第27話 相棒
「えぇぇ……」
目の前で地面に倒れ伏した大蛇を見下ろしながら、チロはどう反応していいのか分からず、ただ声を漏らした。
「キュアァッ、キュアァッ」
頭の上では、金色トカゲがなにやら
「これ、お前がやったのか?」
「キュアァッ」
尋ねると、金色トカゲは得意げに鳴いた。
どうやら、そういうことらしい。
しかし、金色トカゲのアイフラッシュなら、以前にチロも受けている。
こんなにも巨大な蛇を即死させる威力があの光にあるのなら、なぜチロは無事だったのか…………
疑問に思いつつ、チロが大蛇を槍の先でつついた。
すると、
ビクリッ
と大蛇の体が震えた。
「おわっ」
驚き、距離を取るが、大蛇が起き上がってくる様子はない。
よく見ると、大蛇の体は細かくピクピクと痙攣しており、どうやら『生きてはいるが動けない』という状態のようだった。
「あっ、そうか」
その様子を見て、チロは大蛇が動けない理由と、自分にアイフラッシュが効かなかった理由を理解した。
大蛇は────『麻痺』しているのだ。
金色トカゲの放つあの光には、おそらく生き物を麻痺させる力があるのだろう。
それも、巨大な蛇ですら一瞬で昏倒させるほどの、強力な力が。
だがチロには、それに対抗するだけの能力が備わっていたのだ。
そう、この世界に転生した時に、『毒耐性』や『成長阻害』とともに手に入れたスキル。
いままで全く使い道のなかった、『麻痺耐性』である。
「だからお前、あのとき不思議そうな顔してたのか」
「キュアァ」
金色トカゲにとって、アイフラッシュが効かなかった相手はチロが初めてだったのだろう。
そして奥の手が通用しなかったというのに、自分を殺しもせず、食べもしなかったチロに興味が湧いたに違いない。
「じゃあ、もしかしてお前、俺を守るためについて来てくれたのか?」
「キュアァッ、キュアァッ」
当然だ! とでも言わんばかりに、頭の上で金色トカゲが鳴いた。
「そうか…………ありがとうな」
チロの胸に、込み上げるものがあった。
前世では、面倒くささが先に立って、ちゃんとした友人関係など築いてこなかった。
学生時代の交友関係は過去のもの、職場での人間関係はその場限りと割り切って、他人と自分の間には常に一線を引いていた。
誰かの為になにかしてやろうとも、誰かになにかして欲しいとも思わずに生きてきた。
だが今、チロの頭の上には、自分の危険も
小さくてヒンヤリとした金色トカゲの存在が、とても大きいもののように、そして暖かいもののように、チロには感じられた。
「お前…………いや、いつまでもそう呼ぶのも悪いな。
…………キンタ……キンゴ…………いや、キングだ! お前の名前は、キングにしよう! 俺の頭の上で、王冠みたいにピカピカしてるしな!」
「キュアァッ、キュアァッ」
────異世界に転生してから、約ひと月。
チロは前世と合わせても生まれて初めて、『相棒』と呼べるような存在を手に入れることができたのだった。
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