第13話 強すぎた力の代償

 ドリンギの毒性は、予想以上に強烈だったようだ。


 そしてチロの『毒耐性』も、思っていたより強力だったようだ。


 ドリンギの毒は、少し目に入っただけでも角ウサギの体をドロドロに溶かほど強いというのに、チロは舌がピリピリするだけですんでいるのだから、すごいものである。


 …………なにはともあれ、角ウサギの肉を食うことは、できなくなってしまった。


 正攻法で倒すことができない以上、角ウサギを倒そうとすれば、チロはドリンギの毒を使わざるを得ない。


 しかしそれをやってしまえば、角ウサギの体は液状化してしまうのだから、本末転倒である。


 チロは角ウサギを倒したいのではなく、肉が食べたいだけなのだ。


 もしかしたら、目の前にヘドロ状なってに広がっている『かつて角ウサギだったもの』を飲めば、なんとなく肉の味はするかもしれないが、そういう問題ではない。


 飲みたいのではなく、食いたいのだ。


 肉を、肉々しく噛み締めたいのだ。


「…………うぅ」


 orzと崩れ落ち、チロはうめき声を上げた。


 命をかけた挑戦が無為に終わったのだから、いたし方のないことだろう。


 得られたものといえば、ドリンギの毒と『毒耐性』の効果、そして肉体と精神の疲労感だけだ。


「…………いや、まだだ」


 しかし、チロは地面の土ごと拳を握り込むと、呟いた。


「ウサギがいたんだから、探せばリスとか、ネズミとか、もっと弱い生き物だっているかもしれない。それに…………」


 と、一度言葉を切り、立ち上がったチロは近くに生えている幅の広い葉を持つ植物に近づくと、その葉っぱをつまんで裏返した。


「…………タンパク質なら、とりあえずは、ある」


 葉っぱの裏には、テントウムシの黒丸の部分を全部トゲにしたような、いかつい姿の甲虫がくっついていた。


 実は、目立つ外見をしているので、これまでにも探索中に何度か見かけたことがある虫だ。


 しかし前世では都会っ子だったチロは、虫があまり好きではない。


 いや、むしろ嫌いだった。


 見るくらいなら我慢できるが、触りたくなどないし、ましてやそれを食べるなんて狂気の沙汰だと思っていた。


 だからこそ、虫はタンパク質が豊富だという都市伝説を知っていながらも、あえてその存在を無視し続けてきたのだ。


 だが、もはや苦手だとか嫌いだとか言っている場合ではない。


 ゴブリンの生態がどうなっているのかは知らないが、食事というのは栄養バランスを考えて摂取しなければ、いずれ体を壊してしまうものなのだから。


「肉を手に入れられるようになるまでの、我慢だ」


 自分に言い聞かせるように呟くと、チロは葉っぱの裏にくっついているナナホシテントウ────ならぬ『ナナトゲテントウ』を捕まえた。


 そして、同じことを何度か繰り返して数匹のトゲテントウを捕まえると、トボトボと自らの住処すみかである池のほとりへ帰っていくのだった。

 


 





 


 ────その夜。


『テントウムシは、鳥でも食わないほどクソ不味い』という前世の知識を、チロは嘔吐とともに思い出し、散々な一日を締めくくることになるのだった。

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