ジョン・スミスの消失
マルイチ
プロローグ
「ねえ、あんた。宇宙人、いると思う?」
「いるんじゃねーの」
「じゃあ、未来人は?」
「まあ、いてもおかしくはないな」
「超能力者なら?」
「配り歩くほどいるだろうよ」
「異世界人は?」
「それはまだ知り合ってないな」
「あんた、名前は?」
「ジョン・スミス。」
「・・バカじゃないの。」
心の奥底では、そんな存在なんていやしないんだって思ってた。でもそいつは、そんな存在なんているに決まっているかのように答えた。それから私の日々は大きく変わった。
「涼宮ハルヒ、よろしく。」
ジョンスミス。結局のところ、そんな人は北高には存在していなかった。勿論そんな名前が本名だなんて信じていなかったし、だから校門に張り付いてジョンを出待ちするという原始的な方法も試した。
だけど、ジョンらしき人物は確認できなかった。
だからといって光陽園学院に入学するつもりはなかったけれど、光陽園学院は有名な進学校というのもあったし、なによりも担任が口煩かったので仕方なく光陽園学院に入学した。
それから初めてこのクラスに転校生がやってきた。それは確か5月という中途半端な時だったと思う。
「古泉一樹です。よろしくお願いします。」
風貌も良く、性格も控えめで好印象なものを与えるような、まさしく好青年といった男だった。それにこんな時期に転校というのは珍しく、私の興味を引いた。
「ねぇあんた、なんでこんな時期に転校してきたの?」
古泉くんは私に話しかけられたことに若干驚いていた。
「ええ、実は親が急に転勤してしまいましてね。それで、私も一緒に。」
理由としては普通だった。だけど、もう半分信じなくなっていた『不思議』という名の好奇心が私の心の中で動いた。
「古泉くん。この後時間ある?良かったらお茶でも飲みながら話をしない?」
先程までニヤニヤしていた顔が少し驚きを見せた後、すぐにまたニヤニヤした顔に戻り、
「ええ、喜んで。」
こうして私と古泉くんは毎日一緒に帰ることになった。
結論から言うと、古泉くんは普通の人間だった。
毎日一緒に帰って話してみた結果だが、特におかしな点は何もないし、やはり不思議な存在などこの世界にはいないのだと再度思い知らされた。
その日はいつも通り、平凡な毎日に苛立ちながら下校をしていた。
「おい!」
突然、大きな声で私を呼び止めた男が現れた。
「・・なによ。なんの用?て言うか誰よあんた。私は知らない男から、おいなんて呼ばれる覚えは全くないわ。ナンパなら他を当たって頂戴。」
「・・お前とも、初めましてになるのか?」
「そのようですね。どちら様でしたでしょうか?」
「ここでもお前は転校生なのか。」
「・・転校してきたのは春ごろですけど、何故それを?」
「・・機関、という言葉に心当たりはないか。」
「きかん、ですか。それはどの字を当てるのでしょう?」
古泉くんからその返答を聞くと、その男は古泉くんから視線をこちらに移してきた。
「・・ハルヒ。」
「・・誰に断って私を呼び捨てにするわけ?・・なんなのよあんた。そこどいてよ、邪魔なんだから。」
そう言って私はその男の横を通ろうとすると、その男は私の道に立ち塞がった。そして、
「・・涼宮!」
驚いた。まさか私のフルネームを覚えているとは思わなかったからだ。
「・・苗字だってお断りよ!!大体なんで私の名前知ってるのよ。」
その男は北高の制服を着ていた。忘れるはずもない。ジョンのいたはずの学校だ。
「・・北高よね?その制服。なんでこんなとこにいんのよ。行きましょ古泉くん。」
「はい。」
そして今度こそ私が帰ろうとした時、その男はまた私を止めてきた。
「・・ちょ!ハルヒ!」
肩を掴まれる。これには若干の苛立ちとともに、少し恐怖を覚えた。
「しつこいわね!ッ!!」
そしてその男の足のふくらはぎに蹴りを入れる。するとその男は足を押さえてしゃがみ込んだ。どうやらいい蹴りが入ったらしい。
「行きましょ古泉くん。」
「はい。」
「ま、まて。」
すると学校の警備員が来たらしい。その怪しい男を捕まえて何やら揉めている。もう私には関係ないけど。
「・・ハルヒ!!一つだけ教えてくれ!三年前の七夕を覚えているか!」
その言葉が私の足を止めた。忘れもしない。あの日はジョンに会った日。私の人生が大きく動き出した日だ。
「あの日、お前は校庭に白線で絵を描いたよな!」
「・・だからどうだっていうのよ。そんなの誰だって知ってるわ。」
「夜の学校に忍び込んだのは、お前だけじゃなかったはずだ!」
何故それを知ってるの?
「その時、あさひなッ・・女の子を背負った男が一緒だっただろ!お前は、そいつと絵文字を描いた!」
その次の言葉に、私はとても、驚いた。
「その内容は多分!」
「私は、ここにいる!」
意味がわからなかった。
「・・は、はるッ」
「ッ!!」
何故かはわからないけど、私はその男に頭突きをした。
「いってえなぁ!!」
「・・なんで、どうして知ってるのよ!一体誰に聞いて・・いいえ、私あの事は誰にも言ってない。あの時の・・!北高・・」
「あんた名前は?!」
「・・ジョン・スミス。」
「・・うそ、あんたが?あのジョンだって言うの?あの時、あれを手伝ってくれた変な高校生・・?」
そんなのあり得るはずがない。ジョンと会ったのは3年前。その頃にはもうジョンは北高の制服を着ていた。つまりもうジョンは卒業しているはずだ。
その時私は、古泉くんのことがあってから止まっていた『不思議』という好奇心がまた動き出したのを、再度私の中で深く実感した。
お茶をしながらジョンから話を聞くと、なにやらそのジョンは別の世界から来たらしい。厳密にいうと同じ世界だけれど、私にもともとあった世界を自分の好きなように書き換える能力で書き換えられる前の世界の記憶を持っている。とは言っても、私にはその能力を自分で使うことはできず、無意識のまま使っていたらしい。
また、その世界には長門有希という宇宙人、朝比奈みくるという未来人がおり、そして古泉くんは超能力者だった、らしい。にわかには信じられない話だ。
だけど、私はそれを信じた。
何故なら、それはジョンが言ったことだからだ。3年前、私は北高に在校する生徒を徹底的に調べた。しかしジョンはいなかった。当然だ。何故ならその時、ジョンは北高にいなかったのだ。ならばジョンを過去に連れて行ったのは朝比奈みくるということになるし、未来人がいるなら宇宙人や超能力者がいてもおかしくない。何より、本当に居た方が【面白い】に決まっている。それだけで信じる理由には十分だった。
その後、私たち三人は北高へと向かった。何やら、改変前の私は北高へと入学し、SOS団なるものを設立したらしい。世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。まったくもって素晴らしい名前だ。
北高へと向かった理由は単純に団の部室を見てみたいのと、その宇宙人、未来人に会ってみたかったからだ。あとは、元の世界に戻りたいジョンを手伝うためでもある。それから何やかんやあり、私と古泉くんは自然に校舎へ侵入し、無事SOS団の部室に朝比奈みくるを連れてくることに成功した。これで、改変前のメンバーが全員揃ったわけになる。部室自体は地味だったが、色々もってきたら面白そうだった。すると突然、部室にあるパソコンが起動した。ざわついた後にジョンがパソコンに食い付くように顔を近づけている。私がジョンに理由を問い詰めると
「ちょっと黙っててくれ!・・すまん、今頭の中を整理してるんだ。」
ジョンがここまで感情的になるのは初めてみた。会って間もないから当たり前のようだが、何故かジョンがここまで感情を出すのは珍しいような気がした。
その後、ジョンはパソコンに表示された文字を熱心に読んでいた。そして、意を決したように部室にいる全員を見渡した後に、エンターキーを押した。
その瞬間、ジョンが倒れ、そして目の前で消えた。
その後の部室はまさにパニックだった。
「え!?今の男の人、どこに行っちゃったんですかぁ!?」
「え・・これは、一体・・。」
「これは、元の世界に戻れたということなのでしょうか・・。」
いきなりジョンが消えた、目の前で。その時の私は、そんな不思議な出来事に興味さえ抱いていた。どうせジョンはどこかに転移しただけだろう。そう軽く思っていた。しかし、後からそれは絶望に変わった。
その日はジョンもいなくなったこともあり、再度集合する約束をして解散した。そして約束の日、私達は駅前の喫茶店で再開した。
「それで・・私達はどうしてここに集められたんですかぁ?」
みくるちゃんが小首を傾げながら聞いてくる。可愛らしい仕草だ。
「そんなの当たり前でしょ!これから街の不思議を探しに行くの!」
「え・・あの、涼宮さん、でしたっけ?」
「なに?有希ちゃん。」
「ゆ、有希ちゃん・・いや、それよりも、不思議を探しに行くってどういうことですか?」
「決まってるじゃない!」
【世界を大いに盛り上げるためよ!】
「・・なんだか私、凄いところに入っちゃった気がしてきましたぁ・・。」
「同じく・・」
見るからに有希ちゃんとみくるちゃんが落ち込んでいる。古泉くんは相変わらずのニヤニヤ顔だ。いや、それよりも・・
「ちょっとちょっと、ジョンはどうしたの?学校へ来たら伝えてくれるって言ってくれたじゃない。」
結局、私はあの後ジョンと会っていない。しかし、学校には普通に通っているらしいし、あまり問題視はしていなかった。
「えっと・・それが、ジョンくんとよく似た人はいたんですけど、」
「うんうん。」
「それが、私たちのこと知らないみたいで。」
「・・どういうこと?古泉くん。」
古泉くんに聞くと、いつものニヤニヤした顔から真顔になり、説明をし始めた。
「・・考えられるパターンは三つあります。ひとつ目は、彼が記憶喪失になったこと。これは最も可能性が低いでしょう。」
「まぁそうね。ジョンが記憶喪失になる理由がわからないわ。」
「ええ。そして二つ目が、元の世界に帰ったこと。つまり、今現在この世界にいる彼は、元々この世界にいた彼ということです。」
「つまり、ジョンが元々いた世界に帰ったってこと?」
「はい。」
「・・そうね。今のところはこれが一番有力ね。三つ目は?」
「はい。三つ目は、彼は世界を元に戻すことに成功したが、改変後の世界はそのまま存続されたことです。もちろん彼が元に戻すことを失敗した可能性もありますが。」
「・・そうね。でも、三つ目だとしたらなんで世界はそのままになっているの?」
「・・すみません。僕にはわかりかねます。期待に添えず申し訳ございません。」
「いえ、十分よ。ありがとう古泉くん。」
結局のところ、ジョンがどうなったかはわからずじまいだった。
「あのぉ・・一体元の世界ってどういう?」
みくるちゃんがまたもや可愛らしい仕草で聞いてくる。有希ちゃんも心底不思議そうな顔をしていた。
「まぁ、簡単に言うと、昨日あなた達とあったジョンスミスという人は、元々この世界の人ではないのですよ。」
古泉くんは元々説明が下手なようで、説明を聞いてもみくるちゃんと有希ちゃんはよくわかっていなかった。
だが、いまはそれより、一番気になるのは、
「それで、ジョンはこの世界に戻ってくるのかしら?」
当然の疑問だろう。今思うと、この時の私はまだその話を信じ切っていなかったのだ。だからそんな質問をしたのだろう。
「・・残念ながら、その可能性は低いでしょう。」
正直、この時は軽くめまいがした。
「・・どうして?」
「恐らくですが、昨日彼がこの世界にやってきたのは本当に偶然なんですよ。どのような原因でこの世界にやってきたのかは不明ですが、恐らくあちらの世界の涼宮さんの力でこちらに来たのでしょう。まぁ、先ほどの2つ目の場合は、来たというより変わった、というべきかもしれませんが。」
「・・それで、どうしてもう戻ってこないの?もう一度あっちの世界の私に頼んで連れてきて貰えばいいじゃない。」
「それは不可能でしょう。昨日彼は、涼宮さんの力は無意識に使っているとおっしゃっていました。ならば何故、涼宮さんは力を自覚していないのか。答えは簡単で、自覚してしまうと危険なので、なんらかの人物がそれを阻止していると思われます。それが恐らく、あちらの世界の私達なのでしょう。」
「そ、そうなんですかぁ・・」
「・・ごめんなさい、正直あまり信じられません。」
「まぁ、こんな話を突然言われて信じろなんていうのは無理な話です。なにより証拠がありませんからね。結論を言うと、あちらの涼宮さんがもう一度似たような能力を発揮しない限り、この世界に彼が来ることはありません。そもそも次元が違うわけですから。」
「・・なによそれ。訳わかんない。」
バタン
「ッ!!涼宮さんッ!!意識をしっかり!!」
「ど、どうしたんですかぁ!?しっかりしてくださぁい!!」
「だ、誰か、救急車を・・!!」
(ああ、私倒れたのか・・はは、どうしてだろう。よくわかんないや。・・・ジョン。)
その時の私の意識は、ジョンの名前を呼んだ直後に途切れた。
(・・どこよここ。周りが暗すぎてなにも見えないわ。古泉くん達はどこ?)
歩く。ひたすら、歩く。何故歩いているか。それも今はよくわからない。だけど、歩く。まるで、時を越えるように。すると、目の前にジョンが現れた。しかし、彼は背を向けて、歩いて行ってしまう。
(ジョン・・ジョン!)
彼の名を呼ぶ。しかし、彼は止まらない。歩く。何かを探すように。歩く。彼に追いつくために。
(ジョン!!)
「・・ん?」
目が覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。どうやらここは病室らしい。いかにも高そうだった。
「おや、目が覚めましたか。具合はいかがでしょう?」
声のした方向に顔を向けると、そこには器用な手つきでリンゴを剥く古泉くんがいた。
「・・そうね。具合は、いいわ。」
「それは良かったです。いやぁ、あの時は流石に血の気が失せましたよ。医者によると、恐らく貧血だろうと。一時間ほど眠っていらっしゃいましたよ。」
「・・そう。それで、何故私は貧血でここまで高そうな部屋に寝かされていたのかしら。」
「実は僕の親戚がこの病院の院長でして。色々と手を回していただきました。幸い、ちょうど患者も少なかったので。」
「・・それは、ありがとう。」
「いえいえ。」
「・・それじゃあ私は帰るわ。」
「わかりました。それでは僕もご一緒しましょう。」
「ありがとう。」
その時の小泉くんは何故私が倒れたのかを知っているようだった。今はその心遣いに感謝をしておこう。
あの後、結局有希ちゃんとみくるちゃんは家に帰り、古泉くんは病室で私が目覚めるのをずっと待っていたとのことだった。つまり、第一回SOS団不思議探検は大失敗に終わったということだ。その後は私も家に帰り、お風呂に入った後は布団に突っ伏していた。
「はぁ・・全く、SOS団団長だというのに、情けないわね・・」
何故、彼は帰ってしまったのだろうか。しかし、よくよく考えてみると、ジョンは元の世界に帰りたがっていたし、この方が良かったのかもしれない。ならば何故私は今こんなにも落ち込んでいるのだろう。
「・・どうせ帰るなら、私も連れていきなさいよ。」
すると、やはり疲れが溜まっていたのだろうか。強い睡魔がやってくる。
「もう寝ましょ。明日になれば、また何か起きるわ、きっと。」
目が覚めたら、ジョンが帰ってきているなんて。そんなのある訳ない。そんなことを思いながらも、やはり睡魔には勝てず、私は深い眠りへと落ちた。
(またここ・・ここは一体どこなの?)
最初に考えたのは夢ではないか、ということだった。しかし夢にしては意識がはっきりしているし、しかし現実というにはあまりにも非現実的すぎる。そんな場所だった。なんせ、周りが暗すぎる。しかし自分の手などはしっかりと見える。まさに病室で見た夢の続きのようだった。
(なら・・ジョンがいるかも。)
こんな状況だというのに、私は酷く落ち着いていた。まるでここに何度も来たことがあるかのような感覚だった。
「ハルヒ・・久しぶりだな。」
「この声は・・ジョン?」
声のした後ろを向くと、そこにはジョンがいた。しかし、昨日会った時より若干大人びた顔立ちをしているように見える。
「とはいっても、俺はお前と毎日顔を合わせてる訳だが・・というかお前も昨日俺と会ったばかりか。」
「・・そんなことはどうでもいいのよ。それより、あんたどうして私になにも言わずに帰っちゃったのよ。」
「ああ・・すまん。あの後確かに俺は帰れたんだが・・まぁ色々あったんだ。あの状況じゃ、別れの言葉なんか言えなかったからな。」
それに、とジョンは言葉を続ける。
「俺はこの世界のお前と会うのは久しぶりだからな。会えて嬉しいよ。ハルヒ。」
「・・なによそれ。意味わかんないわよ。」
自然と涙が出てきた。別れたのはつい昨日のことだと言うのに、とても久しぶりにあったような気がして。
「それと、ハルヒ。大事に話がある。」
「・・なによ。」
「俺が後ここにいれるのも長くない。だから、聞いて欲しい。」
「・・わかったわ。」
「俺はお前の会ったジョンの時代からさらに数年後からきた。つまり、ジョン(大人バージョン)だ。」
「・・その割に、あんたの顔あんまり変わってないわね。元々老けてたからかしら。」
「はは、そうかもな。それでだ。この空間はいわば俺のいる世界とお前のいる世界の狭間みたいなもんだ。つまりとても不安定な空間だと言える。」
「ちょっと待ってよ。そんな空間にいて私たちは大丈夫なの?」
「ああ、今はな。しかし、そう遠くないうちに二つの空間の衝突が起こる。その遠くないうちってのが、俺の時代だ。」
「・・衝突すると、どうなるの?」
「二つの世界は互いに攻撃し合い、やがて両方消える。」
「それって、まさか。」
「ああ、そのまさかだ。もちろんのことだが、その世界にいた俺たちやお前なんかも、全てが消える。」
これはドッキリではないのだろうか。そんな考えが脳裏を過ぎったが、ジョンの真剣な顔を見て、そんな考えはすぐに過ぎ去った。
「じゃあなんで、あんたはここにいんのよ。全てが消えるんじゃなかったの?」
「お前のおかげだ。ハルヒ。」
「え?」
「お前は将来、とは言ってもこっちの世界のお前だけどな。いわゆるタイムマシンの基礎となるものを作り出す。まぁそれが、将来TPDDとかになる訳だが・・今はいいか。そして、お前は近い将来、お前の世界と俺たちの世界が衝突することを察知した。そして、ハルヒは俺に全てを託し、そして・・消えていった。」
「なによそれ・・信じられるわけ」
「信じてくれ、ハルヒ。」
自分が消えてしまったなんて話、人は絶対に信じようなんてしないだろう。しかし
「・・わかったわよ。ジョンがいうなら、信じるわ。でも、それならあんたじゃなくて私がきても良かったんじゃないの?」
「ああ、そうだな。でもなハルヒ。俺じゃなきゃいけないんだよ。」
「どうしてよ。」
「お前が唯一話を信じてくれるのが、俺だったからだ。」
「・・・」
図星だ。
「お前はどうせ、未来の自分がやってきたところでそいつの言った話をすぐには信じないだろ?だけど、俺なら信じてくれる。」
「・・そうね。全く、恥ずかしいくらいその通りだわ。」
「なら俺が来たほうが話は早い。それでだ、ハルヒ。」
心なしか、ジョンの顔が悲しそうになった。
「俺もそろそろ限界が来る。今の俺はお前の力でなんとかこの空間に存在できている状態だ。だが、それも長くはない。だからハルヒ、こいつを。」
ジョンが手を差し出してくる。私も手を差し出すと、手を広げるように指示してきた。そして広げると、そこにジョンが何やら小さい機械のようなものを置いた。
「こいつはお前が作り出したタイムマシンだ。とはいってもまだ試作品だからな。行けてせいぜい五年だ。しかも未来には行けないというおまけ付き。」
「これでどうしろってのよ。」
「これからお前はこれを使って三年前に行って欲しい。そこで、長門に会うんだ。」
「そんなこと言っても、私有希ちゃんの家知らないし。」
「そうだな。少し手を貸してくれ。」
「わかったわ。」
ジョンが私の手に触れると、有希ちゃんの家の位置が私の頭の中に入ってきた。どういう原理かはわからないけど。きっと私の力だろう。
「これで大丈夫だな。あとは、長門から話を聞いてくれ。大丈夫だ。長門ならきっと・・わかってくれるさ。本当は俺が行きたかったんだけどな。」
「・・わかったわ。まかせて頂戴。」
「それじゃあ名残惜しいが・・そろそろ時間だ。じゃあ、また会えることを期待してるよ。」
「そうね・・またね。」
そういうと、ジョンは光の粒となって消えていった。
「・・かならず助けるわ。待ってて。」
そうして、私は手の中にあるタイムマシンに付いている小さなボタンを押して、三年前の光景をイメージした。
「・・って、なんで私この機械の使い方わかるのかしら・・どうせ、さっき手を触れられた時に、一緒に頭に入ってきたのね。」
今でも覚えている、ジョンの手の感触。暖かく、少し硬いけれど、頼りがいのありそうな手。
「ごめん古泉くん。私、ちょっと行ってくるわ。」
そう思うと、少しクラっとした感覚に襲われ、そして意識が遠のいていった。
プロローグ、終。
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