憧憬

阿紋

第一部 彷徨

自由落下

またこの道か。

反射的に後ろを振り返る。

自分がどこから来たのか、

もうすっかり忘れている。

ぼんやりとした景色に、

消えかけた一本道だけが宙に浮いている。

どの道を選んでも、光が消え、風がやんで、

自由落下するように、目が覚める。

そんなことはわかっている。

数えきれないほど、経験してきた。

目の前に広がる深い森。

立っている場所から、道が二つに分岐する。

どちらかを選んだかは、覚えていない。


目を凝らし、耳を澄ませ、

微かに漏れる光を探し、歩いて行く。


時には目を閉じ、耳をふさぎ、

肌で感じてみた。

ひんやりとした風の吹いた方に、歩いて行く。


いつも思うんだ、逆の道に歩いて行ったら

どうなったのだろうかって。

でも、そんなこと

選ぶ時にはすっかり忘れてしまっている。


選択権は僕にある。

選択は自由のはずだ。

知らぬ間に、自由を奪われているのか。

見えない誰かに操られているのか。

ふと、ありえない話ではないと思った。

僕は起き上がって、ベッドを抜け出し、

部屋のドアを開ける。

ベーコンの焼ける匂い。

卵とベーコンが用意されている。

僕は堅いパンを引きちぎって、野菜のスープに浸して食べる。

スープに浸しても、十分歯ごたえが残っている。

「和食が良かったですか」

いつものように、ローザが聞いてくる。

もちろん彼女に、和食を用意する気はない。

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