第5話 ほう、出会いとはすばらしいものですな。

 今日は早速バーニィを装備して出かける。採集場所には獲物がでてきていないとはいえ、絶対に出ないというわけではない。本音で言えばどちらかというと試してみたい気持ちの方が強かったりする。とはいえ、時間もたっぷりあるわけではないので、ねぐら周辺にしぼって採集を行っていく。今日は石鹸の代わりになるものを優先的に探していく。もちろん香辛料などの調味料になる素材も欲しいが、それは今持っているものでも何とかなっているので、石鹸の後でかまわない。


 鑑定スキルを香辛料と浄化効果のものに絞って周りを調べてみると、全くもって見つからない。見落としているだけで結構あるんじゃないかと思っていたがそうじゃなかった。文字で頭がパンクする未来が浮かんでいたが、文字の「も」の字も出てこなかった。


 全く見つからないことに多少悲しさと悔しさを交えながら探索を続けていると、少し遠くで何か音がしたような気がする。足を止め注意深く音の方向を見てみると何やら人影っぽいものが数体見えた。よし、鑑定さん出番ですよ。


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『ゴブリン』・・・人型の魔物で、とにかく数が多いんじゃ。ゴブリンには人を襲う集団とおそわない集団がおってのう、この連中は人を襲う方じゃ。集団戦に長けておるから囲まれないように上手く水術を使う必要があるぞい。某○双系のゲームみたいな振る舞いは厳禁じゃぞ。

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 ほう、これがゴブリンですか。で、数は、と、3体ですか。相手はこちらに気づいておりませんね。大事なのは倒すことであり、きれいに勝つことではない。というわけで不意打ち決定。1体でも減らせれば万々歳。さて、いきますよ。


「バーニィ起動。」


 両腕の外側に一角うさぎの角を模した氷の塊が現れた。これを出すときの合図だ。別に合図なしでもいいじゃん、と思うかもしれないが、これはロマンであり様式美であります。避けて通ることはできないのですよ。本当は何も言わなくても起動しますが、宣言した方が何かいいよね。


 合図のせいで気づかれたかと思ったが、幸いにも向こうは気づいていない。距離はあるのでもちろん突っ込むようなまねはしない。折角の不意打ち、大いに利用させてもらう。


「バンカーショット」


 とりあえず、左右3発ずつ計6発をそれぞれ3体に向けて放った。2体は狙い通りに頭部に刺さり、ショットが弾けてこれを撃破。残り1体は勘がいいのかこちらに気づいたため、頭部への攻撃は避けたが、武器を持っている腕に刺さりショットが弾けて破壊した。


「グギャーーーー」


 あまりの激痛にゴロゴロ転がりながら、ゴブリンは大声を上げる。その声に応えるように3体増援が現れた。


ゴブリン3体はこちらに向かってくる。こちらもバーニィを構え直し迎撃態勢を整える。3体は私を取り囲もうとするが、囲まれては厳しいのでこちらは囲まれる前に水術を使った高速移動で1体ずつ攻撃すれば問題ない。まず正面にいた1体の至近距離まで移動すると、あまりの速さに正面のゴブリンはひるんだ。攻撃チャンスだ。


「バーニィバンカー!」


 バーニィの本来の攻撃距離だ。バーニィは距離と威力が反比例しているので、バンカーショットでさえ頭部を破壊できる威力があった、ということは至近距離だと最大限の威力を発揮する。フックの要領でゴブリンの頭部に突き刺し爆破。もちろん一部だけ爆破させて威力をおさえる。一部だけでもゴブリンの頭部は破壊された。一丁上がりだ。


 残りの2体も危なげなく倒せた。ゴブリンの素材で使えるものがあるか鑑定すると、『肥料としてはつかえるが他には特にない』とのこと。折角なので持っていた得物だけを頂いていく。中でも増援の3体の誰かが持っていた大剣が上手い具合に折れていて斧みたいな使い方ができそうだ。これで木を切ったりできることが確認できたので、これからいろいろと作っていきますか。


 さて、小説では死体は処理しないといけないとのことだったので、水術で凍らせて一カ所にまとめる。まとめたら今度は水分を抜き去ってからからの状態にする。肥料にするのになぜ血抜きかというと、血のにおいで他の魔物が来てしまうといろいろと面倒そうだから。ある程度の穴をバーニィで掘り死体を埋めて任務完了だ。ほんとうに水術様々だ。


 このあと、ゴブリンから手に入れた得物を使って木や竹を何本か手に入れてねぐらに戻り、ねぐらに戻って竹の水筒やら木で入れ物を作ったりして過ごした。木で入れ物を作るといっても釘があるわけでもなければ、木を組み合わせて何かを作ったりする技術なぞ持ち合わせていない。どうしたかというと、バーニィやナイフなどを使って強引に木を削ったのだ。使えるものは使わないと。木を削る作業は地味に疲れた。元々ちまちまとした作業は苦手なので余計に神経を使った。


 木の入れ物は時間がかかったが、入れ物よりもそれにかぶせる蓋の方が正直時間がかかった。それでも作った甲斐はあった。これで蒸し料理ができるというもの。早速作ってみたところ、かなりおいしくできあがった。


 このまま一ヶ月くらいが過ぎ、この生活にも慣れてきて探索範囲も広げていくと、ゴブリンの他にオークや熊、イノシシなどの定番の獲物にも遭遇した。最初は戸惑いこそあったが、今では肉や素材にしか見えないくらいまで楽に仕留められるようになっていた。集められる素材が増えていき、保存している肉も大量で文字通り「腐るほどある」状態にまでなっている。ねぐらも初期と比べるとかなり広くなっており、素材の保管庫や肉の保管庫などといったように用途別に部屋ができているほどだ。そろそろ山を下りても大丈夫そうかなと思っている。とはいえ、探索範囲を広げても一向に人はおろか獣道すら見つかっていない。いくらなんでもこれはおかしいだろ。それともひょっとして自分は極度の方向音痴なのか? といった疑問が浮上してくる。とはいえ、今の段階ではどうにもならないのでいつでも山を下りる準備だけはしておこう。


 いつも通りの探索を行っていると、ゴブリンの集団が何かを取り囲んでいた。普段だと多くても5体くらいなのだが、この集団は20体くらいいて、集団で何かの1匹を攻撃している。攻撃されている1匹はひたすら耐えている状態だ。ゴブリンがこれだけ多くいると探索にも差し支えるので、とりあえずここにいるゴブリンは倒しておきますか。


「バーニィ起動」


 戦闘開始の準備を終えると、いつもより多くのバンカーショットを集団に放つ。半分の10体くらいは仕留められたかな。残りは格闘術の訓練もかねて近距離でやってしまいますか。


 この戦い方にも慣れてきたおかげで、ほぼ完勝できたと自画自賛しておく。品質のいい状態の得物だけもらって、あとは囲まれていた1匹のもとに移動する。かなり傷ついていたので、竹で作った水筒にいれておいた、ねぐらのわき水を人肌程度に温めてから傷口を中心にかけた。


 傷と一緒に汚れも流すと、そこにいたのは1匹の猫だった。猫は最初は近づく私に警戒しまくりの状態だったが、動けないので警戒するだけだったが、わき水をかけていくうちに警戒の色は薄まり、かけ終わる頃にはかなりリラックス状態になっていた。最初はかなり大きかった体がリラックスしてくると何だか小さくなっていった。濡らしたままだとかわいそうなので水術で乾かすと、まだ汚れは残っているものの、三毛猫のような模様だった。よし、ねぐらに連れて行って治療と洗浄をしっかりやろう。


 連れ帰ろうと手を伸ばすと、猫は嫌がるそぶりもなくそのまま私の腕の中に収まった。控えめに言って超かわいい。心の中ではテンションが上がりまくっていた。どれだけかというと、バーニィの完成や風呂場の完成という、どう考えてもこれ以上嬉しいことはないだろうという出来事以上だ。速く連れ帰ってきれいにしないと。肉はたくさんある。いっぱい食べて元気になってもらわないと。


 ねぐらに戻ると、まずはご飯を用意した。といっても解凍して温めた一角うさぎの肉だ。食べやすいように一口大にちぎった。おいしそうに夢中になって食べていた。食べ終わると、まだ食べ足りないらしく、物欲しそうな目でこちらを見た。こんな表情をされては嫌とはいえない。喜んで追加分を作ると、嬉しそうな表情で食べ始めた。しばらく作っては食べ、作っては食べを繰り返し、一角うさぎ1体分の肉を食べ終わると満足そうに体を丸めた。いつの間にか傷はなくなっていた。次はお風呂だ。しっかりときれいになってもらいますよ。というわけで、風呂場からお湯をくんで猫にかけていくと、猫は嫌がらずにむしろ気持ちようさそうな表情だった。お湯をたくさんかけて汚れを落としていく。汚れがしっかりと落ちたところで乾かしてあげるとそこには、とら猫模様のマンチカンが鎮座していた。


「か、かわいい。控えめに言っても超かわいい。かわいさを表現できる言葉が思い浮かばない。いい歳したおっさんが言う言葉じゃないですが、かわいいものはかわいいのです。」


 はっきりと言っておきましょう。わたくし、こお、じゃなかったアイスは大の猫好きです。特にとら猫模様の猫が大好きです。思いっきりドストライクです。たまりません。ウサギのモフモフも最高でしたが、猫は別次元です。さて、問題はこの猫ちゃんが、元気になったらここを出て行くかどうかです。私はテイマーのスキルはありません。この世界にあるかどうかもわかりませんので、こちらが一緒にいたくても向こうが嫌であれば一緒にいられません。さて、どうしましょうかね。猫ちゃんを鑑定して確認しつつ落ち着きましょうかね。


「では、鑑定。アマさん、頼みます。」


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 名前 < なし >  種族 【 デモニックヘルキャット 】


 年齢 < 5ヶ月 > 性別 ♂


 レベル   1    職業 アイスのペット


 生命力  30/ 30


 魔法力  20/ 20


 腕 力   5(16)


 体 力   8(15)


 器用さ  16(25)


 知 力   7(15)


 魔 力  16(25)


 幸 運   5(20)


 [スキル]格闘術 5、 身体強化 3、 気配探知 6、 罠探知 2、

      火魔法 1、 風魔法 1、 闇魔法 1


 [称号]アイスのペット(極)

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 おーー、私のペットになってるーーー。これは嬉しい。前世では、どう背伸びしても届かなかった存在の猫がついに我が手に。これだけでも転生してよかったと思うよ(号泣)。


 しばらく喜びに身を任せていたが、どうにか自分を落ち着かせて鑑定結果を確認する。


「なるほど、本当に子猫だったとは。しかし、デモニックヘルキャットって何かすごそうな種族ですな。まあ、猫でしかもかわいければ問題なし、それどころか魔物の種族ということは、私よりも長生きしてくれるということ。いいことです。」


 種族的に気になるところがあったので、称号も含めてアマさんに聞いてみますか。能力やスキルは特にいいかな。


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『デモニックヘルキャット』・・・危険度の高い猫系の魔物じゃ。成体じゃとその強さはドラゴンに匹敵するぞい。もっとも、成長は遅めじゃし、今はお主を主人として認めておるから大丈夫じゃ。周りに知れると何されるかわからんから、隠蔽しておいた方がいいかもしれんの。あ、名前を付けてかわいがってやるのじゃぞ。

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 この猫そんなにやばい存在だったのか。スキルも多めだし強いのは当然か。とはいえ猫であることに変わりはないからこの姿のままでいてもらおう。種族は普通にマンチカンに変えておきますか。名前はどうしようかな。よし、茶と白の見事な模様からとって『マーブル』としますか。


「猫ちゃん。君の名前を『マーブル』と名付けます。マーブル、これからよろしくね。」


 マーブルは「にゃー」と返事してくれた。喜んでくれてるといいな。


「では、マーブル。明日に備えて寝るとしましょうか。」


 ウサギ皮の敷物を敷いて横たわると、マーブルが私のお腹の上に乗って丸まってきた。これは嬉しい。今まで以上に気分良く眠れそうです。これからが楽しみでいっぱいです。一緒にいろいろなところに行こうね。


「おやすみ、マーブル。」


 私は幸せな気分で夢の世界に旅立ちました。

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