【始まり始まり】05
ここはミステリー研究部で、机の上には仁王立ちをしながら自称神様を名乗る僕っ子で日本人形の様にどこか儚げな、けれど装いと反してわんぱくな少女が―――って意味が分からん。
「帰る」
踵を返して旧校舎を後にしようとするが後ろから肩を掴まれた。
「僕に恐れをなしたかモリアーティ、ミストに連れられてここに来たのだろう?まあいいから中に入って行きたまえよ事件はまだ始まったばかりなのだから」
耳元で自称神様がそう痛々しく囁く。
僕もむず痒くなってしまうほどの痛い言葉の連続。
「嫌だ。帰ります」
「まあまあ、良いではないか」
・・・・・・
「嫌だあ!厨二病の相手なんかごめんだ!」
「お願いですから少し、少しで良いので!」
何なんだこの人!腰に引っ付きやがる上にさっきまでの厨二病口調が噓のように普通に喋るじゃねえか!
「離れろ自称神様!」
「私からもお願い、せきちゃん根はいい子だから話だけでもいいから聞いてあげて」
せきちゃん?この子の名前か?
う~~ん、朝の質問で気を悪くしちゃったかもしれないし、お詫びもかねて聞いてあげるか――
「霧縫さんが言うなら」
渋々霧縫さんにそう言って腰に引っ付いて離れない自称神様に
「分かった話だけなら聞いてやる」
というと霧縫さんを少し見てから引っ付くのを止めて顔を輝かせながら
「そうか!ならはいりたまえ!僕の禁書庫を見せてやる」
と、またも痛々しい言葉を発しながら部室に入っていく。
僕も霧縫さんの後に続いて部室に入る。
「改めて、ようこそミステリー研究部へ」
さっきまで居た教室と同じくらいの大きさの部屋の中に壁沿いにズラリと置かれた本棚、ドアを開ける為のスペースを空けてあるだけでそれ以外は本棚で塞がれている。ドアと対照的な場所の位置にあるであろう窓は本棚に隠されて窓としての機能を失っている。
本棚に並べられている本は一見して全てが推理小説である事が分かる、入り口入って左の本棚にはアガサ・クリスティーやアーサー・コナン・ドイル等の外国人の推理作家が執筆した作品群が並べており右側の本棚には江戸川乱歩や坂口安吾などの日本人の推理作家が執筆した作品群が並べられていた。
「なんだよこれ・・・・・・」
その光景に度肝をぬいていると部屋の中心に置かれた大きな円卓の奥でふんぞり返りながらこちらをニヤニヤと嘲笑いながら自称神様が
「どうだい、ここにある推理小説達は僕が集めたものなんだ。凄いだろ~、どうしたワトソン。まるでライヘンバッハの滝で死んだはずのホームズが生きていたみたいな顔をして」
素直に凄いって言いたくない―――
「それでミステリー研究部ってのは何をする部活何ですか?」
率直にそう尋ねると少しすねた様子で
「ミステリーを研究する部活だ」
「そのままじゃねえか!」
「そのままで悪いか!」
実際のところこれだけ多くの推理小説があるのなら研究のしがいもあるよな。
「ほほぉ~、もしかしてワトソン、お前推理小説好きだろ」
「何でそれを―――じゃなく自称神様さ、そのワトソンってのやめてくれます?僕には大城 白野って言うれっきとした名前があるんで」
「自称神様ってなんじゃい!僕はれっきとした神様じゃい!それに私にも
そう言って自称神様は近くに置いてあった紙にでかでかと名前を書いて見せつけてきた。
「神野だから自分の事神様って言ってたのか―――いやくそ寒いんだが!」
「五月蝿い五月蝿い!そっちこそ大城ってなんだ!お前こそその身長でよく言えたもんだな!推定百六四センチだろどうせ!」
「残念!百六十八センチですうぅ~!それに生きる姫で”せき”ってキラキラも大概の名前じゃねえか!名付けた親を見てみたいな~!」
「名前を愚弄するかこの小城野郎!」
「受けて立つぜキラキラネーム!」
こうして神野と僕の今世紀最大のどうでもいいマウント合戦の火蓋が切って落とされた!
「そこまでですよ二人とも!仲が良いのは良いですが喧嘩は駄目ですよ!」
僕らの間に割って入り叱りつける様に霧縫さんはそう言って僕らが切ったはずの火蓋を瞬間接着剤によって修復した。
「「すみません」」
どちらもしょうもない事だと気がついていたのであっけなく謝って和解となった。
「それで――大城、この部活に入る気はあるか?」
何事もなかったかのように平然と標準的な言葉で神野は問いかけてきた。
「まあ楽しそうではあるから嫌ではないな―――って神野、さっきまでの厨二病どこいった」
「ただの設定だ。気にするな」
「設定かよ!」
「それじゃあ大城君も入ろうよ!うちの部活今年結成したばかりでせきちゃんと私の二人しかいなくて廃部寸前なんだよ」
それで僕を呼んだのか、でもなあ部活か~
「このミステリー研究部に入ると特典でもれなく推理小説が読み放題だぞ」
「大城 白野入部します」
「即決!」
この量の本をタダで読めるんだ。ここで入らなきゃ男じゃない!
「そうか、これからもよろしく頼むぞ大城」
「ああこちらこそ神野」
僕は神野に近づき熱い魂の籠った握手を交わした。
なんかこの僕っ子とこの短い間で親睦が深まった気がする。
ブーブー
握手を交わし終わった後にポケットに入っているスマホから鳴動がしたので取り出してみると父さんからメールが届いていた。
父さん
『段ボールの中に入ってる赤いファイルに挟まった資料取ってこの住所に持ってきてくれないか?』
住所と共に書かれたメッセージに僕は『分かった』と返信した後に帰宅する為二人に
「すみません急用が出来ちゃったので帰りますね、入部届は明日書きますんで」
「――そっかじゃあまた明日ね大城君」
と霧縫さんは手を振って言ってきた。
「大城、夜の外出は自粛するんだぞ~じゃあな大城~」
「なんですかそれ?って急がないと、それじゃあ二人ともまた明日」
学校から自宅まで自転車で三十分は掛かる、出来るだけ早く届けないといけないし急ごう。
神野の発言に疑問を抱いたがそれどころじゃないので明日改めて言葉の意味を教えてもらう事にして今は帰る事にした。
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