#117 【コラボ】お互いのことを知ることが成功の秘訣ってそれいち【黒猫燦/神々廻ベアトリクス】
「てことでベア子と仲良し週間はじめまーす」
「よ、よろしくお願いするわ」
:なかよし週間!?
:てぇてぇきちゃ?
:ビジネス強化だぁあああ
:黒猫がまた女作ってる
少しでもベア子と仲良くなっておいて損はないだろうということで、今週はソロ配信の頻度を減らして代わりにベア子とコラボすることにした。
リスナーは突然のことに困惑している様子だったが、まあわたしが気分屋なのは今に始まったことではないので概ね受け入れられていた。
しかしビジネスとは聞き捨てならないなぁ。
ここはビシッと注意しておかないとね。
「はいそこ、ビジネスてぇてぇとか言わないの。こう見えても私たち結構仲良いんだぞ? 昨日もカラオケ行ってきたし」
:カラオケ!?
:黒猫さんがカラオケ!?
:陽キャかよ
んん? なんで注意したのに逆に困惑されてんの?
「カラオケ行くぐらいで陽キャ認定とかさてはお前ら陰キャかー? 今どきカラオケとか普通に行くんだがー?」
:なん、だと…
:昔は陽キャってすぐにカラオケ行きたがるとか叩いてたのに…
:そうか、お前もそっち側に行ってしまったのか…
:俺たちを置いていくな
「おぉ……、予想以上にリスナーにダメージが入ってしまった」
いつものプロレスなのにガチに受け取られてしまうなんて、どうやら思った以上にリスナーの闇は深かったようだ。
ま、まあ、気を取り直して、
「てことで、今度結構大きめの案件があるってのは公式から告知出てるしみんな知ってると思うんだけど、他所の企業Vも参加するしやっぱり私とベア子がギクシャクしてたらあるてまの代表として恥ずかしいよなってことで、もっと互いを知ろうよって感じでコラボすることにしました」
「が、がんばるわ!」
:ガッツリ絡んでるわけじゃないしね
:先輩好き好きムーブはするけど仲が良いのかと言われると謎
:直接的なコラボはベア子自身が避けてたからな…
:俺ら代表ベア子
「うんうん、とりあえずね、初回ってことでお互いについて深掘りしていけたらいいなーって思う。私たちって言うほどお互いのこと知らないし」
事務所にいたら近づいてきたり、マルチゲームをしていたらいつの間にか参加者として近くに居たりはするけど、神々廻ベアトリクス個人のことについてはわたし自身そんなに詳しい訳では無い。
だからまずはプロフィールとかから、
「え」
「へ?」
改めて自己紹介をしようと思ったら、ベア子の困惑した声が聞こえた。
そして、
「わたしに興味がないってこと!?」
意味の分からないことを言い出した。
:あーあ
:黒猫さぁ…
:ちゃんと面倒見てあげなよ
「誰もそんなこと言ってないが!? てかリスナーも煽るな!?」
「ふ、ふーん。猫ちゃんはわたしに興味があるんだ。じゃあ仕方ないからスリーサイズ教えてあげるわ」
「聞いてないが!?」
「猫ちゃんはそういうの好きでしょ!? 知りたくないの!? わたしのスリーサイズ!」
「知りたくねーよ! 興味ないから!」
「上からきゅ」
「いらねぇ!」
「もう! 黙ってて!」
「逆ギレ!?」
:草
:草
:草
やべーよこえーよこの女。
止めても聞く耳持たないんだけど。
「なによ、先輩にわたしのこと知ってもらいたいっていうのがそんなに悪いの? いいじゃない、自己紹介ぐらい……」
「自己紹介ってのは普通名前から! そのあとVTuberなら設定とか言うの! ……設定ってなんだよ!」
:やばい
:設定!?
:まずいまずいまずい
うぐぅ、ベア子の空気に当てられて余計なことを口走ってしまった。
VTuberが自分のプロフィールを設定とか言っちゃうの、一番やっちゃいけないのにさぁ!
しかしわたしのうっかり失言もベア子のふふん、というどこか自慢げな声にかき消され、
「自慢じゃないけど黒猫燦のプロフィールなら全部把握してるわ」
「ホント自慢じゃないね」
「そんなことないわよ!?」
「一瞬で自分の言葉に矛盾してるの気づいてる? え、ということは黒猫燦のプロフィール把握してるのもしかして自慢だと思ってるの? こわ……」
謎謙虚含めてこわ……。
「い、いいじゃない、好きなものを誇るぐらい……」
「え、あ、うん。まあ、そういうの大事だけど……」
「………」
「………」
いや、空気!
:甘酸っぱくね?
:告白じゃんこれもう
:つーきあえ、つーきあえ
「う、うっさい!」
ここは小学校か。
「というか、なんでベア子って私のこと好きなの?」
「すっ!?」
「恥ずかしがるなよ! さっき自分で言ってただろ!?」
なんかそんな反応されたら逆にこっちが自意識過剰というか、なんか恥ずかしくなるわ。
「くっ、バレてるなら仕方ないわね……。そうよ、わたしは黒猫燦のオタクよ! 初配信から追いかけて気がつけば何故か後輩になってたオタクよ! 悪い!?」
「わ、わるくないけど……」
「あるてまに合格したときだって推しと一緒に活動できる喜びと認知されたくない近づきたくないって面倒なオタク心理に悩まされ続けたオタクですけど文句ある!?」
「こいつめんどくせぇ!」
:俺らじゃん
:黒猫にもちゃんと女リスナーっていたんだな
:一年間付かず離れずの距離キープしたのは素直にすごい
:バレバレ定期
:てぇてぇ、のか?
「やめて! 神々廻ベアトリクスと黒猫燦でカップリングを作らないで! わたしの中ではまつねこが至高なの!」
:や、厄介オタクだぁあああ
:カップリングに厳しいオタクだ
:はい今ゆいくろ派とアスねこ派を敵に回しました
「ごめん、ちょっとマネージャーさんに相談して案件の相手変えてもらうね」
「わぁあああ、やめてとめてよしてごめんなさい!」
いったい誰がわたしたちふたりを案件の担当にしたんだよ……。マジで一生恨む。
ひとしきり騒いだベア子はようやく落ち着きを取り戻したのか、通話越しでも分かるぐらいズーンと暗い雰囲気を漂わせながら、
「ししば、べあこ……。ハーフで女子高生、やってます……」
「お前の名前はベアトリクスだろーが」
「ふ、ふふ、わたしのことはミジン子って呼んで……」
:みじんこ~
:テンションのジェットコースターかよ
:推しの前でテンション上がって後で後悔するオタクかな?
「あー、うん、配信閉じる?」
「……やだ」
「そっか。じゃあ、」
「好きなものは、オレンジジュース」
「あ、まだ続く系ね」
「好きな動物は、ねこ……」
「でしょうね」
それからもベア子はポツリポツリと、自分の好きなものについて語ってくれた。
アニメが好きとか、漫画が好きとか、だからVTuberにもハマってたとか。
「ほんの気まぐれだったのよ。画面越しに見る先輩たちが眩しくて、三期生オーディションに応募して。気がつけばデビューしてたわ」
根はいい子だと思うんだけど、他の三期生やあるてまの人たちと比べるとどうしても普通のオタクがVTuberになりましたというか、慣れてない感じが強くて不安を誘う。
まあ、わたしも普通のオタクがVTuberになったタイプだからその気持ちはよくわかるけど、それにしたって不安だなぁ……。
たぶん、結に言わせればわたしもベア子も等しく不安になるタイプなんだろうけど。
「手探りでどうにかここまでやって来れたけど、どうしても推しとコラボってなるとテンションがおかしくなるのよ。ほら、先輩だって立花アスカさんとコラボした最初の頃はこんな感じだったでしょ?」
「う、うーん」
:もっとひどかったぞ
:ベア子はマシ
:今は落ち着いてるけど当時はな…
「う、うるさい!」
あれはわたしも若かったというか……。
「ふぅ、色々語ったら落ち着いたわ。ごめんなさい、もう大丈夫」
「あ、うん」
気がつけばベア子の声はソロ配信でも聞いたことがあるような、どこか大人びたような少女の声に戻っていた。
まさかこんなにもベア子が黒猫燦推しだったなんて……、想像以上だ。
「一年間活動を続けてきたけど、やっぱりまだまだね。案件では足を引っ張らないように頑張るから、見捨てないでね」
「いや見捨てるって大げさな」
:黒猫は足手まといはすぐに切るからな
:それで捨てた女は数知れず
:ポイ捨てしないでください
「捏造がひどい!」
しかし、そうか。
VTuberの知識はそれなりにあっても配信活動は未経験のわたしだったが、黒猫燦の隣には気がつけばいつも夏波結がいた。
黒猫燦がミスをすれば彼女がサポートして、迷うことがあれば彼女が導いてくれた。
だからわたしはここまでやって来れたし、今はひとりでもちゃんと配信を出来るまで成長した。
でも、神々廻ベアトリクスにはそういうパートナーがいないんだ。
一緒にデビューしてコラボもした九天溢は神々廻ベアトリクスのパートナーに見えたが、あれは気の多い人間であるてま内だけではなく、他の箱や個人V相手にも手広く交友関係を構築している。
たしかに九天溢の中で神々廻ベアトリクスは他のVTuberよりも仲が良いんだろうけど、ひとりに割く時間が減るということはそれだけ神々廻ベアトリクスがひとりで活動せざるをえない状況が多くなるということ。
だから、彼女は夏波結のいなかった黒猫燦のようなもの。
配信経験のない一般オタクの少女が、一年間ひとりで活動してきた姿。
そう思えばテンションの暴走や不安定な精神状態も理解でき、でき……うん!
「先輩? 先輩? 先輩?」
「え、あ、なに?」
「急に無言になるから本当に見捨てられたのかって不安になったわ……」
「ご、ごめん。ベア子について考えてた」
「わたしについて!? 知りたいことならなんでも教えるわよ!?」
「いちいち全部の言葉に反応されるから話しづれぇー」
:とりあえずこのふたりは会話がスムーズに出来るのが課題ね
:案件までに間に合うのかな…
:オタクちゃんさぁ?
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