ゲームに夢中だから、とフラれたのでそのゲームの準最強剣士に弟子入りしました ~準最強剣士に弟子入り編~

夜神

第1話 「どうしたの鴻上?」

 高校に進学し、初めて迎える終業式。

 明日からは学生にとって楽しい楽しい夏休みの始まりだ。

 だが、俺――鴻上こうがみ秋介しゅうすけは下校もせずに自分の机に突っ伏していた。何故なら……



 さっき好きな人に告白し、見事にフラれたから!



 人生初めての告白だったんです。

 いつも落ち着てるよね、なんて言われる俺でもフラれたらへこみます。落ち込みます。

 相手は隣のクラスの女子。

 黒髪ロングで凜とした眼差しが特徴的なクラスで3番目くらいに可愛いと言われている川澄かわすみあきら

 女子で玲って名前だと普通『れい』って読みたくなるよね。でも彼女の名前は「あきら」なの。子供の頃は男っぽい名前だとか言われて嫌な想いしたんだって。昔は髪も短かったらしいし。

 この情報は他人じゃなく本人から聞きました。

 彼女と出会ったのは高校に入ってからですが、本屋のライトノベルコーナーで偶然出会って、そのあとは同じ二次元好きということで仲良くしてたんだよ。

 二次元好きなことあまり他の人には言わないでね、って可愛い顔で釘を刺されたり。ふたりだけでアニメやゲームの店を回ったり、映画を見に行ったことだってある。名前だってお互い下の名前で呼び合ってたんだよ。

 つまりぼくは……話したこともないのに突然呼び出して告白したわけじゃないんです。


「……まあ」


 だから余計にフラれて辛いんです。

 思わせぶりな態度を異性にする人も居るけどさ、少なくともアキラはそういうことをする子じゃなかった。基本的にひとりで居るような感じだったし。

 あ、こういう風に言うとクラスで浮いてるとか思われそうだけど、普通に溶け込んでる感じでした。ひとりで好きなことに没頭する時間も欲しいだけで、基本的に人付き合いが苦手とかではないタイプということだね。

 俺も似たようなところはあるけど、交流の幅は彼女よりも狭い。よく遊ぶメンツは数人居れば満足しちゃうから。

 まあ俺のことはどうでもいい。話を戻そう。

 何が言いたいかというと、俺は別にアキラに嵌められたわけではないということ。それなりに良い感じだったということだ。


 一緒に遊びに行った時、服装とか褒めたら少し顔を赤くして「……ありがと」とか言ってたし。

 好きなアニメを見た後、饒舌に語ってふと我に返ったりしたら恥ずかしそうな顔をしたり。

 告白した時だって恥ずかしがりながらも嬉しそうな顔をしてくれていたんだ。


 でも……はい、そうです。結果はフラました。ああだこうだ言ってもその結果だけは変わりません。

 でもね、俺は彼女のことを諦められる気がしません。

 だって嫌いだとか無理とか言われてないんだもん。むしろ告白自体は嬉しいって言ってもらえたんだもん!


「だけど……」


 フラれました。

 いや、何でも言う必要ないね。確かにフラれたけど、何度も言って同情を買うのは良くないし。そもそも俺のハートがブレイクしそうになっちゃうし。

 女々しい? さっさと次に進め? 女子は他にもいる?

 そう簡単に切り替えられるか!

 いくら冷静沈着な俺でも引きずるものは引きずるんだよ。大体フラれて引きずらない奴は、それほどそいつのこと好きじゃなかったってことだろうが。お前、本気で誰かを好きになったことないじゃないの!

 ……仮想の誰かに激怒するのはやめよう。するにしても状況説明だ。

 なあ、聞いてくれよ。

 君だったらこういうフラれ方で納得できます?


『……ごめんなさい。秋介くん、私はあなたとは付き合えない』

『……そっか』

『誤解しないで。別のあなたのことは嫌いだとか、生理的に無理とかそういうんじゃないの。むしろ……その、あなたのことは嫌いじゃないし、告白自体はとても嬉しかった』

『え……なら何で』

『それは……私、今《インフィニティクロス・オンライン》にハマッているの』


 ちょっとここで解説します。

 アキラが口にしたタイトルは、知っている方も多いであろうVRMMORPG。それだと分かりにくい人にざっくりと説明すると、仮想空間にフルダイブして遊ぶゲームのことです。

 アキラが言ったインフィニティクロス・オンライン――通称《ICO》は最近大人気のVRMMOのひとつ。レベルの存在しないスキル制のみ。プレイヤー自身の動きと判断力が求められるアクション性の高いゲームだ。

 ちなみに俺はプレイしていない。だがゲームの週刊誌などは見るし、友人がやっていたりする。なのでそこそこの情報は持っているのだ。

 まあICOの説明はこの程度で良いだろう。先ほどの続きを語ろう。


『ハマって……え、でも』

『秋介くん、ICOでは色恋にうつつを抜かしていたら勝てない勝負があるの。故に私は多少なら学業を疎かにして、最悪赤点を免れたら良いかなレベルで打ち込もうかなって考えてる。じゃないと次の最強プレイヤーを決める《決闘王国デュエルキングダム》で優勝できない! やるからには1番になりたいの、最強に私はなりたいの。だから……ごめんなさい。今あなたとは付き合えない』


 負けず嫌いなのは知ってました。

 だからね、やるからには1番になろうとする彼女の姿勢は嫌いじゃない。むしろ好感が持てる。

 だけど……まさか一生に一度しかない高校生活を。勉強も恋愛も捨て去ってまで1番になろうとするとは思わないよね。まともな感性をしている人間からすれば止めたくなる発言だよね。

 何より……ゲームしたいから付き合えないとか言われてもこっちは納得できません!

 正直さ、嫌いだとか無理とか言われた方がまだマシですよ。だって諦められるから。


「くそ……いったい俺はどうすれば」


 正直アキラのことを諦めることは出来ない。

 だが再度アタックしたところで返事は決まっている。それどころか


『少し前にその話はしたわよね? 答えが分かりきってるのに同じことを言わないで。私がそういうの嫌いって秋介くんなら知ってるでしょ』


 みたいな感じで嫌われる恐れすらある。

 ならどうする?

 どうすればアキラとの関係を進められる?

 進められないとしてもどうすれば昨日までの何でも話せる関係に戻れるんだ。

 今のままじゃ気まずさのせいで距離が離れていくだけ。しかし、何もないまま話そうとしても悪い方向に転ぶ可能性が高い。

 本当どうする? どうすれば……


「どうしたの鴻上? 具合でも悪いの?」


 少し感情に乏しい声色。しかし、鈴の音のように耳心地は良い声だ。

 その声に導かれるように視線を上げる。

 俺の前に舞い降りた女神の名は、雨宮あまみやまい

 女子の中ではやや小柄な体格ではあるが、胸は人並み以上に育っており、無表情に近いクールフェイスだが、素直な言動で男子だけでなく女子にも人気があるとかないとか言われている我が友人様だ。ちなみに黒髪のショートカット。

 彼女とは中学からの付き合いであり、同じ二次元好きとしてアキラ以上に交流があると言っても過言ではない人物である。

 どうして気心の知れた彼女を俺が女神と称したのか。それは……


 雨宮はICOをプレイしているから。しかも最強プレイヤーの一角!


 アキラが言っていた決闘王国を制したこともあるんだって。前回は決勝で負けたらしく、現状だと準最強プレイヤーといったところだろう。

 決勝で負けたのがよほど悔しかったのか、少し前に無表情ながら荒れていた。気晴らしとしてよく買い物や映画に付き合わされたのでしっかりと覚えている。

 好きな女子が居るのに他の女子とイチャコラするな?

 別にイチャコラしてねぇし!

 お前だって女友達と遊ぶことはあるだろうが。友達と遊んで何が悪い……え、女の友達いない?

 えっと、それは……何かごめん。

 って、こんなことをしている場合ではない。


「……大丈夫?」

「大丈夫かと聞かれたら大丈夫ではないが大丈夫だ」

「それは大丈夫とは言わない」

「それはそうなんだが、ここはそのへんに置いといてくれ」

「分かった」


 雨宮さんマジ素直。表情はほとんど動かないけど。

 でもそのギャップが堪らない人には堪らないんだろうね。こういう子を素直クールとか言うんだろうし。


「なあ雨宮……お前にひとつ頼みたいことがあるんだが」

「分かった」

「……まだ何も言ってないんですけど?」

「鴻上の頼みなら何でも聞く」


 な、何でも……?

 ……はっ!? いかん、いかんぞ鴻上秋介。

 いくらお年頃だからってフラれた直後に優しくしてくれた女子の言葉で妄想するなんて非常識だ。

 でも……ごめんなさい。

 雨宮さんの裸とか考えちゃいました。

 真昼間には言えないようなことも考えてしまいました。

 だって俺も男の子だから! 健全な男子高校生だから!


「鴻上、おっぱいでも揉みたいの?」

「……なあ雨宮さん」

「ん?」

「何でそういう言葉が出てくるの? 俺そんなこと言ってないよね?」

「でも鴻上、よくわたしの胸とか見てる」


 なっ……バレていただと!?

 確かに女子はそういう視線に敏感だと聞くが、まさか俺の鍛え抜かれたチラ見が気づかれるとは。

 嘘、冗談です。

 チラ見を鍛えた覚えはありません。

 ワタクシは、そんなことに情熱を注ぐ変態ではないのです。

 でもそんなに雨宮の胸見てたかな?

 身長の割に胸あるよなぁ……って思ったり、今日は谷間が見える服装してるなって思うことはあったけど。

 うん、ごめん。

 多分よく見てますね。顔を合わせたら一度は必ず見ちゃってますね。だって雨宮さんの胸、結構大きいんだもん。


「また見てる。触りたいの?」

「触りたいと言ったら触らせてくれるんですか?」

「ん……鴻上にならいいかな」


 俺『に』なら。

 何てパワーワードなんだ……失恋と言い難い失恋をしたせいか、凄まじく心に響いたぜ。

 でも俺はアキラをまだ諦めない。諦めるわけにはいかない。

 たとえ雨宮さんが俺に胸を触らせようと制服を脱ぎ始めたとしても……え、脱ぐ? 何を? 制服を?


「ちょっ雨宮さん、何をしとるんですか!?」

「鴻上がわたしのおっぱい触りたいって言ったから服を脱いでる。制服の上からより生の方が嬉しいだろうし」


 そりゃあ直に触れられる方が男子高校生、いや男という生き物は嬉しいと思いますよ。

 でもさ、恋人でもない男に胸を触らせるとは良くないと思います。

 そもそもね、ここ学校だよ。入学してから数ヶ月とはいえ勉強してきた教室だよ。そこで裸になろうとするなんてもう少し羞恥心を持ちなさい!


「分かった、俺が悪かった。だから脱ごうとしないで……せめて学校じゃないところでして。誰かに見られてたら俺の高校生活終わるから」

「ん、分かった。じゃあ今度鴻上の家に行った時に脱ぐ」

「ごめんなさい、男としての欲望を押さえられず付け足したりしてすみませんでした。謝りますから脱ごうとしないでください」


 家族に目撃でもされたら赤飯焚かれるから。必然的にアキラのこと諦めて君のことを幸せにしないといけなくなるから。

 そういう未来はあるかもしれないけど、今の僕の心はアキラ一筋なの。フラれたけど彼女にまっしぐらなの。だから今雨宮とふしだらな関係にはなれません。もし

そういう関係になったら責任取ります。


「……雨宮さん、そろそろ本題に入っていいですか?」

「ん、何?」

「雨宮さんってICOしてるじゃないですか。前に誘ってもらった時は他にやりたいことがあったから断っちゃったんだけど、最近始めてみようかなって思ってまして」


 そうしたらアキラとの接点というかまた話すきっかけも出来るし。


「VRMMOをするのは初めてじゃないけど……出来れば雨宮さんに色々と教えてもらいたいなって。やるからには最強のプレイヤー目指したいし」


 そうすればアキラの興味を惹けるかもしれないし。


「それってつまり……鴻上はわたしの弟子になりたいってこと?」

「え? いや、その……そうなるのかな?」

「ん、分かった。じゃあ今日から鴻上はわたしの弟子」


 こっちの曖昧な返事に疑問をぶつけず了承してくれる雨宮さんカッケぇ……。

 でもそれ以上に師弟プレイに憧れでもあったのか、胸を張っている姿が可愛らしい。胸も強調されているので、こっちも自然と目が向いちゃってます。


「……揉む?」

「揉みません」

「それって……わたしに魅力がないから……」

「そうじゃないよ、そうじゃないんだよ雨宮……世の中はお前ほど優しくないの。ここで俺が揉んで、それを誰かに見られたら大変なことになるの。お前の素直さは良いところだけど、もっと世間のことも考えて。自分のこと大切にして」


 じゃないとお兄さん、君の将来が心配になっちゃうから。

 まあお兄さんといっても大差ないんだけど。俺の誕生日は11月、雨宮の方は12月だから。


「鴻上にそういうこと言われると恥ずかしい……でも嬉しい」

「雨宮さん、俺はどちらかといえば君を褒めるんじゃなくて注意したよね? その反応は間違ってる気がするんですけど」

「でも鴻上はわたしのこと心配して言ってくれた。心配してくれたことが嬉しい。だから今すぐICOを買いに行こう」

「何でそこに繋がる?」

「早く鴻上と遊びたい。早く鴻上と遊べるとさらに嬉しくなる。だから行こう、今すぐ」


 分かった、分かったから腕を引っ張るのやめて。

 ちゃんとカバンとか持って帰らないと夏休みの宿題に支障が出るから。

 あと今自分を大切にしろって言ったばかりでしょ。君が引っ張っている右腕……胸に当たっちゃってるから。おっぱいの感触感じちゃってるから。

 でも自分の口からは言えない。

 だってセクハラになっちゃうし……何よりも役得だから。嘘です、ちゃんと言います。付き合ってもないのにそういうの良くないもんね。


「雨宮さん、その……当たってるんですが?」

「大丈夫、気にしない」

「俺が気にするんです」

「ん、分かった」


 腕は解放されたけど……手は握られたままだぞ。

 ほとんどの生徒はもう帰ってるとは思うけど、これを誰かに見られたら……


「逃げたりしないので手も放してください」

「……ん」

「あざす。……気を取り直して、行くか」

「ん」



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