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目にした異形は悍しく、恐怖はトウタの内臓を鷲掴みにした。隊列に響き渡る爆音は、血管すらも焼いていくようだ。方々から狂騒する悲鳴が、鋭く精神を切り裂いていく。つい先ほどまで笑っていた学友が焼ける香ばしさが、この状況の矛盾倒錯をトウタに知覚させた。

「ケイジ、ムーブっていうので、化け物を移動させる事ってできないの!?」

「止まっているものか、ほぼ止まっているものしか動かせないんだ!」

 パニックとなり、化け物到達までの猶予を無駄遣いしてしまうトウタとケイジ。

「ユリアくん!剣を借りるぞ!」

「あ…うん」

 一方混乱するトウタとケンジを尻目に、ユウはSRの剣を掴んで前に出る。

「『大斬撃』!」

 ユウがスキルを振るうと、斬撃が崖を切り崩しながら、化け物へと飛翔した。

ギャアアアア

「……くるぞ!」

 しかし斬撃は化け物の右腕で叩き消されてしまう。

今の攻撃で学生たちを完全に敵性と判断したのか、化け物は真っ暗な闇のような口を開けると、空を震わすほどの咆哮を上げた。

「うわあ!」

「ぎゃあ!」

 咆哮は不可視の砲弾となり、隊列の真ん中に着弾して爆発を引き起こす。

「トウタくん、頭を下げて!」

「っつ!?」

 ケイジの声に反応して、トウタは身を屈めた。さっきまでトウタの頭が在った空間を、黒い羽根をはやした蝙蝠のような何かが引き裂いていった。

「痛ぇ!いてえ!!」

 トウタへの攻撃を外した蝙蝠のような何かは、今度はジュンに噛み付いて押し倒していた。

「は、放れろよ!!」

 トウタは地面に転がっていた誰かの剣を拾い、蝙蝠のような何かに打ち付けた。

「硬っ!」

 しかし蝙蝠のような何かは非常に硬く、刃が全く通らない。ジュンからは引き剥がせたものの、今度はトウタの方に襲い掛かってきた。

「こ…こっちに来る…!」

「『ファイヤーボール』!!」

 鋭い牙がトウタに向けられた瞬間、ジュンのスキルが蝙蝠のような何かを吹き飛ばした。

 キヤアア

「潰れろよ、くそ!くそ!」

蝙蝠のような何かは苦しむようにのたうち、その間に誰かが振り下ろしたハンマーに叩き潰された。

「たすか……」

 った、と礼を言おうとしたが、トウタはジュンに怒鳴り付けられてしまう。

「レア度Nが、俺を助けたつもりかよ?格好付けずに、後ろに下がってろよ!」

「あ……ごめん……」

 トウタは下を向き、剣の束を握りしめた。

「また来るぞ!」

 カズオ達と共に化け物の相手をしているユウの声が、崖の上の方から降ってきた。見ると、化け物は口を開け、再度の咆哮を放とうとしていた。

「あの方向が、また……うわあ!」

 トウタが化け物の攻撃に備えようとした時、地面が大きく揺れた。いや、崩れた。

「きゃあっ!」

「ユリアちゃん!」

後方を確認すると、足場を無くしたユリアが崖下へと落ちていくところだった。

「ケイジくん、ムーブを頼んだ!」

「無理だ!動いているモノは動かせない!」

「僕が止める!」

 崖は五十メートル。落ちれば助からないだろう。何かの拍子に助かったとしても、下手な着地で動けなくなれば、崖下に広がる草原に犇めく、化け物達の餌食になってしまうことだろう。

「ユリアちゃん、こっちに!」

「え?」

 そんな思考を巡らせる暇もなくトウタは飛び出し、ユリアの腕を掴んだ。彼女の小さな体を引き寄せて腕の中に隠すと、無我夢中でスキルを発動させる。

「『ディレイ』!!」

 瞬間、世界がゆっくりになり、音も感覚も消え失せる。蟲のような吐き気が胃の中を暴れ回り、喉を突き破って飛び出してくる。

 そして一瞬の停止を取り戻すかのように、世界は遅く/速く、細切れにぶつ切りに、高速かつとびとびにズレていく。

「『ムーブ』!!」

「う…ぐっ……!」

 世界が正常に戻ったと認識した瞬間、今度は無重力に放り出される。物理法則を無視した速度で、一直線にトウタとユリアは飛んでいく。

「なにこれ、なにこれ、なにこれぇ!トウタくん!」

「わかん…ない……」

痛みもなく地面に擦られながらも、移動は止まらない。ゲームの面白バグ集とかで見たことある奇妙な挙動。大きな岩にぶつかって、数秒間その岩にぶつかり続けたのち、やっと無痛と無重力が終了した。

「助かった……?」

 トウタは崖の上を見上げた。遠くにケイジがサムズアップをしているのが確認でき、彼の『ムーブ』のスキルで、中空から地面へと移動したのであろうことを理解した。そして、

「きゃああ!!」

「ケイジくん!」

 黒い羽根を生やした悪魔に、ケイジの顔面が破壊される光景を目にしてしまった。

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