第55話 ほう、やはり仲間と従魔は違うのですね。

 テシテシ、テシテシ、ポンポン、いつもの朝起こしから一日は始まる。私の生活にはなくてはならないものの1つだ。これがないと一日は始まらない。



「おはよう、マーブル、ジェミニ、ライム。」



「ミャア!」



「アイスさん、おはようです!」



「あるじー、おはよう!」



 うん、3人は今日も元気です。さて、早速朝食の準備を済ませましょうか。マーブルは火付け係、ジェミニは材料のカット係、ライムは後片付けの時に大活躍してもらう予定だから、今はフリーなので、私達の所をあちこち来てピョンピョン跳ねて応援している、のかな? でも癒やされるのでカモンウェルカムだ。



 準備が完了して皿に分けている途中で戦姫の3人、いや今はオニキス含めて4人か、が客室(と勝手に命名)から出てきた。それぞれ挨拶を交わすと各自めいめいの場所に座る。オニキスはライムの所に行って一緒に跳びはねていた。最初は戦姫も準備を手伝うつもりで早めに部屋から出てきていたが、正直手伝いを必要とするほど大変な作業ではなかったので、こちらが準備を完了するくらいのときに出てきてもらうようにお願いした。そういった経緯があるので、彼女たちが私達だけに準備をさせているつもりではないことを弁明しておく、って誰に弁明する必要があるのか? まあ、いいか。これがねぐらでの日常だ。



 朝食が終わると、もちろん片付けを行う。ライムが一緒になってからこの作業はもの凄く楽になった。何せ油汚れも一瞬にして綺麗になるのだ。密かに一番面倒だった作業がライム1人で解決したのだ。昨日の戦闘では大活躍だったが、正直汚れの処理をしてくれるだけでもこちらにとっては必要不可欠な存在だ。オニキスも一緒に手伝ってくれる。最近は風呂用の穴と洗濯用の穴に加えて食器洗い用の穴も作った。湧き水をそこに入れておいて、ライム達が綺麗にしてくれた食器をその穴に入れる。この作業は戦姫が率先してやってくれた。全部の食器を入れ終わると、水術で回転させる。最後食器をゆすぐのが目的だ。木の器なので、多少荒めに扱っても大丈夫。万が一破損してもすぐに新しいのを作るだけだ。ゆすぎが終わったら、水を抜いて完了だ。うん、水術ものすごい便利だ。でも、魔法、使いたかったなあ(遠い目)。



 片付けが終わったので、これからの予定について意見を聞くことにする。



「さて、今日は報告に行かないとなりませんが、どうしましょうか?」



「本隊が戻ってくる前に報告を済ませてしまいましょう。トーマスさんはすでに伝令などを送ってギルドの方には連絡が届いているはずですわ。」



「承知しました。アンジェリカさんの言うとおりにいたします。戦闘こそ私が指示しておりますが、本来ですとアンジェリカさんがこのパーティのリーダーですからね。」



「そうなんですの? わたくしは、アイスさんがリーダーだと思って行動しておりますが、そういう認識でしたの?」



「ありゃ、そうだったんですね。とはいえ、今現在の遣り取りで特に問題はなかったのでこのままでいきましょうかね。」



「そうしていただけるとありがたいですわ。ここにしばらく滞在していたい気分ではありますが、さっさと報告に向かいましょう。こちらはいつでも出発できますわ。」



「そうですか、私達もいつでも出られますので、早速出発しましょうか。」



 マーブルに頼んで転送先を王都に一番近いポイントへと移動した。王都の城門が見えたので、いつも通り一般人の入り口に並んだ。かなり注目されはしたが、最初の時と違って特に絡まれることなく列は進んでいった。私達の番になったが、今回はジュセイさんはいなかった。



「おはようございます、身分証を確認します。」



 アンジェリカさんがギルドカードを出すと、担当していた門番さんがあわてて奥に引っ込む。少ししたらジュセイさんが一緒に来た。



「アンジェリカ様、何度も申し上げておりますが、あなたはなぜいつも、こちらからいらっしゃるのですか。しかも今回は特別クエストですよ。今回のクエスト達成者に関してはこちらではなくあちらで手続きしてください。セイラさん、ルカちゃん、アイス君、君達もですよ。案内しますから、この者についていってくださいね。」



 そういうと、私達一行は貴族用の出入り口へと案内された。そこで改めて身分証の提示を行う。



「改めて、依頼達成おめでとうございます、そして、王都への魔物の襲撃を防いでくださりありがとうございます。一王都の住民として感謝申し上げます。」



「いえいえ、冒険者の皆さんが頑張ってくださった結果ですわ。私達は遊撃隊として魔物を翻弄していたに過ぎませんわ。」



「いえ、トーマスを通じて冒険者ギルド長からある程度話は伺っております。アンジェリカ様がミノタウロスのボスを1対1で倒されたとか。」



「わたくし一人の力ではありませんわ、ここにいるオニキスやライムちゃん達スライムがサポートしてくれなければ、わたくしでもあのミノタウロスを倒すことは難しかったでしょう。そして何より、アイスさんの指示が的確だったというのが一番ですわ。」



「そんなにご謙遜なさいますな。トーマスからも戦姫の方達は下手なAクラス冒険者よりも腕は確かという報告も聞いておりますよ。しかし、アイス君、君がここまで戦姫に信頼されているとはね。君も知っての通り、戦姫は他の人やメンバーと一緒に行動することはなかった。」



「はい、知っております。ひいき目に見なくても戦姫の3人は美女揃いですからね。私はもう歳が歳なので、彼女達に邪な気持ちは持っていないというのが大きいでしょう。仮に私があと10以上若ければ、恐らく彼女たちに対して他の冒険者達と同じ気持ちを持ったでしょうね。まあ、今仮にそういう気持ちを持ったところであきらめるしか選択肢がなさそうですが、アハハ。」



「ははっ、なるほどな。っと、身分証を確認しました。問題ありません、お通りください。」



「任務お疲れ様ですわ。」



 そうした遣り取りをして私達は王都へと入る。早速冒険者ギルドへと向かう。



 冒険者ギルドへ入り、手続きの窓口へと向かうと、ギルド長のアルベルトさんもいた。



「任務お疲れ様でした。戦姫の3人にアイスさん達。早速報告してもらいたいのだけどいいかな?」



「ギルド長、ご機嫌よう、早速報告いたしますわ。」



 アンジェリカさんがギルド長に私達がどういった行動をとったかを説明した。



「アンジェリカ様、報告ありがとうございます。アイスさん、ところで、昨日、ミノタウロス達を殲滅した後、拠点に入らず野営するとアイスさんがトーマスに伝えたそうだが、どこで野営したのかな?」



「アンジェリカさん達が被害に遭わないようにできるだけ王都近くまで戻ってから野営しました。マーブルとジェミニが見張りをしてくれたおかげでグッスリと寝られますので、下手な拠点にいるよりも精神的にも安心して休めるのです。」



「なるほど、それは正しい判断だったね。実はトーマスから連絡が来て、一部の冒険者が君達を捜し回っていたらしい。やはりどこかの貴族からそういった依頼を受けていたような感じらしい。」



「そうでしたか。ただ、油断をしているわけではないのですが、マーブルとジェミニが見張っていた以上、彼らは何もできずに終わったと思いますよ。恐らく討伐隊の中でもマーブル達と戦えそうなのはトーマスさんとあと2、3人といったところでしょうか。その貴族のふざけた依頼を受けるような冒険者程度では相手にすらならないでしょうね。」



「そのようだな。私から見てもその猫とウサギは恐らく災厄級の強さを持っていると思う。どうみても可愛い猫とウサギにしか見えないけどね。」



「実際、マーブルとジェミニは可愛い猫とウサギで間違っていないですよ。親馬鹿と言われるかもしれませんが、むしろ親馬鹿と思って欲しいですね。」



「うんうん、その気持ちはもの凄くよくわかるよ。正直、私もこの子達が欲しいからね、もちろんペットとしてね。」



「マーブル達は絶対にあげませんよ。私の大事な家族ですからね。」



 そういうと、マーブルとジェミニは嬉しそうにモフモフ攻撃を私にしてくる。当然私も嬉しい。



「本当に羨ましいね。ところで、アンジェリカ様が新たに登録したスライムだけど、このスライムはどう見ても特殊なのだが、アイスさん、君が絡んでない?」



「オニキスですか? オニキスはここにいるライムから分裂したのをアンジェリカさんにお譲りしたものです。」



「ほう、なるほど。君のスライムも普通ではないね。一体どこでテイム、いや、仲間にしたのかな?」



「以前、タンバラの街で『ヘルハウンド』という盗賊の討伐に向かっているときに偶然死にそうなスライムがおりまして、干し肉をあげたら懐いてしまって現在に至ります。」



 ライムがその通りと言わんばかりに大きく跳び上がる。うん、かわいいよ。



「へえ、それは珍しいな。というか、私が冒険者だったころはそんな幸運なかったよ。スライムを連れているのにここまで懐いているのは見たことがないよ。けど、それで納得した。アンジェリカ様のスライムもここまで懐いているのは元がライムというのが大きいかもしれないね。」



「そうなんですか?」



「ああ、実際スライムをテイムしている者はある程度いるが、そのスライム達は基本勝手に動いてしまうことが多いんだ。スライムだけではない、従魔も同様だ。たまに契約主の言うことを聞かずに暴れる従魔も少なからずいるんだ。王都ではそういった事故が起きないように、仮に起きたときにはかなり重い罰則を適用しているくらいだ。」



「なるほど、私はそもそも便宜上従魔として登録しているだけであって、マーブル達を従魔だとは思っていませんし思ったこともありません。恐らく、そういった人達は従魔を使い捨て程度にしか考えていないと思いますね。で、強いか強くないかだけで判断してしまい、結局自分より強い魔物を集団で押さえつけて無理矢理テイムしている、といった感じでは無いでしょうか?」



「うん、君の言った通りだよ。というより、テイムのやり方とはそういったもので、そのやり方が常識なんだ。逆に聞くけど、君はどうやって彼らを仲間にしたのかな?」



「ギルドカードを見てもらえればわかると思いますが、私はテイマーのスキルがありません。ステータスはある程度隠蔽していることは事実ですが、私の持っているスキルは水術と格闘術と解体しかありません。ひょっとした調理術のスキルが増えているかもしれませんが、それだけです。魔力0と器用さ5は紛れもない事実です(泣)。」



「あ、ゴメン、何か触れてはいけないところに触れてしまったみたいだ。申し訳ない、話を続けて欲しい。」



「おっと、失礼しました。マーブルですが、以前住んでいた魔の大森林で大けがをしていましたので、襲っていた魔物達を倒してマーブルを治療したら、一緒に来てくれることになりました。ジェミニですが、タンバラの街でスガープラントの採取依頼を受けたときの採取場所で出会ってこうして一緒に来てくれることになりました。」



「なるほど、本当にテイムではなく仲間として加わっているね。そういったテイムの仕方もあるらしいけど、それだと弱い魔物しかテイムできないそうだよ。しかし、君の仲間は弱いどころか災厄レベルだ。これは参考にならないね。」



「気持ちの問題だと思いますよ。テイムされた魔物はきっかけこそ強引で多少不満に思うでしょうが、その後の接し方で大いに変わってくると思います。」



「確かにそうかもしれないね。っと、あまり関係ない話で長引いてしまったね。話はこれで終わりだよ。お疲れ様でした。素材は討伐した君達の自由にして良いから。買取の場合は説明したとおり相場の3倍で引き取らせてもらうよ。」



「ありがとうございます、ではこれで失礼いたしますわ。」



 代表してアンジェリカさんがギルド長に挨拶をして私達は買取窓口に向かい解体を依頼した。配分としては討伐して回収したのは全部で9体。そのうち私が倒した3体はこちらでもらい、残りの6体は戦姫がもらうことになった。最初は折半にする予定だったが、私達はすでに大量のミノタウロスを狩っているためあまり必要ではなかった。あくまでアマデウス神殿に寄付する分だけ欲しかったのでこうなった。その代わりといっては何だけど、ミノタウロスが持っていた武器はこちらでもらった。今のところ使い途はないけど、質は悪くない、というかむしろ良かった。いくつかはゴブリンのムラで使ってもらうのもいいかもしれない。



 買取は1体分だけお願いして、残りはこちらで回収した。ちなみにミノタウロスクラスだと、1体丸ごと大体金貨80枚くらいだそうだが、ほぼ無傷の状態だからと金貨100枚だそうだ。で、今回は相場の3倍だから金貨300枚だそうだ。解体費用は1体金貨1枚だが向こう持ちとのこと。残りの2体もとりあえず解体だけはしてもらうようにお願いした。解体班には傷がほとんどないから解体しやすくて助かると喜んでもらえた。これだと鐘2つ分の時間で余裕とのことだったので、夕食前当たりに回収に来ますか。アマデウス教会の訪問は明日にしますか。



 ギルドを出て戦姫達と別れる。帰りの屋台で少しパンなどを購入してホーク亭に戻る。ホーク亭に戻った後はねぐらに移って適当に昼食を摂ってのんびりする。ホーク亭には依頼で疲れたから夕食まで眠ると伝えてあるので多分その頃まで誰も来ない。折角だからお風呂と洗濯を今のうちに済ませますか。



 風呂と洗濯を終えてからホーク亭に戻り、メラちゃんにギルドに行くけどすぐに戻ることを伝えて再び冒険者ギルドへと行く。先程のミノタウロスの回収が目的なので裏口から入って2体分を回収してホーク亭に戻る。戻ったら夕食の準備ができたとのことだったので、食堂で頂くことにした。相変わらず見事な味だった。夕食を堪能した私達は部屋に戻ってマーブル達と心ゆくまでじゃれあい床に就いた。

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