屋 上
響樹は勇希を追いかけて、彼女が駆け込んだ校舎に飛び込む。 彼は彼女が向かった先は、おそらく校舎の屋上だと見当をつけていた。
以前、何気ない会話の中で、勇希が落ち込んだりした時は、悲しい顔を人に見られるのが嫌なので屋上で青空を見つめて気を落ち着けるのだと言っていた。
なぜか、その事を響樹は憶えていた。
校舎の階段を勢いよく駆け上り、屋上の扉を勢いよく開け飛び出した。
屋上を見回すと、遠くのフェンスに手を掛けて、空を見上げる勇希の姿があった。風で長い髪がたなびき美しい。
「紅・・・・・・先輩!」響樹は肩で大きく呼吸を繰り返しながら勇希の元に駆け寄った。
「不動・・・・・・君」勇希は瞳の涙を拭いながら、泣いていた事を誤魔化した。
「えっと・・・・・・大丈夫ですか?」響樹は、どんな言葉をかければいいのか判らない。
それに、先ほどのビンタと涙の理由も見当がつかなかった。
「御免ね、私、取り乱してしまって、あの葵っていう子の話を真に受けて・・・・・・」
「葵って、さっきの奴ですか? 何を言われたんですか、アイツに?!」響樹は自分が走ってきた方向に目をやった。
「いいの ・・・・・・本当に御免ね。 さっきは・・・・・・・痛かった?」言いながら、勇希は響樹の頬に手をかざした。勇希はその手の温もりに胸がときめいた。
「へ、平気ですよ。 先輩との組手に比べたらこんなもの、蚊がさしたようなものです」響樹の言葉に反して、その頬は綺麗に真っ赤な手形がついてとても痛そうであった。
「本当に、御免ね」勇希は申し訳なさそうに頭を大きく下げた。
「俺、本当にあの娘は知らないです。 先輩が思っているような事は絶対に何も無いですから」響樹は力強い口調で言った。
「私の思っている事って・・・・・・?」勇希は少し頬を赤く染める。
「先輩は、きっと学生が文武を疎かにして、色恋に溺れることが許せなかったのですよね。俺も同じ考えです!」
「・・・・・・ちょっと違うのだけど」勇希は、自分の思惑と違う事を言う響樹に唖然としていた。
「アハハハハ」少しの余韻を置いてから、自然と勇希は笑いが込上げてきた。
「・・・・・・?」響樹は彼女の笑いの意味が解らなかった。
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