第24話 ほう、こうしてワイワイやるのもいいですね。



 宿を出た私達は冒険者ギルドへ向かった。ギルドに入ると、いつも通り大勢の冒険者がいた。ランクがEになったので、依頼型のクエストを確認してみる。依頼型は討伐系が圧倒的に多いのかと思っていたが採集系も意外に多かった。どうしようか迷っていると、あれよあれよという間に依頼の紙を次々に冒険者達が取っていく。何か一昔前のデパートでのバーゲンセールを彷彿とさせる。といっても実際に見たことはなかったのだがそんな雰囲気を感じた。



 残った依頼を見てみると、オークの討伐があったのでそれにしようと思ったが、依頼票にはDランク以上と書かれていたため、Eランクの私では受けられそうも無かった。これはこれで致し方ないので、いつも通り常駐型を受けるべくクエスト窓口に向かった。



「アイスさん、おはようございます。クエストの受注ですね?」



「おはようございます、エリルさん。依頼型を受けようと思ったのですが、残っていたのがDランク以上だったので常駐型を受けようと思います。」



「そうですか。わかりました。ところで、アイスさんはEランクの冒険者になったのですが、依頼型は1ランク上のクエスト受注可能ですよ。つまりDランク以上と書かれた依頼も受注可能ですが、どうします?」



「そうだったのですか、知りませんでした。けど今日は、常駐型を受けることにしますよ。」



「そうですか、わかりました。常駐型クエストを受注しました。あ、忘れてましたが、またアイスさんに指名依頼が来てますよ。確認しますか?」



「私に来たということは、採集ですかね。一応確認しますよ。」



「はい、依頼の内容ですが、昨日と同じでスガープラントの採集となります。今日の依頼主はホーク亭ではなく商業ギルドからの依頼です。10本を希望しておりまして、期限は7日以内で、依頼料は金貨6枚だそうです。受けますか?」



「折角なので承ります。しかし、商業ギルドからも依頼ってくるんですか? それにしても昨日の今日で依頼が出てくるなんて耳が早いですね。」



「商売は特に情報の速さと正確さが命だそうです。たまに依頼が来たりしますよ。素材などで冒険者ギルドから商業ギルドへ依頼することもたまにありますよ。」



「なるほど。では薬草などを採りつつスガープラントも採集してきます。」



「では、お願いします。でも怪我とかしないようにしてくださいね。あと、報告は私ではなく手続きの窓口にいるニーナにしてくださいね。」



「ありがとうございます。では、行って参ります。」



 また、スガープラントの依頼か。折角だから重量軽減と空間収納のスキルを試してみますか。



 南門に行くと、今日はモウキさんだった。



「おう、アイスとマーブルか。今日も採集か?」



「あ、モウキさん。はい、今日も採集です。」



「おお、そうか。ところでお前は冒険者登録したよな? 職業は何にしたんだ?」



「職業はポーターにしました、というか他に選択肢が存在しませんでしたけどね。」



「ポーター? そんな職業があるのか? それ以外になれないって、どんなステータスしてんだ?」



「隠す必要がない範囲で言っておきますと、私のステって魔力0の器用さ5なんですよ。」



「はあ? そんなステータス存在するのか? それにしても魔力0なんて初めて聞いたぞ。」



「でしょうね。まあ、こればかりはどうしようもないですしね。」



「そうだな。俺からはお察ししますとしか言えねえが、気を落とさずに頑張れよ。」



「ありがとうございます。」



「おう、気をつけて行ってこいよ。」



 モウキさんと軽く話をしてタンバラの街を出る。行き先は昨日と同じ場所だ。念のためマーブルに転送ポイントを用意してもらったが、薬草などの採集もしておきたいので魔の大森林にある群生地へのんびりと向かうことにした。といっても方向はマーブル任せだけど(泣)。



 少し歩くと薬草の群生地があったので、とりあえず15束ほど頂いていく。提出は10束くらいにしておいて袋に入れておく。最低限のクエストはこれで達成した。残りは早速空間収納を試してみる。『収納』と念じるだけで薬草は消えた。『取り出し』と念じるとあっさりと薬草が出てきた。何度か試してみると1枚ずつ取り出せることがわかった。しかし、いきなり空間から物が出たり入ったりするので、何だか気持ち悪いので別の袋を用意してその中で収納と取り出しを行ったら簡単にできた。流石は職専用のスキルといったところだ。



 今度は重量軽減のスキルを試そうと、ソリに対して試そうかと思ったが、考えてみたら元々ソリは接地面を水術で氷にして運搬しているため、重さはほとんど感じない。ぶっちゃけやるだけ無駄である。そこで今回は蕪、じゃなかったスガープラントを引っ張るときに試そうと思った。昨日は思ってもみなかった援軍のおかげで引っ張ることができたが、もともと最初は掘って採取していたので、苦労はしていない。まあ、引っ張るのは案外楽しかったので今回はどうしてもだめだったときに最終手段として掘り出すことにする。



 途中で今度はこちらに敵意のあるオークに遭遇したが、問題なく倒して収納に入れようとしたが、1体しか入らなかったので、残りはいつも通りソリに入れた。さらにゴブリンやファングウルフと識別に出ていた魔物が襲いかかってきたので、こちらもあっさりと倒してソリに放り込んだ。そこそこの量をソリに入れたので残りの容量が気になってソリの中を確認したら、かなりの余裕があった。あれ? と考えているときにマーブルが得意げにしていたのを見て、マーブルが拡張してくれているのがわかったので、お礼の気持ちで頬ずり+モフモフすると喉を鳴らして喜んでくれた。なんて気の利いた猫なんだ。お父さんは嬉しいよ。



 現地に近づくと、魔物の気配がしたが、いずれも敵意を示す物はなかった。ひょっとしたら、昨日のメンバーが今日も来ているのかもしれない。少しわくわくしながら現地に向かった。



 現地に到着すると、オークやオーガ達がスガープラントを引っ張っていた。昨日より数は多かったが、オーク達もオーガ達もそれぞれ別々に行動していた。オーガはまだ戦ったことはないが、オーク達は何か先程襲ってきたオーク達とは何か違う気がした。ゴブリン達も襲ってくる種類とムラにいるカムドさんたちの種類とは違っていたのでゴブリンだけで無く他の種族でもそういった違いがあるのかもしれない。とりあえず鑑定かな。



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『フォレストオーク』・・・理性のある種類のオークじゃ。基本温厚でこちらが攻撃してこない限りは襲ってくることはないぞい。いつものオークだと思って攻撃すると大火傷を負うから気をつけるのじゃぞ。


『フォレストオーガ』・・・理性のある種類のオーガじゃ。こやつらは基本争い毎を嫌っているからおとなしいが、戦闘となるとドラゴンと1対1でも戦えるほど強いぞい。


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 やはり、違う種類だったか。まあ、こちらから戦うことはないから問題は無いかな。では、こちらも採集といきましょうかね。



 私達が到着すると、それぞれ別々に作業をしていたオークやオーガ達がこちらにやってきた。やはり昨日のオークとオーガ達がそれぞれ仲間をつれて引っ張っていたようだ。昨日のオークが早速話しかけてきた。



「あーっ、昨日いた人間だー。ねー、ちょっと手伝って欲しいんだけどぉ、っていうかマジこの植物引っこ抜けないんですけどぉ。」



 あの外見で出てくるこの言葉は相変わらず違和感ありまくりだった。返事を返そうとすると、今日はオーガも話しかけてきた。



「おお、昨日の人間か。この植物は美味かったから今日も取りに来たのだが、なかなか引っこ抜けなくて困っているんだ。今日も手伝ってくれないか?」



 オークとオーガの両方から手伝いのお願いが来た。断る理由がないので、引き受けた。とはいえそれぞれ別々に引いても面倒なので、昨日と同じくみんなで引くことを提案した。オーク達もオーガ達も賛成してくれたので一緒に引っ張ることにした。



 昨日の今日なので、ある程度コツはつかんだつもりだ。私を先頭にしてオーク、オーガの順に並んで綱引きの要領で引くことを提案した。一緒に引くが、息がバラバラで上手く引けそうに無かった。そりゃ、オークもオーガも言葉が違うし、あくまで私はそれぞれの言葉がわかるだけで共通語を使っているわけでは無い。それでも引っ張っていると息が合ってきたのを感じ、夢中になって引っ張っていると、いつの間にかマーブルが「ニャッ!」とかけ声係をしていた。みんな、それに併せて引くようになるとさらに息が合ってきて順調に抜けてきたので、さらに気合いを込めて引いていくと、何とか1本引き抜くことができた。



 みんなで喜びを分かち合いながら2本目に取りかかって引っ張っていると、昨日いたウサギ達が今度は長めの蔦をくわえてこちらにやってきた。ウサギ達の1匹が話しかけてきた。



「昨日の人間さん。あの植物はとても美味しかったのです。今日もオークさんやオーガさん達が引っ張っているのを見て参加したかったのですが、私達だけでは引っ張るのは無理だったのです。だから昨日みたいに縛ってもらって一緒に参加してあの植物を食べるのです。」



 ウサギ達が参加表明をしていると話すと、オーク達もオーガ達も賛成してくれたので、一緒に引っ張ることにした。一角ウサギとは違って角が無い種類なので、気になって鑑定をしてみた。



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『ヴォーパルバニー』・・・殺人ウサギとも呼ばれる獰猛なウサギじゃ。外見に騙されて殺された冒険者は数多いのう。ただ、不思議とお主に対して害意は感じられないのう。とはいえ、仮に敵対していたとしてもお主なら倒せるじゃろう。それ以上に何だかお主にはなついておるから安心するがよいぞ。


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 まじか、そんなにやばいウサギっているんかい。まあ、敵意は感じられないからいいか。



 ウサギ達も参加して引っこ抜く作業を再開する。実はウサギ達もかなりのパワーがあった。それに加えてマーブルのかけ声に合わせたものだから、昨日より効率よく抜けるようになり、作業が終わった頃には50本以上の成果だった。



 昨日のようにスガープラントを山分けし、お互いの健闘をたたえ合ったあと、受け取ったスガープラントをソリにしまう。いい機会なので掘って採集したらもっと効率よく採れることを実際に実演しながら説明した。最初は驚いていたが、みんなで協力して引っ張るのが面白かったから一緒に引っ張っていたことを話すと納得してくれた。今度から掘って採集するみたいだが、必要な分は集められたからしばらくは採らないそうだ。



 また、ここはそれぞれの縄張りの丁度境に位置しているためこうして争うこと無く採集していたそうだ。本来なら私達は侵入者として攻撃対象になっていたかもしれなかったが、目的がこの植物であり特に害意を感じなかったのでああいった結果になったそうだ。さらに、今後この周辺は自由に来てよいとの許可をもらった。ありがたいことだ。それぞれにお礼を言ってこの場を後にした。タンバラの街に着いたのはやはり昨日と同じように門が閉まる直前だった。



「おう、アイスにマーブル、戻ってきたか。早く入らないと門を閉めるぜ。」



「あ、モウキさん。すぐに入りますから、そうせかさないでくださいよ。」



「どうだ、しっかりと採集はできたか? あと、カードを出してくれ。」



「はい、カードです。採集はバッチリできましたよ。」



「そうか、それはよかった。ほれ、カードを返すぜ。」



「はい、おつとめご苦労様です。」



 そんな遣り取りをしながら、タンバラの街に戻った。

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