目を背けたくなりたじろいでしまう。
「颯くん、どうかしましたか?」
「内田さんのギャップにちょっと驚いてて......」
「どういうことですか!!??」
なぜか食いついてきてしまった。
時々内田さんがどこに話の焦点を置いてるのかわからなくなる。
「内田さんって学校じゃお淑やかみたいな雰囲気あるけど、部屋は案外可愛らしいんだなと思って」
そう。内田さんって学校だと可愛いと言うよりは美人だ。
そんな人が女の子っぽい部屋を持ってるのはギャップがあって可愛いなと思った。
これがギャップ萌えってやつか......
そんなことを考えていると内田さんは神妙な顔つきで「へぇ、私って学校だとそんな印象なんだ」と呟いていた。
そんなことをしていても勉強が始まりそうになかったため「勉強しようか」と一声かけると教科書とワークを広げて勉強し始めた。
勉強し始めると部屋は先程とは一転して静かになった。
途中で何回か質問してくることはあったがそれ以外は基本無言で集中して取り組むことが出来た。そして、黙々と時間は過ぎていっていた。
何時間たっただろうか。休憩はほとんど挟まずにやってきたため、いつの間にか窓には夕焼けの光が刺していた。
内田さんも疲れてきたようで時計を確認するともう既に7時近くなっていた。
「そろそろ7時だからお暇するね」
「分かった、その辺まで送るよ」
と言うと、いきなり部屋のドアが空いた。
「桜?そろそろ晩御飯だけどお友達と一緒に――」
とこちらを見た瞬間に固まってしまった。
「あら、男の子だったの?今日晩御飯食べていかない?」
「いや、申し訳ないので――」
「あらあらそんなことないのよ。むしろ食卓が賑やかになっていいじゃない」
そう言われてしまうと断れずつい了承してしまった。
内田さんはずっとなんとも言えないと言った表情をうかべていた。
内田家は食事に関しては結構フリーダムで話をしていても大丈夫らしい。
「まさかね〜さくらが男の子を家に連れてくる日が来るなんてね〜しかもとってもイケメンじゃない!あんたも案外抜け目ないわね〜」
「やめてよ!お母さん今じゃなくてもいいじゃん!」
「まあ、そうだけど〜」
そんなやり取りを見てつい笑ってしまった。
「ちょっと颯くんまで笑わないでよ〜」
ちょっと半泣きの目でこっちを見てきた。
「ごめんごめん、内田さん」
「さくらって男の前だとそんなか――」
そこで内田さんが全力で口を塞ぎにかかった。もう、お構い無しって感じだ。
「ねぇ、内田さんってさ」
「ん?なに?」「なにかしら?」
「桜の家っていつもこんな波乱万丈って感じなの?」
「きょ、今日だけだよ〜」
そうすると内田母が桜に耳打ちする。
するとみるみる顔が赤くなっていってトイレに行ってしまった。
「な、何を言ったんですか?」
「あら、聞いちゃいけないこともあるのよ?」
どうやら聞いてはいけない内容だったらしい。
ご飯はとても美味しくいかにも家庭の味といった感じだった。
ご飯も食べ終わり桜の部屋で帰る準備をしていると明日はどうするかを聞いてきた。
「そうだな〜今日はなんだか疲れちゃったし明日は自宅学習って事でどう?桜?」
そう聞くと、桜は顔を赤くした。
「不意打ちはずるいよ…颯くん」
「ごめん内田さん......」
「いいよいいよ!むしろ学校でもそっちの方が嬉しいです」
「そっか、じゃあそうするね!桜も砕けた風に話してよ!」
「これに慣れちゃって......」
「少しずつでいいからさ慣らしていってよ」
そう言うと桜は笑顔で「はい!」と返してくれた。
明日は自宅学習ということになりそれからテストまでの期間毎日勉強会をした。
「ついに来ちゃったね、テスト当日」
「そうだね、お互い頑張ろう!」
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