第65話 ほう、こういう仕掛けが。腕が鳴りますな。

 テシテシ、テシテシ、ポンポン、朝の起こしインダンジョン。寝床は布団ではなく久しぶりにウサギの毛皮をかぶった状態だ。場所は変われどもやることはいつもと大して変わらない。いつも通りマーブル達3人に挨拶をしてから朝食の準備だ。



 朝食の準備が終わる頃に戦姫の3人もテントから出てきた。お互いに挨拶を交わして朝食を頂く。



「やはり、アイスさん達と一緒だと美味しい食事が食べられるので非常にありがたいですわ。」



「いえいえ、王宮の料理長の料理の方が美味しいでしょう。」



「味的にはそうかもしれませんが、精神的に開放感が伴っている分、こちらの方が美味しく感じますの。」



「私も姫様と同意見ですね。」



「うん、落ち着いて食べられるから、こっちの方がいい。」



 こうして褒められるのは嬉しいが、過大評価な感じがする。まあ、楽しく美味しく食べられればいいか。



 食事が終わり、片付けを済ませると、地下11階への階段を降りる。魔物は地下10階と特に変わることはなく、数もほとんど同じであった。ちなみに、やはり一本道だった。大した敵ではなかったので、特に障害もなく進んでいく。最奥と思われる場所に到着すると、ボスが待ち構えていた、というかボスだよね?



 何で疑問に思ったかというと、ボスがコボルトキングだったからだ。しかも一体だけって。コボルトキングはコボルトの集団があってこそ、その真価が発揮されるのに一体だけではちょっと強いコボルト程度でしかない。というわけで、戦姫の3人が立候補してきたので任せることにした。結果は瞬殺だった。当たり前か。



 アッサリとボスを倒すが、今までと違っていたのは階段がなく魔方陣が一つあるだけ。



「まさか、このダンジョンってこれで終わりですかね?」



「申し訳ありませんが、この王宮のダンジョンを攻略した者はいままで一人もおりませんの。記録によりますと地下10階まで進んだというものが残っておりますが、それより下の階層については全くわかっておりませんの。」



「まあ、地下10階のボスが女王アリでしたからね。これらを倒すのには骨が折れますよ。」



 意外とあっけなく終わってしまい少し拍子抜けしてしまった。戻ろうかなと考えていたら、アンジェリカさんから提案が出た。



「アイスさん、実はこのダンジョンって階段を出入りすると魔物が再出現するそうですの。ですから一旦10階に戻って、再びここを攻略しません? 本音を言うと、まだ王宮には戻りたくありませんの。」



「依頼主からの提案では断るわけにはいきませんね。では、飽きるまで繰り返し探索しますか。幸いにも地下10階には水場がありますしね。」



「ええ、アイスさん達が一緒にいるおかげで、ダンジョン内でも入浴して挑めますもの。こんな快適にダンジョンで活動できるなんて滅多にありませんからね。是非わたくし達が飽きるまでおつきあい下さいな。」



「承知しました。では、10階に戻りましょうか。」



 私達は一旦地下10階への階段へ戻っていくが、距離はそこそこある上に、魔物は蹴散らした後だから、何もせずひたすら歩いているようなものだ。念のため気配探知はしているが、魔物の気配は全くといっていいほどない。魔物を蹴散らしながら進む分には問題ないが、何もないところをひたすら進むのは精神的にきつい、というわけで、マーブルの転送魔法がここでも使えないか、と思った訳だ。マーブルに聞いてみると、できそうだということなので、階層移動になると面倒なので、10階への階段辺りに転送ポイントを設置してもらうことにする。



 10階への階段に到着したので、早速マーブルに転送ポイントを設置してもらった。通訳士ジェミニからの話だと、階層移動での転送はできなさそうなので、同階層にポイントを設置したのは流石だと言っているそうだ。そうだとしたら嬉しい。ポイント設置の後、地下10階に戻って軽く休憩を取った。



 休憩も終わって再び地下11階に降りると、何か雰囲気が変わっていた。魔物は再出現したが、魔物達が心なしか強くなっている気がした。11階のボスも同じコボルトキングではあったが、多少手強くなっているようだった。



 やはり勘違いではなかった。11階でボスを倒して10階に戻り、また11階に降りると今度は魔物自体が変わっていた。最初こそコボルトやオーク中心だったのが、いつの間にかオーガやリザードマンなど魔物のランク自体が上がっていた。とはいえ、勝てない相手ではないので、思う存分戦わせてもらった。魔石もたっぷり手に入った。これは戦い甲斐があるから、しばらくはここに籠もるのも悪くないなと思った。戦姫の3人も同様に思ったようだ。というわけで、できるだけ最終日までガンガン狩っていこうという話になって、ひたすら往復を繰り返した。



 ひたすら往復を繰り返すこと数日、魔石の数やドロップ品もかなりの数が集まったため、これで最後にしようと決めて11階に降りた。こちらの意志を悟ったのか、単なる偶然なのかわからなかったが、これまでとは違う様相を呈していた。今までは一本道ではあったものの、道はいろいろな方向に伸びていたが、今回に限っては道が完全に直線になっていた。直線の先は大きめの部屋になっており、魔物が待ち構えている状態だった。うん、これはいわゆるボスラッシュというやつだろう。さて、気合を入れていきますか。



 最初の部屋で待ち構えていたのは、一つ目の巨人が3体だった。鑑定すると「ギガントサイクロプス」と出ていた。通常種じゃなくて巨大種かよ。流石に戦力を分けた方がいいかな、と考えていたら、戦姫の3人も同じように考えていたらしい。



「アイスさん、流石にこのレベルの敵ですと、好き勝手にとはいきませんでしょう。というわけで、指示をお願いしますわね、隊長。」



「わかりました。では、作戦を説明します。今回の相手はギガントサイクロプスですが、ギガント種とはいえサイクロプスです。あの目立つ目が弱点ですが、正直、目を狙うとあっけなく倒せる程度の相手です。これは私達だけでなく、戦姫の3人にも言えます。ですので、今回は目を狙うのは禁止ということでお願いしますね。」



 今回の作戦説明に、アンジェリカさんが疑問を持って聞いてきた。



「え? 弱点を攻撃するのは基本ではないのですか?」



「もちろん、敵の弱点を狙うのは戦闘における基本ですが、考えてもみてください。普段、こんなレアな強敵と戦う機会はほとんどないと言っても良いでしょう。ですから、このクラスの敵に対して通常の攻撃がどこまで通じるかを理解しておく必要があると思うのです。しかも、今回はどうやって倒しても素材は基本的には手に入りませんので、どれだけ相手が傷ついても問題ないわけです。まあ、ある種の強化訓練だと思ってください。」



「なるほど、確かにこういう強敵と戦える機会なんて滅多にありませんわね。それに、アイスさんの仰るとおり、素材として気にせずに戦えますね。承知しましたわ。」



「ご理解頂けましたか。では、改めて作戦をお伝えします。まずは、真ん中の一体をマーブル隊員とジェミニ隊員で倒して下さい。右の一体は戦姫の3人にお願いします。私は左の一体を倒します。弱点の目さえ攻撃しなければどこを攻撃してもかまいません。ライム隊員とオニキス隊員はいつも通り戦姫の護衛をお願いします。」



 みんなが敬礼をもって応える。これもお約束になってきたな。敬礼の後、みんな戦闘態勢に入った。



「バーニィ起動。では、攻撃開始!!」



 指示通りに、マーブルとジェミニは真ん中のやつに、戦姫は右側のやつに、私は左側のやつにそれぞれ攻撃を仕掛けていった。



 相手はギガントサイクロプス。かなりデカい。しかしデカい分動きは遅めだ、とはいえ、一撃でも喰らってしまうと致命傷だ。水術を使って肺を凍らせれば目を狙うまでもなく圧勝できるが、それでは面白くない。というわけで、やはり膝から潰すのが定番かな。しかし、相手もそれをわかっているのである程度牽制は必要かな。と、いろいろ考えていたが、牽制ついでに巨大な棍棒を持っている右手を狙うことにした。



「バンカーショット。」



 とりあえず放った5本の氷の杭がギガントサイクロプスの右手を中心に狙う。流石に的がデカいのか全弾命中する。命中したところで爆発させると、右腕が吹き飛んでなくなっていた。あれ、おかしいな、ここまで威力強かったかな。



「ウガーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



 ギガントサイクロプスが痛みとも怒りともとれる叫びをあげる。隙だらけなので、追い打ちをかけるべく今度は右足めがけてバンカーショットを5本放つ。こちらも狙い通りに突き刺さってそのあと爆破。同じ威力で爆発させたが、足は頑丈みたいで残念ながら吹き飛ぶまでには至らなかったが、その一撃で前のめりに倒れてしまった。倒れた衝撃で周りのジャマになるとまずいので、水術で地面に着かない程度のところに氷を張る。ギガントサイクロプスは倒れはしたものの、周りが揺れたりすることはなかった。頭部が良い場所にきたので、とどめを刺すべくバンカーをぶっ放す。



「バーニィバンカー!!」



 マスタードラゴン以来久しぶりだったので、気合を込めて左腕でバンカーを打ち込むと、爆破させるまでもなくギガントサイクロプスの頭が吹き飛んで終了。普通に威力上がってる? まあ、いいや、とりあえず私の出番は終了。



 ジャマにならないよう角に移動して残りの2体の様子を見る。まずはマーブルとジェミニのコンビだ。マーブルもジェミニも素早く相手を翻弄しつつ攻撃を加えていた。攻撃をするたびにサイクロプスの足はえぐれていった。しかも、マーブル達、本気で攻撃してない。いや、傍目から見ると一生懸命攻撃しているように見えるが、何度も見ている私からすると、あれは完全に相手を舐めている。まあ、当然か。マーブルもジェミニも私が1体倒したのを確認すると、遊びはこれまでだといわんばかりに攻撃速度を速めると、あれだけの巨体を誇ったギガントサイクロプスがみじん切りの状態まで切り刻まれた。これはエグい。相手に同情してしまう。倒し終えたマーブル達は私の所に飛びついてきたので、それぞれをなで回す。うーん、このモフモフたまりませんなあ。



 一方、残り1体のギガントサイクロプスと戦姫の3人は一進一退を繰り広げていた。ルカさんの魔法やセイラさんの弓矢で注意を引きながらアンジェリカさんが槍で膝を狙って攻撃していた。先に倒しておいて言うのも何だけど、惚れ惚れするくらい見事な連携だった。一カ所を的確に攻撃しつつ、敵の攻撃を躱しており全く危なげなく事は進んでいた。しばらく攻撃を繰り返していると、サイクロプスは耐えられなくなりうつ伏せの状態で倒れる。アンジェリカさん達は攻撃の手を休めることなく次の手に移っていく。



 アンジェリカさんが大きくジャンプし、ギガントサイクロプスの心臓めがけて跳んでいく。それに合わせるようにセイラさんが魔法を付与した矢を放つ。矢はまっすぐ進み、心臓に刺さりやすいように真一文字にギガントサイクロプスの皮膚を裂いていった。それと同時にルカさんがアンジェリカさんの武器に魔法を放っていた。魔法は見事にアンジェリカさんの槍に込められ、アンジェリカさんの槍は炎をまとっていた。



「これでとどめですわ!!」



 アンジェリカさんの槍は確実にギガントサイクロプスの心臓を貫いて見事に仕留めていた。



 3体のギガントサイクロプスの死体が消えて、バスケットボールくらいの大きさの魔石が現れた。



「ふう、何とか倒せましたわ。弱点を無視して攻撃するのは大変でしたが、大きな敵に対しての戦い方が少し理解できた気がしますわ。」



「いえいえ、見事な連携でした。危なげもなかったですし、流石としか言いようのない戦いでした。」



「3人がかりでこれだけ時間がかかりましたのに、アイスさんはお一人でさっさと倒してしまわれたのでしょ? どうやったら、そんなにアッサリと倒せますの?」



「私の場合は単なるごり押しですので、ああいう綺麗な倒し方はできないので、逆に羨ましいのですよ。」



「わたくし的には、ごり押しで倒せる方がよほど羨ましく感じますわ。」



「ははっ、そうですか。では、お互いが羨ましく感じたということで、今作戦を終了します。」



「「「了解!!」」」



 みんなが敬礼で応えてくれた。うん、無事に終わって良かったよ。



 返り血などがついていたが、ライムとオニキスが綺麗にしてくれた。ありがとうね。



 無事に最初の相手を倒した私達は次なる敵に向かって進んでいった。

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