64日目

「おじゃましま~す」

 

「い、いらっしゃい。どうぞ」


 土曜日の昼下がり。我が家の玄関に白いワンピースとカーディガンの様な薄い上着を着た彼女が舞い降りた。多分、天使という存在がいれば似たような見栄えだろう。


「……いらっしゃい」

 珍しく階段から姉が降りてきて来客を迎え入れている。


「じゃっ、早速‼ 」

 彼女はやる気満々らしい。


「ちょっと、待って。

 アタシと弟、昼ご飯まだなの。申し訳ないけど、リビングでゲームでもして時間潰してくれる? 」

 姉は、そう言って俺の後ろを通り過ぎるとリビングのドアを開けた。


「あ‼ じゃあ丁度おやつに皆で食べようと思って、私サンドイッチとポテト作って持って来てるよ‼ もし、よかったらこれどうぞ‼ 」

 にこやかにバスケットを手渡してくる。


「あ、ありがとう……」勢いのまま俺はそれを受け取ると少しぎこちなく笑った。


「でも、母親が作ってくれてるから昼はこっちを食べるわ。それは冷蔵庫入れときましょ」

 姉が顔を扉の向こうから覗かせると、手を伸ばす。

 俺はおずおずとそれを手渡した。


 その後、彼女が執筆に夢中ですっかりこのバスケットの存在を忘れていてくれていた事に俺は心底安堵した。



――異世界転生まで

  あと36日――

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