第80話 真相
俺はオーウェンの瞳を見て困惑するしかなかった。
「だが、残念なことに今はもうただ綺麗なだけの瞳だ。その能力は失われている」
勝手に話を進めるオーウェン。
とりあえず頭を整理する。
この男は魔剣使いなどではない。
アインが当代の魔剣使いだったことを考えれば、整合性はとれる、か。
たしかにオーウェンの刀な特殊な能力など持っていなかったし……もしかしたら本当なのかもしれない。
ん、それにしても、瞳の能力が失われてるって言ったか?
オーウェンは今、スキルが使えないのか。
「なんでだ? その瞳がスキルの産物なら何かしらの能力があるんだろう?」
「マックス、アダムから『限定法』を教わっただろう」
俺の質問に答えてくれない。
んだよ、もう。
「誰だよそれ、アダム?」
「……枯れた枝のような、イライラする態度の老人だ」
「…………あぁ…なるほど」
オーウェンの苦虫を噛み潰したような顔に、俺はかつて洞窟で出会った命の恩人の姿を思い描く。
そうだ。
彼の教えてくれた『限定法』がすべてを変えてくれた、俺に意味をくれた。
あの占い師はアダムって言うのか。
「って、待てよ! あの占い師とオーウェンはどういう関係なんだよ。聞いてねーよ、何にも」
絶対に知り合わないはずの2人の名前が結びついて、俺は余計に混乱していた。
「アレとは、それほど深い関係はない。いや、ある意味一番関係あるが……とにかく、今はそのことは置いておく」
オーウェンの言葉に俺は首をかしげる。
うやむやにされてしまった。おい。
「マックス、今はただ聞いてくれ」
「…わかった。なんでも聞いてやるよ」
「助かる。……まず、俺は『限定法』をもちいてスキルを使用した。それにより、俺は未来に訪れるビジョンを見たんだ」
「……未来のビジョン? 未来予知ってことか?」
「ありていに言えばそうだ」
未来を視るだなんて、そんな世界のルールにすら干渉するほどのスキルパワーなんてありえるのか?
にわかには信じられない、眉唾な彼の言葉を疑わざるおえない。
「俺の〔
「〔ミステリィ〕って……まさか、オーウェン、お前、黒いドレスの女神に会ったのか?」
オーウェンは黙って首をふった。
かつて崖下の森で、蛮族に襲われそうになっていた女神ごっこ少女……じゃなくて、たぶん本物の女神を俺は助けたことがあった。
オーウェンは彼女と面識があったらしい。
「俺は『限定法』をつかい、1秒先の未来しか観れない〔
「……え?」
意味がわからなかった。
「たった一度のミステリィ発動のために、二度とミステリィを使えなくしたのか……?」
それが、どれほどの覚悟を必要とする限定なのか俺には想像がつかない。
わかるのは、極めて強力な限定だということだけだ。俺とは方向性の違う、ある種の『限定の極致』による能力ならば、未来すら見通すことが出来る。
だけど、オーウェンはなんでそんな事をしたんだ?
いきなり、やってみよ、とはならないし、興味本位の覚悟などでは絶対に『限定法』は使えないはずなのに。
「そうして観測した未来こそがソフレト共和神聖国の終わり、同時におとずれる魔女の手によっておとずれる文明の終わりだ」
俺は疑問を胸に抱きながらも、謎多き幼馴染の話をとりあえず聞いてあげることにする。
「で、オーウェンは全部澄ましたような顔で先に起こるイベントを知ってたのか。にしても、魔女はどうしてそんなことすんだよ」
「最初に言ったように『死界のヒモ』を獲得するためだ。そのために、奴は2つの神格とソフレト中の人間を還元しようとしてる」
オーウェンの言っていることは難しかった。
俺は頭から熱が出そうなくらい考えて、なんとか「2つのの神格?」と大事そうな部分を聞き返す。
「そうだ。やつは神殿勢力の神格・女神ソフレトと、夜の教会の神格・女神シュミーの2つを欲してる。おそらく、女神ソフレトはもう奴らの手に落ちてる」
「どうしてわかる?」
「ついさっき、アクアテリアスから魔女の臭いが遠ざっていくのを感じた。女神を回収完了したんだろう」
「っ、≪
「彼女はあくまで神だ。なんとかしたんだろうさ」
オーウェンは澄ました告げると「見ろ、夜明けだ」と言って指差した。
水平線の向こう側から、太陽が昇ってくるのが見えた。綺麗だ。
「訪れる終末は『ジークタリアスの夜明け』と呼ばれている」
「夜明け……ん、呼ばれている? 未来のことなんだから、それはオーウェンが名付けたんだろ?」
「……ある意味ではそうだが、俺としては違うと思いたい」
「?」
オーウェンの難解な物言いに、俺はもう理解することを諦めた。
オーウェンは薄く笑いながら「仔細については道すがら話そう」と言い海に背を向けて歩きだす。
10歩ほど歩き、オーウェンは刀を抜きはなった。
昇る朝日に輝く鋼の刀身。
太陽の光をうけて煌く、いままでずっと魔剣だと思ってた普通の刀。
俺がなんとなーく騙されていたような微妙な気持ちで、オーウェンの背中を見ていると──残像すら残さぬ一閃が放たれた。
いきなりの事だった。
「ぬぐっ…!」
凄まじい風圧が俺の前面を叩いてくる。
風がおさまり、俺が顔を向けると、オーウェンのとなりに″真っ黒い光″が漏れていることに気づく。ナニソレ…。
「これが俺の極めた『
「ぁ、ぁいや、お前、何しちゃってんの……」
幼馴染がいつのまにか神すら逃げ出しそうな絶技を身につけていて驚愕する。
意味がわからない。
もう完全に意味が不明だ。
オーウェンはいつ、どこでこんな技を身につけていたって言うんだ。
「ずっと昔からだ。俺が最初に『亜空斬撃』を習得したのは……『拝領の儀』の前日だったか。あの日からすべてが始まった」
「待てよ、全然、頭が追いつかないんだ、何がどうなってんだよ!」
「マックス。道すがら話す、と言っただろ。さあ、次元の裂け目が閉じるまえに、これを使ってジークタリアスに戻るぞ」
「ふぁ!? こんな意味わからない場所に入れっていうのかよ!」
オーウェンは「怖がらなくていい」と言い、ゆっくり近づいてくる。
「待てよ、待てって! 他のみんなはどうするんだよ。マリーを置いていくのか? ジークだって、デイジーだってまだ瓦礫の下にいるかもしれないだろ? それに神殿勢力の救出もしないと、この国は終わっちまうだろ!」
「マックス、大丈夫だ。俺は全部知ってる。ここで魔女を討たないといけないんだ。わかってくれ」
この時のオーウェンは、これまで見たどんな彼より、真摯であると俺は感じた。
心からのお願い。
一生に一度の頼みをここで使う。
そんな気兼ねすら感じる彼の綺麗な瞳に、俺は言い淀んだ。
「…みんな、無事なのか?」
「ああ、無事だ。無事だし、ここにいてもらった方がいい。それには複数の意味があるが、もっとも大きいのは、ここから先の戦いには、俺とマックス以外はついて来れない事だ」
「『左巻きの魔女』……それほどの強さなのか?」
「ああ……魔女もそうだが…この先には『聖歌隊』が待っている。少なくとも俺ひとりでは倒せない。これは確定してる」
俺は悩んだ。
あんだけの大災害の後だ。
命からがら、マリーを守ることはできた。
しかし、だからこそ、そばにいてあげたかった。
だが、オーウェンの言っていることもわかった。
一刻も早く、魔女を倒さないと、危機はさらないのだ。
「クソ……わかった。わかったよ。行こう、さっさと行って、さっさと帰ってこよう」
「ありがとう、マックス。それじゃ、どうして俺が崖からお前を突き落としたのかネタばらしをしてやろう」
「残念ながら、オーウェンよ、ネタばらししても、そのことは許さないからな?」
「……」
俺とオーウェンはともに、次元の裂け目へと足を踏み入れた。
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