万能リモコン

 万能リモコンは万能だ。


 作った人は天才だと思う。


 単三電池二本で動くこのリモコンを、ぼくは手放せなくなってしまった。


 一日がつまらなければ、早送りしてしまえばいい。


 考えたいことがあれば、一時停止してその間に考えればいいし、上司がガミガミとうるさいときはミュートにしてしまえばいい。


 恋人との甘い時間は、もちろんスロー再生だ。


 みんなそうしている。


 楽しいことは長い方がうれしい。


 つらいことは短い方がうれしい。


 だけど、このリモコンには一つだけ欠点があった。


 まき戻しの機能がついていないことだ。


 だれだって、やり直したいことがある。


 失敗したこと、間違えたこと。


 それをやり直せたら、どんなに素敵なことだろう。


 だけど、逆にこうも思う。


 もし初めからやり直せるとわかっていたら、ぼくは頑張る事をやめてしまうんじゃないだろうか。


 いや、ぼくだけじゃない。


 世界中の人が『後でやり直せばいいや』って、頑張る事をやめてしまうんじゃないだろうか。


 それは、なんか嫌だった。


 結果だけよければいい訳じゃない。


 頑張るから、楽しいんだと思う。


 やり直せないから、やる前にちゃんと考えるんだろうし、やったことに対して責任をもてるんだと思う。


 もしかしたら、万能リモコンを作った人はそこまで考えていたのかもしれない。


 やっぱり、万能リモコンを作った人は天才だ。

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