87日目

「こんにちは、先生」

 アタシの挨拶に、受付で座っていたレーコ先生が立ち上がる。


「あ、ああこんにちは

 いや、そうじゃないだろ。

 大丈夫か?

 来週から期末試験週間に入るし、弟の事もあるだろう?

 お前の委員会当番の時は、代わりに私が入るぞ? 」


 アタシは首を横に振る。

「何か、やってる方が落ち着くので」


 その言葉に、レーコ先生は「そうか……」とだけ呟いて、受付の席を立つ。

 そこにアタシは座ると、持って来ていたタブレットをとりだして電源を入れる。


 ―――


「お疲れさん。今日はもういいぞ」

 気が付くと、下校時刻前だ。

 ずっと受付に座っていたから片付け作業をレーコ先生にさせてしまったみたいだ。


「すみませんでした。結局役目もろくにせずに座ってるだけで」


「はは、いいよ、気にす……」

 先生が言葉を止めた。

 理由は明らかだ。


「もう、鍵もかけたから……大丈夫だぞ? 」

 そう言うと、女性にしては少し大きな身体でアタシを包む。


「弟……弟‼

 血管に炎症がッッ

 起き……ててッッ‼ 」

 嗚咽や、鼻づまりでまともに喋れない。


「アタッ、アタシの……

 じ、腎臓ッッ返せば‼

 弟に……

 返したらッッ‼ あ、あいつ……治るのかな? 」


 そこでレーコ先生が腕に少し力を込める。

「違う。それは、違うよ秦祀。

 弟は、そんな事を望んでない。

 お前に腎臓を分けた時も。絶対にそんな事を思ってもいない

 だから、あいつを信じよう。あいつはきっと治る。

 それを信じるのが、唯一今の私達がしてやれる事だ」


 自分が、本当に嫌になる。

 この言葉を掛けてほしくて。

 でも、お母さんやお父さんは傷つけたくないから。

 アタシはレーコ先生を択んだんだ。


 とってもずるくて。

 本当は、自分が赦されたくて必死なんだ。


 だから、そんな嫌なアタシ。

 この涙と共に、アタシから流れ落ちて。

 もう、二度と

 アタシの中に渦巻かないで。


――異世界転生まで

  あと13日――

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