第四章 春桜の安泰

第29話 目覚めぬ聖女。そして審問会へ


 第四章ではジークタリアスの平穏(日常)やらを、描きたいと思ってます

 (訳:主人公とヒロインをイチャイチャさせたい)

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 外は薄明るく、まだ日が昇らない時刻。


 早朝の冷ややかな空をじーっと布団のなかから見つめながら、その可憐な少女はあるモノを待っていた。


 豪奢なベッドで寝ころがるのは、宝石のような蒼翠そうすいの瞳と、しなやかな白布に広がる輝く金髪をたずさえた、街中ですれ違えば10人に15人が振りかえるとても愛らしい乙女であった。


 彼女の名は、マリー・テイルワット。

 『崖の都市』ジークタリアスでも、周辺都市でも大きな知名度と人気をほこる【施しの聖女】である。


(まだかな……)


 静まりかえる冷ややかな空気から、必死に体を守らんと布団にくるまるマリーは、部屋の扉を見つめる。


 辛抱強く待っていると、スタスタと部屋の外から足音が聞こえてきた。


 マリーはぱぁっと顔を明るくして布団を頭からかぶり、どういうわけか寝たふりを敢行。


 謎のムーブには目的わけがある。


 ーーコンコンっ


 すぐのちに扉がノックされ、「失礼します」と形式にのっとった硬い口調が聞こえてきた。


 部屋へ入ってくるのは、黒髪に深い紫紺の瞳をした青年だ。


 つい昨日、この『崖の都市』に帰ってきたばかりの今、もっとも話題の人物、『不死身ふじみ』のマクスウェル・ダークエコーこと、マックスである。


 マックスは部屋に入るなり、ベッドがいまだもこっと膨らんでいる事を確認して深呼吸をはじめた。


(ああ、くそ、泣きそうだ。まさか、またマリーの朝起こし係を務められるなんて……昨晩は″あんな事″があったし、怒ってなきゃいいけど……)


 心持ちを確かに、マックスはベッドのかたわらに立って、膨らんだ布団にそっと口元をちかづけると、「朝だよ、マリー」と小さな声で呼びかけた。


 しかし、


 少年もちょっとした声掛けでお目覚めにならないのは、これまでの経験から把握済みだ。


 マックスは今度は膨らんだ布団の、上のほうをトントンっ、とかるくたたいて「マリー起きて、朝だよ」と優しく声をかけた。


 万が一にもみんなの聖女様の尊い部位にでも触ってしまったら、それだけで街の男どもに殺されてしまう。


 マックスはその事を肝にめいじながら、辛抱強く肩があるだろうあたりを、優しくたたいて声をかけ続けるのだ。


 だが、これでも聖女様は目を覚ましてくれない。


 マックスは仕方ないとばかりに、慎重に布団の膨らみの肩がありそうな場所に手を添えて、前後へ揺らしはじめる。


「マリー、起きて、もう朝だよ。お祈りの時間に寝坊しちゃうよ」

「んーんー。あと50分」


 聖女様はあと5分なんて謙虚なことを言わない。


(あれ、なんか、以前より寝起きが悪くなったような……)


 頭をかき、弱り果てるマックス。


 頑張ってひとりでも起きれるように少しずつ、訓練していたのに、ここに来て悪化している。

 自分がいない間、マリーはどうやって朝をむかえていたのだろうか、とマックスは疑問をいだく。


 やがて彼がマリーの親のような気持ちで、真剣に悩んでいると、もぞもぞと布団が動きだした。


「ふわー、まったく眠いのにー、仕方ないわー。マックスたら、どうしてもわたしに起きて欲しいみたいだしー」


 わざとらしい大きなあくびと、ぐっと体を伸ばして特にかたまってない体をほぐしはじめる聖女様。


 体をそらせることで強調される、いけない膨らみ。

 歳のわりに発育の良すぎる胸部に、マックスは頬を染めながらも視線を釘付けされてしまう。


 所詮しょせんは思春期男子だ。


(っ、いけないいけない! ダメだ!)


 すぐにハッとして我にかえり、頭をぶんぶんと振ると、彼はベッドから離れて少し距離をとって立った。


「マリー、これまで俺がいなくても起きれるように頑張ってきたのに、また昔みたいに戻っちゃったんだね」


「全部のマックスせいなんだからね。わたしの朝起こし係を″3ヶ月″もサボってくれちゃって!」


「ごめん、でも、それは不可抗力というか……」


「だからね、マックスにはわたしが沢山仕返しをしてあげてないとだわ! いい? 今日から毎日、優しく頭をなでながら、耳元で声をささやかないと【施しの聖女】は目覚めない呪いにかかったからねっ! 丁重に起こしてね、マックス!」


 聖女は本人ではキリッとしているつもりの顔で、マックスを睨みつけた。

 本気で怒っている……つもりらしい。

 はたからみれば、にへら〜っと頬の緩んだ、頭を撫でてられてご満悦の聖女様がいるだけだが。


 けれど、マックスが気付くわけもなく、彼はまこと申し訳なさそうな顔でマリーへと頭をさげた。


 マックスは怒り浸透のマリーに、やっぱり昨日の出来事がまだ彼女のなかで引きずっているのだと確信していた。



         ⌛︎⌛︎⌛︎



 ーー時間はマックスが帰ってきた直後に遡る



 冬の街並みを背負い、雪をふみわけて走ってくる。

 あの人が、世界で最も大切な少女がに、また会えた。

 

 懇願した彼女との出会いに、俺は涙をながす。

 向こうも俺に気がついたらしく、目を見開き、驚愕を隠せない顔で近づいてくる。

 

 アインはああ言っていた。


 彼女が俺を捨ててないと今では確信してる。

 けれど2年間という長い時間、俺の心をむしばみつづけたくさびは、そう簡単にさびびて朽ちることはない。


 彼女の姿を見るだけで、俺には無類の喜びと同時に、拒絶されるのでないか、という幻惑のトラウマにさいなまれてしまった。


「マッ、マックス……マックスなの……?」

「そうだよ、マリー、俺だ、マックスだよ」


 マリーは口元をおさえ、頬を高揚させながら泣き、指先を震わせて触れて形をたしかめんと手を伸ばしてくる。


「マックス゛っ、マックス、マックス、どこ行ってたの! やった、やっぱり生きてたんだわっ、うぅ、うぁぁあ!」

「っ」


 マリーは形を確かめる……なんて、謙虚なことはせず、手を引っ込めると、かわりにぎゅっと俺のことを抱きしめてきた。


 柔らかな感触が卑猥ひわいに形をゆがめていくのを前面で感じる。とてつもない焦燥と多幸感につつまれるかたわらで、やっぱり捨てられてなかったのだ、という極度の安心が俺のささくれた精神をうるおわせていく。


 そのせいなのだろうか、俺は高低差のありすぎる自分の精神の揺れ幅に


 端的にいうと、すごく気持ち悪くなり、吐き気をもよおした。


 結果、すぐさまマリーの胸をおして突き放して、俺は背後の大螺旋階段へと″リバース″することになった。


「……ぇ? マックス、だ、大丈夫!?」


 俺は恥ずかしさと情けなさに打ち震えながら、口元をぬぐい、なんとか笑顔をつくって見せた。


「ぁ、あはは……マリーの顔見たらなんだか気持ち悪くなっちゃって……ぁ、いや、違うよ!? 全然違うッ! 今のはミス! 取り消して、全部撤回だからね!?」


 みんなの聖女に対する不敬すぎる物言いに、マリーの背後に控える、俺の生存に驚いていた神殿騎士たちの目つきがかわった。


 マリーからも再会の感動という涙は失われ、かわりに愛らしい乙女の顔には、別の色の悲しみの涙と、自分の顔を見て吐かれた屈辱の怒りが宿りはじめる。


 結局俺はその場で、盛大に粛清されることになってしまった。



         ⌛︎⌛︎⌛︎



 朝のマリー起こし係を重要なつとめを終え、彼女とともに朝のお祈りにも参加した。


 そののち


 マリーはそのまま神殿で昨晩の騒ぎで家を失った人々への食料配給や、心や体を痛めた人々を癒すために【施しの聖女】としての役目を果たしに残り。

 俺は即刻開かれることになった″審問会″に参加するために、ジークタリアスの中央広場へとむかった。


 街の中央広場はたいへんなにぎわいを見せていた。


 昨晩の災害によって、いまだあたりの街並みはボロボロだ。

 青空のしたにせっちされた椅子と長机が、人類滅亡後の街を見ている気分を体験させる。


 基本、審問会は神殿前の広場で行われるのが常だが、今回はいろいろと毛色が違うため、もっと大きな中央広場を使うことになった。


 しな。


 とにかく、公衆の面前でおこなわれる事は変わらないらしい。


 首をぐるっとまわせば、ジークタリアスの住民みんな来てるんじゃないのか、と思うほどに、傍聴席は全席満席で、椅子と椅子の間にまで市民たちが詰め合わせている。


 それだけではなく、傍聴席せきから溢れた市民たちは、中央広場を外巻きからぐるっと囲うように広がっており、近くの建物の屋根にのぼったり、窓から顔をだして、歴史に残る罪人の最期を見届けようとする者たちもいる。


 彼ら視線先は、ただひとつ。


 足枷と手枷をはめられた紅瞳の偉丈夫だ。


 青空のしたに設置された机やら椅子に囲われた審問所の中央で、目元にクマをつくってうつむいている。


 俺が、証人として審問所に現れると広場全体が驚きの声につつまれた。


「マックスだ! 本当にマックスは生きてたんだ!」

「嘘、それじゃ、アイン様がマックスをはめて自殺にしたてあげたって本当?」

「すぐにわかることだ。ちょっと静かにしてろ」


 ざわめきたつ傍観者たち。


 審問所の中央に捕らえられたかつての【英雄】ーーアイン・ブリーチはうつろな眼差しで顔をあげ、俺を見た。

 

「マックス……これは、なにか悪い夢なんだよな……?」


 今にも泣きそうな顔で、かすれた声のまま問いかけてくる。


「アイン、お前は自分のやった事の責任を取らないといけない」


 俺はそれだけ言って、瞑目めいもくして、すすり泣くアインの声に耳を傾けた。


「では、ただいまより″罪人″アイン・ブリーチの審問を開始する。傍聴席、静粛に!」


 厳格な審問官の声に市民たちはピタッと黙り、中央広場に秩序が取り戻された。


 アインの嗚咽まじりの泣き声だけが聞こえるなか、【英雄】のクラス剥奪はくだつと、罪人の烙印を刻むための審問がはじまった。


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 しばらく日常系描写が続きますが、お付き合いくださると嬉しいです(・・;)

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