第67話 ほう、こんなところで。こういうのは勘弁して欲しいですね。



 ワイバーンの群れを倒した私達は小休止をとったあと、次の間へと向かう。やはり一直線になっているので進んでいく。少し進むと大部屋があり、敵の気配が感じられた。部屋が見えているんだから敵の姿もバッチリわかりそうだと思うかもしれないが、実際は部屋に入るまで暗くて何も見えないのだ。だから気配探知の範囲を絞って鑑定を使って敵を判別している、という感じだ。私の鑑定は隠しておくためにマーブルが鑑定したことにしている。



 敵の気配は感じたが、今回はたったの1体だ。強さ的にも先程のギガントサイクロプスと比べると少々劣る感じがする。ボーナスステージか? と思ったけど、ダンジョン的にそれはなさそうだ。とりあえず鑑定してみましょうかね。アマさんよろ。



-------------------------------------


『ピュアミスリルゴーレム』・・・ミスリルゴーレムのピュア種じゃの。通常のゴーレムは基本的にいろいろな物質で構成されており、どの物質が最も多く含まれているかで種類が決まるのじゃ。例えば、石っころが最も多ければストーンゴーレムじゃし、木が最も多ければウッドゴーレム、といった具合じゃ。しかしピュア種は中心の魔石を除けば1種類でしか構成されておらん。こやつは名前の通りミスリルのみで構成されておるのじゃ。今回はミスリルのピュア種じゃから倒すとミスリルがウハウハじゃぞ。あ、ここは確か王宮の魔石ダンジョンじゃったか、、、。ま、まあ、頑張るのじゃぞ。


-------------------------------------



 ・・・おい、ジジイ、ぬか喜びさせやがって、ふざけんな。なんでこういう場所に限って、こういう魔物が出てくるんだよ。これ、どう考えても嫌がらせじゃねぇか。ミスリルぎっしりだから、超硬いわ、魔石の場所特定しづらいわ、何より、倒しても魔石しか出ねぇし。魔石はいらんから、ミスリルよこせ、ミスリルをよ。っとかなりへこんでいたところにアンジェリカさんが心配そうに話しかけてきた。



「ア、アイスさん、いきなり落ち込んで、どうなさいましたの?」



「ああ、アンジェリカさん、マーブル、ジェミニ通信から敵の内容が判明しまして、その内容に非常に落ち込んでいるのです。」



「災厄クラスの魔物でも平然としているアイスさんが、落ち込む敵って、一体なんですの?」



「はい、この先の敵はミスリルゴーレムのピュア種です。」



「ミスリルゴーレムというのは理解しましたが、ピュア種とは何ですの?」



「平たくいうと、ピュア種というのはその物質でしか構成されておりません。」



「と仰いますと、そのゴーレムはミスリルだけでしか構成されていないと?」



「そういうことです。」



「え? でも、ミスリルゴーレムだよ。倒せばミスリルがたくさん手に入るから、むしろアイスさん的にはボーナスステージじゃないの?」



「セイラさん、私も一瞬そう思いました。しかし、ここがどこであるか改めて確認して下さい。もう一度いいます。ここがどこであるのか?」



「ここって、王宮のダンジョンだよね。ここのダンジョンは倒すと魔石が手に入るダンジョン、あっ。」



「ご理解頂けましたか。そうです。ここは王宮のダンジョンで、ドロップ品は魔石です。つまり、あのデカブツを倒しても、ミスリルは手に入らない上に、あのランクですと、ワイバーンより質は下でしょう。」



「ああ、なるほど。しかも全身ミスリルだから、かなり硬い上に倒しても旨味が全く無い、と。」



「そういうことです。」



「それで落ち込まれていらしたのですね。納得しましたわ。確かにそういうことでしたら、やる気も落ちますわね。」



「・・・戻りますか。」



「ええっ? いえ、戻るのでしたら戻るで構わないのですが、わたくし的にはもう少し先に進んでみたい気もしますわ。」



「わかりました。ここは倒して先に進むとしますが、次もゴーレムだったら私は戻ります。それでよろしいでしょうか?」



「そうですわね。連続して嫌がらせが続きましたら王宮に戻りましょう。その先にどれだけの宝物がありましても、途中で嫌気が差したらそれまでですものね。」



「お気持ちを汲んで頂きありがとうございます。」



 アンジェリカさんの言うとおり、とりあえずこいつを倒して先に進んでどんな敵が出るかを確認してからでもいいかな、と思い直して先に進むことにした。とはいえ、相手はミスリルの塊。アレに通用する武器って今あるのかなぁ。



「ところで、戦姫の3人は、あのミスリルゴーレムに対抗できそうな攻撃手段ってあります?」



「正直申しますと、ミスリルでしたら、ある程度は傷を付けられますが、貫くというのは無理だと思いますわ。」



「私も、アレを貫ける攻撃手段はないかな。一部ならともかく、全身ぎっしりミスリルだとしたら無理だね。」



「ないことはないけど、みんなを巻き込むからやらない方がいい。」



「なるほど、わかりました。ありがとうございます。マーブルとジェミニはどうかな?」



「ミュウ、、、。」



「わたしは倒そうと思えば倒せるです。けど、全部ミスリルだと、こちらもかなりの怪我を覚悟しないと厳しいです。」



 マーブルが珍しく落ち込んでいた。落ち込むマーブルも可愛いね。特に耳が畳まれている状態なんかたまらん。って、今はそれどころではないな。



「なるほど。無理をして欲しくないから、いいよ。で、ライムだけど、流石にミスリルは溶かせないよね。」



「うん、ミスリルはむりー。あるじ、ごめんね。」



「いや、気にする必要はないよ。で、ライムが無理だとすると、オニキスも当然無理だよね?」



「ピー、、、。」



 ありゃ、みんな少し落ち込んでいる。ごめん、そういうつもりで聞いたのではないんだけど。



「あ、ゴメン、みんな済まない。作戦を立てるのに必要だったから聞いてみただけで。」



「ところで、アイスさんこそ大丈夫ですの? 武器は氷の槍みたいなものですよね?」



「そうですね、今までのやり方だと少し厳しいですが、対策はとれておりますのでご心配なく。」



「そうでしたか。失礼なことを伺って申し訳ありませんでしたわ。」



「いえいえ、お気になさらず。では、今回は私一人であのデカブツを倒します。こういうときに出てきやがって、という多少の怒りがあり、その八つ当たりにはピッタリでしょう。というわけで、みんなは私があのデカブツを倒した後で部屋に入ってきて下さい。」



 作戦は決まったので、先を進み部屋の手前まで進んだ。



「何があるかわからないので、倒すまでは部屋に入らないようにして下さい。あと、念のため後方に警戒をお願いします。今回はさっさと倒しますので、それほど時間はかからないと思います。」



「いつもさっさと倒しているような気が致しますが、気のせいですか?」



「ああ見えても、じっくりと戦闘をしているつもりだったのですが、そんなにあっさりでしたか?」



「ええ、見事なまでにあっさりでしたわ。わたくし達にかけてくれる言葉なんかが嫌みに聞こえるくらいには。もちろん、わたくし達はアイスさんの人となりを存じ上げておりますので、そんなつもりは全く無いことは承知しておりますが、傍目から見るとそうにしか見えませんわ。」



「ありゃ、そうでしたか。でも、それをわかっていただけるのは嬉しいですね。私はソロの戦闘はともかく、集団戦というかああいった見事な連携はできないものですから。って、話はこれくらいにしてさっさと倒してきますね。では、バーニィ起動!」



 バーニィを起動させてミスリルゴーレムに突っ込んでいく。何にも旨味がない相手だから、とっとと終わらせたい。しかし、先手を取ったのはミスリルゴーレムの方だった。意外に俊敏だ。その上一撃が致命傷になりそうなやばさだね。まあ、最近は一撃が致命傷の敵としか戦っていないからある種テンプレになっているかな。とはいえ、相手は人型の敵。格闘術にはうってつけの相手。さて、ここから反撃かな。



 難なく躱して側面に回り込む。裏膝を攻めて相手を倒してから仕留めるのがいいか、と思い裏膝めがけて一撃を放つ。



「バーニィバンカー!!」



 バンカーは狙いを過たず裏膝に命中する。人型だからいくらミスリルゴーレムでも関節部位だから多少はもろい、多少はね。こっちが危ないから爆破はしなかったけど、それでも十分に通じたようだ。予定ではうつ伏せの状態にして起き上がったところに頭部を攻撃しようと思ったのだが、膝を粉砕してしまったので、仰向けに倒れてしまった。予定外のことが起こってしまったが、幸いにもその巨体が私の上に来ることはなかった。



 仰向けに倒れたところでどうやって追い打ちをしようかと思っていたら、倒れて数秒たったところでミスリルゴーレムは消えてしまい、魔石に変わっていた。



「・・・何これ?」



 予想外の結果に唖然とする私。気を取り直して魔石を回収すると、近くに宝箱が見つかった。通路で待機していたみんなも、我に返って部屋に入ってきた。



「何か、呆気なかったですわね。」



「アイスさん、あの場所に核があるって知ってたの?」



「いえ、核は壊しておりませんよ。だから、唖然としていたのですよ。」



「なるほどね。でも、これからダンジョンでのゴーレム戦で役に立つかも。」



「そう考えると有効な手だったのですね、戦った本人としては、うつ伏せの状態にしてから起き上がるところを攻撃しようと考えていたのですが、、、。」



「まあ、無事に倒せたのですから、よしといたしましょう。ところで宝箱がありますが、どうなさいますの?」



「もちろん、もらえるものは頂きましょうか。では、セイラさんにお願いしましょうか。」



「了解だよ、私に任せて。」



 セイラさんが宝箱に近づいていろいろ探っていたが、罠はなかったようで、あっさりと箱を開けた。



「この箱って、罠も鍵も設置されてなかったよ。」



 箱を開けると、中には金属がぎっしり詰まっていた。金属ってことはミスリルかな? と思ったけど、そればかりではなかった。鑑定しますか。今日2度目の登場です、アマさんよろ。



--------------------------------------


『ミスリル』・・・言わずと知れた有名な魔法金属じゃ。これで高性能な武具や防具が作れるぞい。純度もかなり高いので扱えるものは限られておるがの。


『緋緋色金』・・・ほう、これはヒヒイロカネじゃな。この世界にもこれがあるとはのう。これはミスリル以上の魔法金属じゃぞ。こいつは単体で扱うよりもミスリルなどの魔法金属に混ぜて使う方が効果が高いようじゃな。


『アダマンタイト』・・・もう、何でもありじゃな。非常に硬い金属で、硬さだけならこれに勝るものはないぞい。前述の緋緋色金と合金することで伝説のオリハルコンというものができるそうじゃ。とはいえ、これらを扱えるものがおるかどうかが問題じゃがな。


 ちなみに、これらは1つ10キロずつになっておるようじゃの。これなら何かと使いやすいから有効に使うのじゃぞ。


--------------------------------------



 何でミスリルゴーレムがこんなもの持っているんだよ。まあ、これらは要相談かな。



「えーっと、この箱に入っている金属はかなりヤバイものです。下手するとこれらを巡って戦争が起こるほどのやばさを感じます。」



「アイスさん、それって具体的にはどんな金属なんですの?」



「そこの青っぽいものはミスリルです。重さでは3トンくらいありますかね。」



「ミ、ミスリルが3トンですの? これで3トンだとしたら、あのゴーレムは一体どのくらいの量に。」



「そこは考えない方がいいかもしれません。驚くのはこれからです。」



「え? その赤っぽい金属と黒っぽい金属はさらに凄いのですか?」



「ええ、問題なのはこの2種類なんですよ。」



「ミスリルだけでも驚きですが、一体なんですの?」



「説明しますと、赤っぽいのはヒヒイロカネで、黒っぽいのがアダマンタイトです。」



「・・・・・。お、驚きを通り越してしまいましたわ。ヒヒイロカネやアダマンタイトは聞いたことがあるくらいで実際に見るのは初めてです。王宮の宝物庫にすら存在しませんわ。」



「とりあえず、これらはどうしましょうかね?」



「お父様とは魔石については取り分では話がついておりまして、宝箱については何も言及なさっていなかったので、基本わたくし達が頂いても問題ないですわ。アイスさんがお1人で倒したのですから、アイスさんが全て頂いてしまっても問題ないかと。」



「いえ、私は帰ろうとしたところ、倒して先に進もうと言ったのはアンジェリカさんですので、もらう権利はあります。また、私はご覧の通り武器防具を必要としてないので、マーブル達とのお揃いの装備用に少しもらいたいくらいですかね。」



 いろいろと話し合った結果、ヒヒイロカネやアダマンタイトについてはこちらで全て回収ということになり、ミスリルについては、100キロ分をもらって、残りはアンジェリカさんの裁量に任せることになった。



 外れとばかり思っていたけど、一応アタリだったのかな。とはいえ、この貴重な金属どうしようかね。一応あの箱の中にはミスリルの塊が300個、ヒヒイロカネやアダマンタイトの塊が200個ずつ入っていた。おいそれとは出せないものだし、これを加工できる職人がいるかも疑問だしなぁ。袋も圧迫するからねぐらに封印するのも手かな。



 では、次に進むとしますかね。いくらいいものが手に入ったとはいえ、もうゴーレムは結構です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る