第20話 「そんな日……当分来ない」

 夏休みももうじき折り返しです。

 個人的にはまだ半分残ってんの? って感じなんですがね。外出してる回数は例年とさほど変わらないとは思うんだけど、ゲームに打ち込む時間が多いものだから。必然的に雨宮やシャルと顔を合わせる回数が増えてるんですよ。なので過ごしてる時間が濃い。

 今日はどうなのかって?

 本日予定ですが、雨宮さんとお出かけです。

 でも時間を濃くしてしまいがちなシャルさんはいません。雨宮さんとふたりだけです。なので俺が雨宮さんの機嫌を損ねるような発言をしなければ、雨宮式ストライクに怯える心配はないでしょう。

 現実の雨宮さんは仮想世界のマイさんと比べると優しいからね……多分。


「……太陽さん、今日も元気に輝き過ぎだよ」


 これだけ聞くと痛い男と思われるかもしれないけど、こう外出する時に毎度毎度晴れてると皮肉も言いたくなるじゃないですか。もう少し雲があっても罰は当たらないと思う。

 まあでも、今日の待ち合わせはショッピングモールの外とかではありません。

 今日の待ち合わせ場所は、二次元専門店が集う商店街に向かう道中にある公園。俺はそこの噴水近くにあるベンチに座っております。今は木陰で直射日光を浴びない状態なので涼しいです。雨宮さんは他と違って良い場所を選ぶね。

 ただ……このあと炎天下の中を歩くと思うとそれだけで苦痛です。

 涼んでしまった分、また身体を焼かれると精神的に参ってしまいます。そういう意味では、雨宮さんは悪い場所を選ぶよね。


「お……お待たせ」


 野生の雨宮さんが現れた。雨宮さんとこの舞さんでも良いけど。

 淡い青色のノースリーブの上にフリルが付いた白色の半袖。暑さを吹き飛ばすように爽やかな色合いだね。

 でも個人的に最も注目すべきところは、やっぱり雨宮さんがスカートを履いているところかな。しかも丈が短めなの。ミニスカ、ミニスカートなの。色は黒なところが雨宮さんらしいよね。

 ゲームのせいでズボンのイメージが強くなってるせいか、まさかこのタイミングで雨宮さんの生足が見えるなんて。雨宮式ストライク習得のために鍛えたのか、無駄なお肉がなくて綺麗です。


「あ、足をジロジロ見るのダメ」


 少しでも足を隠せるようにミニスカを引っ張る雨宮さん。

 可愛いんだけど、誰か後ろを歩いたらパンツが見えちゃうかもしれないからやめて欲しいよね。どうせ見せるなら俺だけに見せてください。


「大丈夫、両腕で寄せられてる胸の方も見てるから」

「そ、そっちも見ちゃダメ……今日の鴻上はいつもよりエッチ」


 いやいや、俺をエッチな気分にさせてるのは雨宮さんだからね。

 スカートなんて履いてきちゃうし、おっぱいを寄せるような動きしちゃうし。目の前でそんなことされたら男なら誰だって見ちゃうでしょ。くぅ……堪らんってなるでしょ。


「エッチな目で見られたくないなら、もっとラフな格好してくればいいのでは?」

「それはダメ」

「何で?」

「そ、それは……今日は鴻上とのデートだから。どうせなら……可愛いって思ってもらいたいし」


 ……お前って奴は本当に可愛いな! 萌え死にそうなくらい可愛いよ!

 これはもうあれですね、今夏のベストオブ雨宮さんが更新された気分だ。アキラんへの想いがなければ、反射的に抱き締めてたかもしれない。


「だ……黙ってないで何か言って欲しい」

「モジモジと恥ずかしがる雨宮さんマジで可愛いです」

「ち、違う。欲しいのは服の感想。分かってるのにそういうこと言うのダメ……でもありがと」


 尊い、マジで尊い。

 雨宮さんってこんなに可愛かったっけ。

 もしかしてアキラさんへの想いが薄れて来てる? 微妙とはいえ一度断られてしまっただけに雨宮さんが癒しになってるのかな?

 でも確実に確かなのは、雨宮舞という少女は可愛いということだ。こういう子と付き合えたら楽しいだろうね。頭ナデナデとかいっぱいしたくなるだろうね。


「いえいえ。服に関してですが、とても似合ってると思います」

「……ん」

「もう少し欲しいの?」

「満足してる。これ以上はパンクするからいい」


 大したこと言ってないと思うんだけどな。

 でもこういうところのキャパの小ささも雨宮さんの魅力だよね。見た目も小さくて……でも胸は結構大きい。二次元で言えば、雨宮さんはロリ巨乳。


「鴻上の目……何かやらしい」

「何を言ってるんだ雨宮。男が異性に向ける目なんて基本やらしいものだぞ」

「それは暴論な気がする。世の中の男性に失礼」

「そうか……なら仕方ない。今日1日出来るだけ雨宮のことは見ないようにしよう」

「ん……鴻上の意地悪」


 一瞬、雨宮式ストライクが飛んでくるかと思いました。

 でも軽くパンチされただけでした。ポスって効果音が合いそうな俗に言う女の子パンチですね。まったく痛みはなかったよ。むしろ雨宮さん可愛いと思いました。


「ところで、今日はどこへお出かけですか?」

「んぅ……それは鴻上が考える約束」

「え、嘘……」


 雨宮さんの買い物に付き合うって感じだったよね?

 俺の記憶が間違ってるの? 間違ってないはずだよね。でも雨宮式ストライクを怯えてたから聞き逃していた可能性も。


「ん、嘘。冗談。行き先はわたしが決めてる」

「あ~ま~み~や~さん」


 質の悪い意地悪しないでくれますか。

 あなた日頃から無表情だから本気で言ってると思うでしょ。普段素直だから本当のこと言ってると思うでしょ。


「ごめん。でも先に意地悪したのは鴻上」

「こっちの意地悪より悪質だけどね」

「わたしからすれば鴻上のも悪質」


 いや、でも……俺達って頭ひとつ分くらい身長違うんだよ。

 俺が普通に前見てると、雨宮さんの頭の天辺くらいしか見えなかったりするんだよ。割と雨宮さんが視界に居ないことはあると思……む?


「こ、鴻上……ちょっと近い」

「おっと、これは失礼。ただいつもより雨宮さんが大きく思えて……成長期?」

「……そんなのずっと昔に終わってる。今日はヒールのある靴履いてるだけ」

「あ、なるほど」

「でも胸だけはまだまだ成長期……のはず」


 それについては……コメントを控えさせていただきます。

 そうだね、雨宮さんの胸はこれからだね! なんて言えないしさ。大きくなる保障なんてないんだし。

 俺としては今の大きさでも十分魅力的なんだけど、本人からすれば違うかもしれないしね。シャルさんっていう存在が身近に居たりするから。


「……ぼちぼち出発しますか」

「ん」


 短い返事をした雨宮は俺を誘導するように先に歩き始める。わたしについて来て感が凄いよね。さすがは雨宮さん。

 まあ俺は今日の行き先知らないからそうしてもらわないと困るんですが。向かってる方角的に商店街なのは分かるけどね。どの店に入るかまでは分かりません。


「今日の予定はどのような感じで?」

「まずは本屋で新刊チェック。そのあと古本屋で色々チェック」

「さすがは元文学少女」


 まあ雨宮さんが主に読んでるのは漫画やラノベだけど。

 でも読む量がハンパないから文学少女ってことで良いでしょう。そういうことにしといて。


「今でも文学少女」

「そうか? 昔と比べたらそうでもない気がするんだが」

「確かに昔よりは読んでない。でも今も結構読んでる」


 昔のように移動中に読んだりしていない。

 友人とも遊びに出かけるようになった。

 家に居る間はICOに長時間ログインしている。

 今の雨宮さんはこんな感じなのにそれでも結構読めるというのだから凄いよね。速読力が俺は段違いなんでしょう。

 まるで仮想世界の戦闘力の差みたい。もしや俺が雨宮さんに勝てないのは速読力がないからなのか……。


「鴻上、何か変なこと考えてる」

「せめて疑問形で言ってくれませんかね。別に変なことは考えないんだから」

「なら何を考えてたの?」

「雨宮さんは割と少年向けが好き。つまり肌色成分が多くても読んじゃう。やっぱり色々と気になるお年頃なんだな。今日はどんな本買うのかなって……考えただけですが?」

「じゅ、十分変なこと考えてる。わたしはべ、別にそういうシーンが見たくて読んでるわけじゃない。あくまでストーリーが面白いから……」

「でもラブコメは読むよね? ちょっとHなシーンが売りのもの読んじゃうよね?」

「そ、それは……読むけど鴻上みたいにそこばかり見てない」


 現実世界でならこうやって有利に立てるんだけどなぁ。

 ただ雨宮さんが雨宮式ストライクは友人には撃たない、という戒めを破ればどんな状況からでも負け確です。バウンサーの方を使われたら瀕死になるかもしれません。


「でも雨宮、雨宮が憧れているブラッキー先生もやることはやってますよ?」

「鴻上、わたしは確かにブラッキー先生に憧れてる。強さを追い求めてる。でもわたしは女。する側じゃなくてされる側」

「……あのシーンはヒロインの方から誘ってなかった?」


 あの頃は可愛かったよね。

 でも話が進むにつれてヤンデレのような一面が……心拍数とか見てうっとりする人はちょっとね。だから僕としては超長距離から弓で戦えるシャム猫さんが好きです。もしくはブラッキー先生より強い絶対無敵の剣士さん。


「鴻上は……相手から誘って欲しいの? 誘ってもらわないとそういうこと出来ないの?」


 おぉそっちに行きますか。

 いや別にいいんですけどね。ちょっとHな方向に話を振っちゃったのは俺なんで。これも雨宮さんの精一杯の反撃でしょう。


「ねぇ雨宮さん、雨宮さんは俺のことヘタレとか思ってるの?」


 こう見えて好きな人には自分から告白するんですよ。

 異性にあんなことやこんなこと、そんなことまでしたいって考えるくらい性欲はあるんですよ。


「まあ割と」

「即答……雨宮さん、仮に答えが決まっていたのだとしても少しは考えてくれないかな。じゃないと俺の心にダメージが……何で俺はヘタレなの?」

「なんだかんだシャルに手を出してない。普通あんな大きなおっぱいを目にしたら、あんなスタイルの良い女子が薄着で居たらムラムラするはず。なので鴻上は未だに何もしてない」


 おっと、これはなかなか的を射た意見だぞ。

 でもね雨宮、そいつは間違いだ。すでに鴻上さんは、シャルさんの胸を鷲掴みにしている。寝ぼけていたとはいえ、思いっきりシャルさんのおっぱいにタッチしまっているんだ。

 まあお互い何もなかった感じで済ませたがな。弱みとしてたまに脅迫されているがな。でもグレートな感触を味わえたから良しとしよう。前向きに考えないと辛いだけだ。


「雨宮さん、シャルさんは鴻上さんの幼馴染だよ?」

「でも女の子。魅力的な女の子」

「それは否定しないけど。でもそれは外見の話だよね? 内面はあまり魅力的じゃないと思うんだ。男としてはやはり内面も気になると思うんだ」


 ワンナイトとかは別かもしれないけどね。

 でも俺とシャルは幼馴染なの。それはどう足掻いても変えようがない事実なの。脳内であれこれすることはあるかもしれません。でも今のところピュアな関係なの。少し黒い部分があるかもしれないけど、良好な関係なんです。

 だから身体を重ねる関係になったりしたら、俺はアキラさんをバッサリ諦めてちゃんと責任取ります。シャルさんを嫁にするつもりで頑張りますよ。


「…………」


 あれれ、雨宮さんが口を閉ざしてしまったぞ。

 シャル、どうやらお前は雨宮にも内面はダメだと思われているようだ。今より悪化すると雨宮さんから絶交宣言されるかもしれない。それが嫌なら改善するか、今の場所で留まっておけよ。



「……じゃ、わたしは?」

「……はい?」

「鴻上はわたしにもエッチな目を向ける。お、おっぱいとか足とか舐め回すように見てくる。でも何もしない」

「雨宮さん、何かしちゃったら俺は君と友達じゃいられなくなると思うんだ。何かあっちゃいけない関係だと思うんだ」

「……ヘタレ……鴻上のヘタレ」


 ねぇみんな、これってちょっと理不尽じゃない?

 俺、別に間違ったこと言ってないよね。そういうことする友達って関係も世の中にはあるかもしれないけどさ。でも普通の友達にそういうことは求めないよね。何かの弾みでもない限り。

 これはもしかして二次元である「女として魅力がないみたい」的なやつですか?

 うーん……女心って分かんないね。まあ俺の周囲の異性が個性的なだけなのかもしれないけど。

 だって好きな人はゲームで最強になるために高校生活捨てかねない勢いだし、幼馴染は二次元に染まりきってるし、真友は自分から真友になろうって迫って来た腐りかけの中二病の夢女子だし。 


「雨宮、そういう態度だとまるで雨宮が俺にそういうことされたいと思ってるように思うんだけど」

「……こ……鴻上にならされても良い」

「え」

「う、嘘。何でもない。暑さで変なこと言っただけ。今言ったことは忘れて。忘れなかったら雨宮式ストライク」

「はい、忘れます。聞かなかったことにします」


 だからそれだけはやめてください。街中でうずくまって立てなくなっちゃうから。下手したら気絶して救急車案件になっちゃうから。

 え、何だって?

 という伝家の宝刀を使えば良かったのかもしれないが、たとえ使ったところでそのあとの雨宮さん反応で普通の奴なら察する。自分にどういうことが言われたのか理解できるはず。

 だからここは素直に認めた上で、変に雨宮さんを意識しないように努めるべきだ。ドキッてしたけど、雨宮式ストライクの恐怖で上書きもされたし。多分大丈夫、いつもどおりに振る舞えるはず。


「……いや~今日も暑いですな」

「ん……熱い」

「早く下がって欲しいですね」

「そんな日……当分来ない」

「雨宮さん……もしかして怒ってる?」

「別に怒ってない。それより早く行こ」


 ……怒ってるじゃん。

 怒ってるとまで行かなくても機嫌悪くしてるじゃん。こいつはどうにか巻き返さないと雨宮式ストライクの恐れがありますね。

 よし、気合入れて頑張ろう。では皆さん、雨宮さんとのデートに逝ってきます!



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